第174話


 入学が確定してから2日、カイとミカは一緒に学園に向かっていた。

 白を基調とした制服を着ており、カイもミカも上は似たようなデザインで、カイは長ズボンでミカは動きやすいように短パンになっていた。

 カイ達が周りを少し見ると、既に学園の近くに来ていたため同じ制服を着た生徒がたくさんいた。2人はその中に紛れるように歩いていた。


「こんなに注目されないで通学するなんて初めてなんじゃない?」

「途中からは宿から通ってたおかげで注目されなかったから初めてでは無いよ」

「そう言えば宿代はどうしてたの?」

「アルさん達に借りてた。あっちにいたときには返せなかったからそろそろ返そうと思ってるけどね」

「あれ?でも数ヶ月も宿に泊まれる程稼いで無いよね、私達」


 最初のダンジョン探索でもめてから、2人でモンスターを売った時の取り分は半々にすると決めていた。そのためカイの稼いでいる額はミカにも分かっている。自分達が稼いだ金額では払えないと思っているミカにカイは笑いながら答える。


「確かに今まで売った分だと無理だけど、まだとってある物があるし、俺が1人で探索した時のとっておきがあるから」


 そう言ってカイは袋の口を広げた状態でミカに向ける。ミカは特に考えもしないで手を入れると、驚いた顔になる。


「ね?これをそのまま売れば高値になりそうでしょ」

「こんなのいつの間に…」


 それからも軽く話しながら歩いていると学園が見えて来た。




 学園の門についたため流れで中に入って行ことしたが、門の前に主に女子生徒で出来た人だかりがあった。

 2人は来るときは学園長室に来るように言われていたため、人だかりが気になったがそろそろ約束の時間になってしまうためにスルーしようとした。


「カイー。ミカー。居らんかのー?」


 するとその中心にいるであろう人物から呼びかけられる。視線をそちらの方に見えるが、生徒が群がっていて声をかけて来た人物は見えない。


「…何か聞こえた?」

「何も聞こえて無いよ?ほら早く学園長室に行こう!」


 2人はそそくさとその場を離れる。


「2人とも時間だと言うのに来とらんのか?そんなことは無いかと思うがのー。もう少し待ってみるかの。それよりもお主ら!そろそろ授業じゃぞ!はよ行け!」


 門の前でカイとミカを待っているシャリアの怒声が響くがそこまで怖くなかったため誰も教室に行こうとしなかった。




 以前来た道を思い出しながら歩くと、学園長室が見えてきたためカイが扉をノックする。


「どうぞ」


 すると以前来た時とは違う女性の声が聞こえる。2人で入ると、部屋の隅の方で以前は無かった机で女性が書類作業をしていた。


「カイ君とミカさんですね。こちらにお座りください」


 女性は仕事の手を止めてカイ達をソファーに座らせると、紅茶を入れ出した。


「これを飲んでお待ちいただいてよろしいでしょうか?」


 2人が返事をすると、彼女は部屋の奥にある窓を開けてそこから飛び降りた。

 突然のことに驚いて窓から下を覗くと女性は何事もなかったかのように着地してすごい速さで駆け出した。

 女性が見えなくなり、2人はソファーに座り直して数分すると扉が開かれる。


「2人ともどこにいたんじゃ?!」

「だから言いましたよね?学園長はここでお待ちくださいと」


 そこには首根っこを掴まれながら運ばれているシャリアと、先程窓から飛び降りた女性がいた。

 女性はそのまま部屋に入って器用に扉を閉めると、カイ達が座っているソファーとは反対のソファーにシャリアを座らせる。


「待たせてしまって申し訳ありません。遅れましたが私、副学園長兼シャリア様の秘書をしております、サリーでございます。今後会うことも多くなると思いますので以後お見知りおきを」


 シャリアの後ろで綺麗にお辞儀をする彼女を見て2人もお辞儀を返すと、シャリアが喋り出した。


「2人も来たことだしの。さっそく移動するぞ」


 先程座ったばかりだというのにシャリアが立ち上がったため、カイ達は急いで紅茶を飲み干しシャリアについて行く。


「今からさっそくカイ達が入ることになる教室に行くからの。行きながら説明するぞ」


 シャリアはウィリティ学園がどのような学園なのかを話し出す。

 午前は同じ教室にいる者同士で授業を受けること、午後は選択した授業の所に行くことになっているが、2人は編入のためシャリアが決めたことを言った。

 その中でも午前は同じ授業を受けることに2人は驚いていた。


「王国の学園は貴族と一部の平民が通う物になっておるじゃろ?それは良くないと思っての。誰でも通えるようにしたのじゃ。中には一般常識を知らない者もおるからの。だから午前は一緒に基本的な授業を受けるのじゃ。それにいろんな奴がいた方が面白いじゃろ?」

「シャリア様、その笑い方は良くないですよ」


 隣にいるサリーに注意されて反省していない口調で謝るシャリア。

 そんなシャリアの言葉でカイとミカはここが王国とは全く違う場所なのだと認識することが出来た。




 少し待っているように言われ教室の前で待っている2人は少し緊張していた。

 シャリアが教室に入ると女子からの歓声が外にまで聞こえてくる。壁と扉だけではそれを塞ぐことが出来ず、2人は咄嗟に耳を塞ぐ。

 少しして歓声が止むと扉が開けられる。開けたのはサリーで2人に入ってくるように言ったため2人は順番に入っていく。


 中に入ったカイ達は生徒達と対面すると、その中にはルナの姿があり驚いた顔をしていた。周りも見てみると、数人見たことのある顔だった。その数人はカイの顔を見た瞬間に騒ぎ出す。


「静かにせい!交流戦で会ったからと言って騒ぐな」


 騒いでいた生徒は王国と帝国の交流戦に出場していた生徒達だった。

 シャリアのひと言で皆が落ち着くとシャリアが話し出す。


「今日からこの2人はこのクラスに入ることになったからの。質問は後でやっとくれ。2人の席はあの空いてる所じゃ」


 自己紹介は無いのかとシャリアを見ると、シャリアは気にした様子もなく教室から出て行った。


「えっと、カイ君とミカさんですね?学園長の言ったようにあなた達の席はあそこです。学園の案内は…」


 男性教師が教室を見渡すと、突然ルナが立ち上がった。


「先生!私が案内します!」

「そうですか。なら案内はルナ様にお任せします。2人は分からないことがあったらあの子か私に聞いてください」

「分かりました」


 2人で言うと、2人は言われた通りに席に座った。

 その際、先程騒いだ生徒達はカイ達のことを怪しい物を見るような目で見ていた。

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