2章 閑話 父の最後
ある上級貴族の本宅、その本宅の地下には緊急脱出用の秘密の出入り口へとつながる道があった。
そんな所で隠れている2人いた。
片方は物陰から時々顔を出し周りの様子を伺い、片方の男は足から大量の血を流していた。
「私のことはもう、良いです。早く逃げてください…」
「バカのこと言ってんじゃねぇ。お前を見殺しにしたらフラージュに殺されちまうよ」
周りの様子を見ている男はアルンで、足を怪我しているのがラクダレスだった。
2人はアルゲーノスの所有する施設をしらみつぶしに調べていた。そこでようやくアルゲーノス家が他国から情報を買っている手がかりを見つけた。そした後は取引相手が誰なのか見つけ出すだけだったのだが、施設には証拠は無く、一番情報がある可能性が高いが一番危険な本宅に侵入するしかなくなった。
2人が侵入したは良いが、以前フラージュが侵入したのとアルン達がアルゲーノス家の建物に立て続けに侵入していたために警備が厳しくなっており、ラクダレスが足に矢を受けてしまったのだ。即座に逃げようとしたのだが、完璧に包囲されてしまい負傷しているラクダレスをつれて逃げるのは絶望的になってしまった。
そこでアルンはアルゲーノス家の者と執事長、メイド長しか知らない秘密の通路ならば時間が稼げると思い逃げ込んだ。
案の定時間稼ぎが出来たため、今はどうやって逃げるか作戦を考えながら休憩していた。
「あなた1人だったらここから逃げられるでしょう。だからどうか…」
「黙っとけ」
アルンは素早い手つきでラクダレスの口の中に清潔な布をかませる。驚いたラクダレスはアルンのことを見ると、アルンは手に炎を集めていた。するとその炎を足の傷に当てて止血し始める。
ラクダレスの苦痛の声が辺りに響く。ラクダレスは咄嗟に声を上げないように歯を食いしばる。
炎を当てるのを止め、荒い息遣いでいるラクダレスに目線を合わせる。
「良いか、よく聞け。頼れるのはお前だけだ」
「な、なにを言って…」
「あそこから出ても兵士は大量にいるはずだ。さっきから巡回してる兵士の足音が嫌って程聞こえてくる。今のお前と俺じゃ捕まって殺されるのがオチだ。だから俺が先に勢いよく出て囮になる。出来る限り目立つようにするからその隙に逃げろ」
そんなのは納得できないとラクダレスが大声で言おうとした所でアルンが強引に手で口を塞ぐ。
「考えろ。ここから逃げられるのはもう1人だけだ。俺が生き延びたとするぞ。アルゲーノスから延々と追われるんだ。今まではなんとか逃げてこれたがそろそろ限界だったはずだ。お前も気づいてるだろ?逆にお前が生き延びたとする。あいにくお前の顔はバレてねぇ。ならお前の方が自由に動けて調べられる。そうなれば早くアルゲーノスをつぶせる。フラージュもミカも救える」
「救った時にあなたがいなかったら意味が無いでしょう!」
無理やり手を剥がし大声で言いつける。それでもアルンは表情を変えずにラクダレスのことを真っすぐ見る。
「さっきも言ったはずだ。そろそろ限界だったって。それにミカもいる。正直これ以上は無理だ」
「諦めるんですか!」
「じゃあこっから逃げられる作戦でもあんのか!?」
「私が囮になればいいでしょう!」
互いが睨みあう。2人とも相手に生きていてほしいから1歩も譲らない。だがこれ以上話し合っている猶予はもうない。
アルンはラクダレスから視線を外し袋の中を漁り出す。
「聞いてるんですか!?」
「これはお前にだ。出来る限り逃がせるようにするが出来なかったときに迷わず使え。威力は3倍くらいは強くなってるはずだ。袋は隙をついてフラージュに返してやってくれ」
アルンは袋から自作した魔法陣を刻んだ魔封石と仮面を取り出す。ラクダレスに袋と魔封石を無理やり渡す。
「何をしてるんですか!私が囮をすると言ってるじゃないですかっ」
ラクダレスが一生懸命言っているが、アルンは無視して出入口に向かおうとする。
ラクダレスは行かせまいとアルンの足にしがみつくが、振りほどかれてしまう。
「フラージュとミカに愛してるって言っといてくれ。さっき渡した魔封石、悪用すんじゃねぇぞ、親友!!」
最後に笑顔を見せてからアルンは仮面をつけて走り出してしまう。
歩けないラクダレスは手を精一杯伸ばすが、その手は届くはずがなかった。
出入口から出たアルンはすぐに兵士達に存在がバレた。兵士達が取り押さえようとして来るが、アルンは周りに炎をまき散らしながら進んでいく。
元々戦闘が苦手なアルンだったが、フラージュに鍛えてもらい最低限戦えるようになっていた。それでも最低限のため全ての攻撃を避けられるはずもなく、火傷や凍傷、切り傷や矢が刺さるがそれでもアルンは走り続ける。
その甲斐もあって兵士達はアルンを捕まえる者達と建物を鎮火する者達に分かれる。
(もっとだ。もっと注意を引きつけねぇと)
今いる場所はアルゲーノス家の本宅の裏。近くにある建物は全てアルゲーノス家の所有物だ。だからこそアルンは躊躇いもなく燃やしていく。そして火の手はアルゲーノス達がいる屋敷にまで届く。
そこでアルンの頭の中にあることが浮かぶ。浮かんだことを実行するために屋敷の中に窓を割って飛び込む。
(ハハッ、フラージュ達が本宅にいなくてホントに良かったわ。わりぃなラクダレス、フラージュ、おめぇらの任務を邪魔しちまって。でも俺は俺なりにフラージュとミカを救いてぇんだ!)
アルンは昔の記憶を呼び覚ましながら屋敷の中を進んでいく。
途中、兵士達とメイドが数人いたが、アルンは無視して進んでいく。兵士達はアルンを攻撃するが、アルンは攻撃をくらっても進んでいく。
そしてひと際大きく作られた扉を蹴破って中に入る。
そこにはアルゲーノス家の家長であるアルンの父と母、そして兄と執事とメイドが数人いた。
「な、何者だ!?なぜ侵入を許した!」
「早く追い出しなさい!」
父と母が声を荒げる中、アルンはつい力が抜けてその場で膝をついてしまう。
その間に兵士達が集まってくる。兵士の後ろにアルゲーノス達が逃げてしまう。
「(ま、まだだ。)これで…」
兵士達が武器を向けながらアルンに近づく。
(この兵士達もメイド達も執事達も巻き添えにしちまうが良いよな。俺のこと楽しんでいたぶってたもんなぁ!!)
昔のことを思い出し、アルンの中で怒りが生まれる。それが原動力となり立ち上がる。兵士達は警戒度を上げながらアルンに近づく。
アルンは仮面の下で笑みを浮かべながら、ローブの下に隠した魔封石に魔力を注ぎ込んでいく。
(フラージュ、わりぃな。色々助けてもらったのに何も返せなくて。ミカ、何もしてやれない父親を許してくれ)
兵士達はアルンのことを刺し殺そうとした瞬間、ローブの中から光が漏れだす。
ある兵士は急いで下がり、ある兵士はアルンのことを突き刺す。
刺されたアルンは自分の元家族のことを見る。
(てめぇらみてぇな屑やろうどもと一緒に死ぬなんて最悪だが、俺の女と娘のためだ。一緒に来て貰うぞ!!)
魔封石を握った手をアルンは前に突き出す。すると魔封石はより光出す。
魔封石に気づいた者達は急いで逃げ出す。その中には父と母、兄もいた。だが手遅れだった。
魔封石が急に光らなくなると、次の瞬間先程とは比にならないくらいにまばゆく光り割れる。
すると部屋の中が全て火に飲まれる。
一瞬にして部屋にいた者達は焼け死んでいく。そしてその火はどんどん広がり屋敷全てを飲み込んだ。
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