第184話


 まず、ダンジョンに入って感じたのは、その空間の寂しさだ。何も音はせず、ダンジョン全体の温度が外よりも少しだけ低い。そのせいで普段のダンジョンとは空気が違うように感じる。


「やっぱりいつ来てもアンデッド系のダンジョンは慣れねぇなー」

「そうかしら?私は慣れたわよ?」


 そんな話しを2人がしているのをカイ達は聞きながら、寒さで鳥肌が立った肌をさすっている。

 その中でラウラだけはいつも通りの顔で、ただただ真っすぐ奥を見ている。その目はどこか好戦的な物だった。

 ここの1、2階層に出てくるモンスターはラウラととても相性が良いため、戦いたくてウズウズしていたのだ。


「ラウラは戦わないでしょ?」

「2階層は戦わせて。ストレス発散になる」

「えっ?」


 カイの言葉を聞きラウラの顔が絶望した物に変わる。その顔を見てカイは笑いそうになるのを我慢しながら、隣にいるミカとルナに顔を向ける。


「2人ともどうする?」

「確か出てくるのは『スケルトン』だよね?あっ、そー言うこと!」

「確かに見てたら気持ちいかも。ラウラ先生にも戦ってもらおうよ。ラウラ先生も戦いそうにしてるしさ」


 ミカとルナの言葉を聞き、ラウラの顔は一変して目がキラキラしだす。

 カイは立ち止まり、ラウラに向けて深く頭を下げる。


「師匠、スケルトンがたくさん出て来た時はぜひ一掃してください。お願いします!」

「ん。任された」


 そう言ったラウラの後姿は今にもスキップしそうな程嬉しそうだった。

 それを見て、カイは嬉しくなり無意識の内に口角が上がっていた。




 ダンジョン内の冷気を肌で直に感じながら6人で固まって探索していく。

 すると、奥の方からカランカランやカタカタ、地面と金属が擦れる音が聞こえ始める。それを聞きカイ達はそれぞれ戦闘体勢に入る。

 目の前から現れたのは1体の骸骨で、その手にはルナが持っている物と同じ長さの剣が握られていた。その剣を引きずりながらフラフラとスケルトンが近づいてくる。


 カイがいち早く氷の手を伸ばすと、突然スケルトンは剣を前に横に構えてカイの攻撃を両手で受け止める。手が骨しかないためか刃の部分を握っていると言うのに全く痛そうにしていない。握っている剣だが、よほど強い力で握っているのか目に見えてヒビが入っている。カイが氷の手を引っ込めると剣がその場で砕け散る。破片が地面に落ちるが、スケルトンは持ち手を捨てて、破片の上を容赦なく歩いて来る。


 だが既にカイが攻撃している隙に近づいたミカとルナが手の届く距離に居り、先にミカが柄の部分で殴りつける。スケルトンは槍を右腕で受け止める。辺り一面にミシミシと音が響くが、スケルトンは開いている左腕でミカのことを掴もうとする。腕にヒビが入ったというのに痛みを感じた様子もなくスケルトンは動くが、その左腕をルナが蹴り飛ばす勢いで蹴る。だが、それをスケルトンは予期していたのか腕を止めて蹴りを受け止める。その時も先程と同じ様にミシミシと音が響く。

 両手がふさがったスケルトンは2人を離れさせるために回し蹴りを繰り出す。2人はそれを避けるために同時に後ろに跳び下がる。

 後ろに下がった2人の間を抜けてカイがスケルトンの前に出る。回し蹴りで片足が浮いた状態のスケルトンは、カイの跳びつき攻撃を両腕で受け止める。

 走って来た勢いもあったため、カイが跳びつくとスケルトンは後ろに倒れる。

 カイは最後に思い切り握るとスケルトンの両腕がバキッと音を立てて折れる。

 カイは握った腕の骨を手放してから離れる。

 スケルトンが立ち上がろうとした所でミカとルナが足の腕を砕くために動く。既に腕が無くなったスケルトンは何もできることが無く簡単に足が無くなる。

 ダルマ状態になったスケルトンは身を捩って何とか動こうとしてるが、少しも動くことが出来ずにいる。危険が無くなったと確認できたカイ達は全員でゆっくり近づく。

 近づいても攻撃することが出来ないことを確認したカイは、氷で作ったハンマーを作りスケルトンの頭を砕く。それまで身を捩っていたスケルトンは頭が無くなった瞬間にピクリとも動かなくなる。




 最初のスケルトンだったが、他のスケルトンは色々の武器を持っており、弓、大剣、槍、棍棒、メイスなど色々な種類の者がいた。その中には二刀流や剣に盾を持った個体もいた。そしてカイ達が一番驚いたのは杖を持った個体だ。だがスケルトンは魔法を使えないため、杖はこん棒の様に扱っていた。




 そして最初に言っていた、2階層に着いたためカイ達の前にラウラが立ちダンジョンを進んでいく。

 少しすると大量にスケルトンの足音と武器を引きずる音が聞こえる。そのためラウラは鼻歌を歌い出しそうな程の上機嫌な態度で杖を構える。

 そんなラウラの後ろではカイ達3人が構えるが、普段よりは力を抜いていた。

 スケルトンが約10体出てくる。剣、大剣、二刀流、杖、弓、盾だけなどの武器を持っていたが、ラウラはお構いなしに杖に魔力を溜めて行く。

 スケルトンは最初はフラフラと歩いて近づいていたが、近づいてくると武器を持ち上げて走ってくる。弓を持った個体は弦を引いて構える。

 スケルトンが矢を飛ばそうと手放した瞬間、ラウラは前方に強風をスケルトン達の上半身に当たるように生み出す。その風は矢を吹き飛ばし、走ってくるスケルトンは踏ん張って耐えようとする。

 だが、自分達の体の耐久値よりも、ラウラの風の攻撃力が上回り、一番前にいたスケルトンの上半身が吹き飛ぶ。その飛んで行ったスケルトンの上半身が他の個体に当たり、その個体は全身吹き飛んでいく。カランカランと音を立てて崩れるスケルトン達にラウラは気持ちよさそうな顔をする。

 面白いようにどんどんスケルトンの上半身が吹き飛んでいき、全てのスケルトンを吹き飛ばしたことを確認したラウラは魔法を止める。


 運よく巻き込まれた個体の中に動ける者が数体おり、ラウラのことを攻撃しようとするが、全てのスケルトンが吹き飛ばされたときに骨にヒビが入っていたり、部分欠損が出来ており、上手く動くことが出来ず攻撃するまでに行くことが出来なかった。

 スケルトン達が四苦八苦している間にカイ達が1体1体頭を飛ばして倒していく。


 倒し切った後、ラウラの顔を見るとスッキリした物になっていた。

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