第292話
異様な姿に全員が息を飲む中、なにも無かったかのようにウォッシュが喋り出す。
「良い物だろ。強靭な肉体に加え、全ての魔法を使える。俺が求めた最強な肉体だ」
4本の腕の軌道を確認するように動かしていると、姿勢を低く保ち突進して来る体勢になる。
砕くような、爆発音に似た音を聞いた瞬間、ウォッシュはカイの目の前にいた。咄嗟に氷を纏わせ、前に腕で防御を図る。そのカイの腕目掛けてウォッシュが大きく振りかぶり殴りつける。あまりにも強い衝撃だったためカイは後ろに飛ばされる。腕には氷が纏われていたはずだったのだが、カイが止まった頃にはなくなっており、地面を見れば氷の残骸が落ちていた。
「どうだ?スピードもパワーも先程とは段違いだ。お前達人間では勝てない」
次にシャリアの前に移動し、カイの時と同じように瞬時に移動して先程と同じ子劇を繰り出す。シャリアはそれが分かっていたかのように拳を振る。だが相殺するまでは至らず、カイと同じ様に後ろに飛ばされる。
シャリアを殴り飛ばしたことを確認する前にウォッシュは移動しており、今度はミカの前に現れた。また同じ様に腕を振るが、ミカはスピード重視の戦闘スタイルをとっている。そのためウォッシュの攻撃をとらえるなど容易な事だった。しゃがんで避けると腹を横一閃に切り付け、高速移動を使い後ろに下がる。
自分が傷を負ったことを信じられないと言った様子のウォッシュはその場に止まり、傷口を触る。
「何?血が……」
「戦闘中だけど?」
ウォッシュが固まっている内にフラージュが後ろに回って肩に跳び乗る。それでようやく正気に戻ったウォッシュは全力でフラージュのことを叩き落としに行く。それをちょっとジャンプするだけで避けたフラージュは腕を切りつけると、腹のときとは違って切ることが出来なかった。
空中にいるフラージュを殴りつけようとするが、拳が届く寸前でフラージュがいなくなる。周りを見ればフラージュはリオのすぐ近くに立っており、リオは伸ばした爪と糸を回収している所だった。
「腕が異様に硬い。全く切れる気がしなかった」
突然いなくなったフラージュを注視していたウォッシュは再度突進しようとしたが、横から強風が飛んでくる。あまりにも強い風だったため、カイ達を殴り飛ばしたときの様に飛んでいく。違う所と言えば、ウォッシュは着地が上手く行かず地面を転がる。
「体が大きくなった分飛ばない」
「イッタイのー。殴り返しただけで痺れとる」
「こっちは殴られただけですよ?もっと痛いですよ」
「いつも高速移動見てるはずなのにー。油断したでしょ?」
カイは青い炎の手を作り、ウォッシュから目線を外さないようにする。全員が武器を再度構える頃にはウォッシュは立ち上がり、信じられないと言った顔でカイ達のことを見つめる。
「なぜ、最強の肉体を手に入れたはずだと言うのに……。なぜだ。なぜ!!」
今まで怒りを前に出したことが無かったウォッシュが感情を前に出し始める。同時にウォッシュを中心にして地面が隆起し、植物が生え始め、強風が吹き始める。そして無作為に炎や氷、雷など全ての属性の魔法が飛び交う。
地面が棘の様に露出して来る上に、植物が絡み捕まえてこようとするため空中に逃げるが、今度は風で飛ばされる上に魔法が大量に飛んでくる。
「俺は、俺は最強だ!最強の俺がお前達に負けるはずがない!」
この中を進むのは難しいと考えたカイ達は氷の壁を生み出し、全員がその後ろに隠れる。
「あんな中進むの無理ですよ」
「分かってる。でもどうする?」
「さっき感じたんだけど、多い魔力に振り回されて魔力感知が出来てないよ。透明化したら簡単に近づけた」
「つまり不意打ちで魔法を撃てってことじゃな」
「それよりも簡単な倒し方がありますよ」
リオの言葉にカイ以外が視線を送る。カイもそちらの方に向きたかったが、ウォッシュの魔法が激しく、壁の維持で精いっぱいだった。
「あれだけの魔法、撃ち続けるのは無理です。現在、彼は暴走しているようでした。なので、自分で魔法を止めることも出来ない。待っていれば自滅してくれます。なので私達がする事は防御一択です」
「そうは言っても……」
「魔力感知の制度が落ちているので何とも言えませんが、あと1分。いえ、30秒も耐えれば私達の勝ちです」
考えた所、サイクロプスとの戦闘でかなり消耗しており、これ以上動くのはキツイと判断したため、ここで防御することに決めた。
カイの氷の壁が端からだんだんと崩れ始めると、今度はラウラが風の壁を作る。だが、氷程守ることが出来ないため自分達が自分のことを守り始める。
本人達にとっては数時間にも感じる物だったが、実際の時間は20秒程で魔法の応酬が止まったため、全員がその場で武器を構えながら止まる。先程の魔法の応酬でカイ達もかなり傷ついていた。
ウォッシュがただ立ち尽くし、自然生まれた風に吹かれると地面に倒れる。それ以上ウォッシュが動くことは無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます