第76話
カイは控室で袋を回収した後、自分の座っていた席には戻らずに身を隠しながら闘技場の周りを巡回していた。
そんな中、ミカも初戦を勝ち抜いたことが闘技場から聞こえ嬉しく思っていた。
初日は特に問題が起こらず、いつも通り5人で医務室に集まり報告会をした。
報告会では最初ミカがカイを取り巻く今の環境に落ち込んでいたが、カイがなだめると落ち着いた。その後、5人でしっかりと話し合いをし、良い時間になったため解散となった。
カイとミカを寮に送り終わったアルドレッドとセレスは宿への帰り道をゆっくり歩いていた。
「それにしてもカイとミカは圧倒的だったな。学園の生徒じゃ傷1つつけられそうにない」
「そうね、私は一応全部見てたけど、あの子たちと戦えるのは、カイとミカしかいなかったわね」
「なぁ、カイ達に勝てそうなやつはいるか?」
「そうね…。カイには誰も勝てないわね。ミカとは数人がいい勝負するくらいかしら?それ以外の子じゃ2人に勝てないと思うわ」
セレスが言ったあの子たちとは帝国の生徒のことで、カイとミカが帝国の生徒と戦った時、どのようになるのか今から楽しみにしていた。
「私もそう思うよ!」
突然後ろから声がしたため、アルドレッドとセレスは飛びのき戦闘体勢に入る。
「お前、誰だ?」
「ローブに仮面なんて怪しいわよ?」
現れたのは白色のローブに仮面をしており、怪しさ満点だった。
アルドレッドとセレスは強気に出ていたが、内心焦っていた。
(全く気付かなかったぞ!?何者だ?まさか…)
(後ろに突然現れたわね…。声からして女。カイが言ってたのは男だったから、目の前にいるのはローブ男達の仲間かしら?)
すぐ後ろに接近され、声をかけられるまで気づくことが出来なかった存在。そんなのが敵の根城で目の前にいるのだ、焦るのは当然だろう。
「そんな警戒しなくて大丈夫だから安心してよ。ここは誰か来たらマズイからあそこ行かない?」
白ローブの女は誰も来なさそうな路地裏を指さす。
「どうする?」
「…撤退しても追いつかれると思うわ。それにローブ男達のいる組織のことを知れるならこの機会を逃す手はないと思うわ」
アルドレッドとセレスは小さな声で短く話し合いついて行くことにした。
路地裏に入り、少ししてから白ローブが振り返る。アルドレッドとセレスは十分な距離を開け止まる。
「そんな離れないでよ…。まぁいいよ。まず、私はあなた達の味方だよ」
「…そんなもん信じろと?」
「信じられる証拠はあるのかしら?」
「これでどう?」
白ローブはローブの中を漁ると1つのアクセサリーを出してくる。
「お前が何故それを持ってる?!」
「あなた誰なの!?顔を見せなさい!」
「ごめんね。それはまだ出来ないの」
そのアクセサリーは帝国近衛騎士団の団員にしか配られない物だった。
「言えるのは、私はあなた達の先輩だよ。任務が終わったら、急にあなた達を手伝うようにって任務が来たから挨拶に来たの。じゃあもう行くね?」
そう言うとスーっと最初から何もいなかったかのように白ローブがいなくなる。
「セレス!!」
「分かってるわよ!……いないわ」
セレスはすぐさま魔力感知を使ったが、白ローブはもういなくなっていた。
「…う思う?」
「ここであれを拾うのは不可能だろ。そもそもあれが証拠になるなんて仲間しか知らないことだ。かと言って偽物だって線もあるが…。攻撃してこなかったことを考えると味方かもな」
「そうね…。念のため何者か教えてもらえるように連絡しましょう」
この場にずっといるわけにもいかないため、アルドレッドとセレスは急いで宿に戻る。
「お願いね」
そう聞こえたセレスは後ろを振り返ったが、そこには誰もいなかった。
2日目、カイは誰よりも早く闘技場に来て自分の相手を確認していた。
(相手は2年Cクラス。もしかして、昨日の人を本選に行かせるために強い人はいないのかな?)
その後の予想される対戦相手を見ると、3年と2年のAクラスはいなかった。明らかに学園側が絶対にビューンを本選に行かせ、学園対抗戦に出させるために組まれたものだった。それをカイは邪魔してしまったのだ。
(うーん、出られるかな?とにかく今日は3戦もある。勝つことだけ考えよう)
学園から出場停止を言われ出られなくなるかもしれない。そんな心配を持ちながらカイは身を隠せるところに移動する。
時間になり、試合のためカイは闘技場の中に入っていく。さすがに誰にも見つからずに行くことは出来ないため、周りがざわざわして罵声を浴びせるが、全て無視して控室に向かう。
教師に試合だと言われ出場口付近に行ってみれば、昨日と違い教師が5人も配備されていて、何も言わずに身体検査が始まった。身体検査が終わると教師たちはカイから離れ、聞こえない様に小声で話し始める。途中で1人の初老の男性が「あり得るか!!」と大声を上げたが、他の教師たちに何か言われ黙った。
少しして、1人の若い男性がカイに近づくと急に質問する。
「君がカイで間違いないね?」
「はい」
「
「(今は)持ってないです」
「身代わりでは無いんだね?」
「はい」
質問が終わると教師は困ったような顔をして教師達の所に戻って行く。
報告をしたのか、先程大声を出した初老の男が報告した教師の胸倉を掴みかかる。
「そんなわけあるかぁ!!貸せ!!」
教師が持っていた
「おい!偽物が!」
「いや、俺は本物のカイですよ」
カイがそう言うと男は
「騙すための
「先程身体検査をしたじゃないですか。
もう
「なぜだ!?無能がビューンに勝てるわけなかろう!一体どんな不正をした!!」
「不正なんてしてないです」
またまた
「クソッ!!さっさと負けてくるんだな!」
そう言い離れて行ったため、カイは舞台に向かい始めた。
結果から言うとカイは今日あった3試合全て勝った。
最初の試合は、昨日のビューンと同じ武器で同じ様に様に突進してきたため、カイも同じ様に顎を殴り、動けなくなった相手を場外まで運んだ。
2試合目は、バンバン魔法を撃ってくるタイプの生徒だったが、速度はとても遅く、狙いも悪いため軽く体を傾けるだけで全て避けることが出来た。そのためカイはただ走って、逃げて場外のすぐ近くにいた相手の腕を掴み投げただけで試合が終わった。
3試合目が一番悲惨で、相手が魔法を連発するのは良いが、その前の試合でかなり魔力を消費していたのか、少し撃っただけでフラフラになり倒れた。これにはさすがにカイも驚き、審判にどうするの?と言う視線を向ける。
「魔力枯渇によりダウン。よって勝者カイ…」
ここまでくると生徒達は罵声だけでは飽き足らず、物を投げる者が貴族中心にちらほらいた。
全ての試合に勝ち本選出場が決まったカイは、誰にも見つからない様に魔力探知をしながら巡回していた。
昨日と変わらず問題が起きないと思った矢先にカイはよく分からない不審な魔力を感知した。
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