第77話


(なんか靄がかかってる感じの魔力。感知しづらいな...。動いてないし魔法道具マジックアイテムかな?)


 カイは謎の魔力反応のことを考えながら急いで向かう。

 だが、その魔力反応がした方に近づけば近づくほど分かりづらくなっていき、距離が100mくらいになると分からなくなってしまった。


 反応が分からなくなったが消えたわけではないため、カイは周囲を警戒しながら魔力を探す。


(この人の多さじゃさすがに...)


 今カイがいるのは大通りからさほど離れていない路地裏だ。店の商品を見るために立ち止まってる人がたくさんいるため、誰が先程の魔力を発していたか分からない。しかも昼時で人の往来はとても多い。近くに来て分からなくなったためもういない可能性もある。そんな中から先程の不審な魔力を探し出すのは骨が折れる。


 カイが魔力探知を使いながらどう見つけるか悩んでいると、先程と同じ魔力は離れて行くことを感知した。


(距離は100mちょっと。近くじゃ感知できなくなる魔法道具マジックアイテムか...。逃がさない様にしないと)


 カイは距離を維持しながら追いかけるが、その人は屋根伝いに動いているのか一直線に離れて行く。普通に走っていては追いつけないため、魔力を纏いカイも屋根伝いに追いかける。

 カイが3軒目の建物の屋根に立つと、その人は屋根から下り路地裏に入る。


(止まった。何してるんだろ?)


 路地裏で止まったことは分かるが、感知出来るギリギリの距離のため雲のようなモヤモヤした物の様に感じられ、腕の動きなどは微塵も分からなかった。

 またすぐに動き出せばすぐに屋根伝いに追いかけられて便利だが、長時間動かなければ今は真昼のため屋根にいるカイはすぐに見つかってしまう。カイは相手が動く気が無いと思い、屋根を下りることにした。

 屋根からジャンプで下りたのは良かったが、下りてる途中で魔力の反応が消えてしまった。

 下りたカイは戦闘体勢に入り、どこから魔法で攻撃されても良いように自分の周りだけに魔力探知を集中させる。


(バレてた。最初に近づいた時点でバレてたかも...)


 マズイ状況のため、これからどうしようかと考えていたカイは懐にアルドレッドから貰った魔法道具マジックアイテム、通称発信機があることを思い出し、魔力を流そうとする。


「ちょ、ちょっと待って!!」


 声をかけられたため、カイは魔力を流すのを止め声がした方を見る。その先には昨日アルドレッド達が会った白ローブがいた。


「それに魔力を流されると困るから少し待ってくれない?」

「何者ですか?」


 発信機を知っているとしたら、帝国の者しかいないと気付いたカイは話しを聞くことにした。


「それはまだ言えない。とにかく魔力は流さないでもらえる?」

「それはそちら次第です」


 カイは警戒を緩めないが、相手は全く警戒していなかった。


「何言っても信じてもらえないと思うから私のことはアルドレッド君とセレスさんに聞いてくれない?」

「...もし、あなたが敵だったら僕は敵を逃がすことになるんですけど?」

「君の持ってる魔法道具マジックアイテムをアルドレッドが渡したって知ってるけど、それじゃあ足りない?」


 相手は仮面をしていて顔は見えない上に、ローブを着ていて1つ1つの動作が分かりづらく、嘘かどうか判断できない。それに魔法道具マジックアイテムのことを知っている。ここまで知っているなら敵と言うことは無いだろうが、万が一と言うことがあるためカイはある提案をすることにした。


「アルさんとセレスさんの所に一緒に来て貰えませんか?」

「疑り深いね。わかった良いよ。今どこにいるか大体予想がつくからついて来て」

「ちょ、ちょっと!?俺が案内する予定だったんですけど?」

「大丈夫どこにいるか分かってるから」


 カイがアルドレッド達の所に連れて行くつもりだったが、なぜか白ローブが案内する気で歩き出したため、カイは急いで白ローブについて行く。




 路地裏を歩いて闘技場に向かってるため人と会うことは無いと思っていたが、曲がり角の先に兵士がいたためカイが止めようとしたが、先に白ローブが止まった。


「分かってるでしょ?」


 白ローブにそう言われカイは頷いた。

 兵士がいなくなり、再度歩き出すとカイから話しかけた。


「魔力感知できるんですね」

「出来るよ」

「なら、俺が近づいた時点で気づいてたんですか?」

「気づいてたよ。念のために離れたら追いかけてくるからビックリしたよ」

「その、魔力が分かりずらいのって魔法道具マジックアイテムですよね?」

「そうだよ。これは魔力感知を妨害する物だよ」


 そう言うと白ローブはローブをヒラヒラさせた。


「仮面も魔法道具マジックアイテムなんですか?」

「これはただ顔を隠すためだけだよ」

「そうなんですか」


 その後は一切話しをすることなく、カイ達は闘技場の近くまで来た。


「こっちだよ」


 白ローブが手招きしたため、カイは警戒しながらもついて行く。すると、路地の先にはアルドレッドとセレスがいた。


「悪いけど呼んで貰って良い?」

「...逃げないでくださいね?」

「逃げないよ!」


 白ローブに確認した後、カイは走りながらアルドレッドとセレスに近づく。


「アルさん、セレスさん」

「あ?カイか。どうした?」

「ついて来て貰って良いですか?」

「分かった」


 アルドレッドの返事を聞き、カイはセレスの方を見るとセレスが頷いたため、先程まで白ローブがいた路地裏まで行く。

 カイが戻ると白ローブはしっかりいたためカイは胸をなでおろした。そして白ローブがいることに気づいたアルドレッドとセレスは驚いた顔になり、アルドレッドがカイを問い詰める。


「お、おいカイ!ど、どこで会ったんだ!?」

「それが・・・」


 カイは白ローブと遭遇するまでの経緯を話した。


「そうか、俺たちも昨日の夜に会ってな...」

「そうですか」

「えぇ、たぶん私たちの仲間だと思うわ」

「たぶんって。証を昨日見せたじゃん!」


 いつの間にか白ローブが近づいており、話しに割って入って来た。


「昨日あれを見せたんだから信用してよ!!」

「でも、私たちはあなたのことを何も知らないわ。それなのに信用するわけにはいかないわ」


 セレスの言い分にアルドレッドはその通りだとでも言いたげに頷く。そこでカイが口を開く。


「アルさん、あれって何ですか?」

「それはこれだ」


 アルドレッドがそう言った瞬間に白ローブはアルドレッドの腕を掴もうとするが、セレスが止めた。


「セレスさん!!あれは見せていい物じゃないよ!」

「分かってます。アル、いくらカイでも見せちゃダメよ」

「カイならいいだろ?」

「ダメよ。カイごめんなさい。いくらカイでもこれは見せられないわ」


 セレスがそう言ったため、白ローブは手の力を緩める。それを確認したセレスは手を話しカイの方を見る。


「ただ、この人は近衛騎士団の一員って言うのは確かだから私たちの仲間だと思うわ。今日の朝に確認の手紙を送ったからそれで分かると思うわ」

「ま、待って!?あなた達この子に正体を教えたの!?」

「あぁ、カイは信用できると判断した。こいつなら問題ない」

「...他に知ってるのは?」

「聖国からの情報屋ラクダレスとカイと同じ学年でいつも一緒に行動してるミカって言う生徒よ」

「あ、あなた達ねぇ...。何してるのよ...」


 白ローブは怒った口調で話し出す。


「私たちは今潜入してるのよ?その自覚を持ちなさい!これがもし知られたらどうするの!...今はこんなことしてる場合じゃない置いておくけど、戻ったら説教だから覚えときなさい!」


 白ローブの言葉にアルドレッドとセレスはただ一言「はい」としか言えなかった。


「それとカイ君。これあげる」


 白ローブはローブの下を漁り、今してる仮面と同じ物を2つ出す。


「口止め料ね。もう1つはミカって言う生徒に渡して貰って良い?」

「それ魔法道具マジックアイテムだったんですね?」

「魔力を流しながら話したら声を変えられる物だよ。今渡せるのはこれだけだからこれで手打ちにしてくれない?」

「わかりました」


 カイは2つの仮面を袋に仕舞った。


「とにかく、これで私が味方だって分かってもらえたと思うからもう行くね?アルドレッド君とセレスさんはラクダレス君とミカに私のこと味方だって話しといてね」

「分かったわ。でも正体は教えてくれないのかしら?」

「ごめんね、今は明かせないんだ」


 そう言うと白ローブは目の前からいなくなった。

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