第321話


 機械仕掛けの馬だったため疲れるなんてことは無い上に、馬車自体にモンスターを撃退するための仕掛けが施されていたため、夜通し走ることが出来たため予定よりも早くスワイドに戻ってくることが出来た。

 スワイドを守っている防壁がまず初めに見えてくるわけなのだが、それを見てカイ達、特にサーバが驚き慌てる。

 防壁の一部が崩され瓦礫の山を作っていたのだ。


「もっと急げないのか!」

「これ以上は無理だねー。ありゃ、魔法かな?けっこう強いの撃たれたみたいだね。ただ……」


 返事をするRは御者に座っている訳だが、目元に双眼鏡を持っているため中の様子を見ていた。


「ただ、なんだ?!」

「中の建物は一切壊されてないね。人が結構集まってる。怪我人は……いないみたい」

「貸してくれ!」


 その言葉を聞いてRはサーバに双眼鏡を渡そうとする。それを乱暴に受け取ると、サーバは食いつく様に見始める。


 馬車が町に着き、本来であれば検問所で検問される所だったが、サーバがいたため免除され、すぐに姫のいる場所に向かう。

 町中は慌ただしく人が走り回っていた。道中耳を傾ければ、先程Rが言った様に怪我人は無く、壊されたのは昨日だったことが分かった。

 馬車が着くと同時に、サーバはRとアルマの手に手錠をかける。


「ここまで送ってもらったことには感謝してる。だが、危険性が無いとも言えん。悪いがこのまま行かせてもらうぞ」

「分かってるよ」

「いやー、理屈は分かるけどこれ痛いな。もっと緩いの無い?」


 文句を言ったRを無視して馬車を降りる。馬はRが近くで命令をしない限りは動かないとのことなので、そのままにして建物に入っていく。




「よく戻ってきてくださいました」


 まず初めに出迎えたのはバルターであり、カイ達が帰ってきたことで安心しきった表情になっていた。

 バルターはRとアルマのことを見て安心しきっていた顔から驚いた顔に変わったが、すぐに元の表情に戻し姫の元に案内し始めた。Rは誰にもバレないように小さく笑みを浮かべていた。


 姫がいる部屋には既に人数分の紅茶が入れられており、湯気が立っていることから先ほど入れたことが分かる。


「よく戻ってきました。ここまでの長旅でたいへん疲れているでしょう。ぜひ座ってください」


 各々が座っていく中で、サーバだけは姫の後ろに待機するのではなく、アルマとRの後ろに待機し始める。姫はサーバに視線を送ったが、すぐに視線を外した。


 ライトルで何があったのかの報告が終わると、全員が紅茶を口に含む。


「やはりモンスターの研究を。ですが、サイクロプスを所持していたのには違和感を感じますね」

「それはダンジョンから連れ去ったんだよ」


 今までずっと黙っていたRが喋り出す。おのずと全員の視線がRに集まる。Rは不便そうにしながら両手でカップを持って紅茶を飲んでいた。


「そもそも「ダンジョンがどのように作られるか」と言う話しになるけど、これはまだ分かってない。でも一番可能性が高いとされてるのが「魔力が濃い所にダンジョンは出来る」って説。さて、ここで問題です。魔国の中で一番魔力が濃いのはどこでしょうか?」

「……まさか」

「そのまさか。魔都トラピタルの中心にあるベッセル城。その中の奥の奥。棺が封印されてる部屋だよ」

「それがどのように関係しているのでしょうか?私達が城にいた頃に中を覗いたことがありますが、ダンジョンなんて……」

「ラスター君が乗っ取ってから出来たんだよ。まぁ僕も詳しく知ってる訳じゃないからダンジョンがあるとしか言えないけどね。特殊なダンジョンみたいだよ。ラスター君はサイクロプスの卵を持ち帰って、ライトルに研究するように命令した。そんな所」


 Rは言い切ると、また不便そうに紅茶を口に含む。


「君達の目的はラスター君を倒して魔国を取り戻す事。まぁ当然って言えば当然。それの秘密兵器がカイ君って言った所かな?特殊中の特殊。唯一無二の魔力の持ち主。ラスター君ですら持ってない種類の魔力。特殊な魔力を持ち主、その上あれだけの強さを持ってる」


 言い切るとRは何度も何度も頷き、納得したような表情を浮かべると姫のことを真っすぐ見つめる。


「もう貴方達が知るベッセル城、トラピタルじゃない。環境がじゃない。見た目が完全に違う。秘密経路を使って侵入。そう計画するのが普通。ラスター君も知らないのがあるんでしょ?」


 姫達の表情は全く変わらなかったが、無言を貫いたことから肯定だととらえてRはそのまま話し出す。


「その経路はつぶされて使えなくなってる可能性がある」

「……なぜお前がそんなことを言える」

「これを見たらわかるよ」


 そう言ってRは懐から器用に短い杖を取り出すと振って、空中に画面を作り出す。それを見た姫達は驚いた表情を浮かべる。


「そんな……!!」

「そう言う、ことですか」


 その画面には家などの建物が大量に映っていたのだが、そのすべてに赤黒いツタの様な物が巻き付いていた。だが、その中には中心にあると言われていた城が無かった。城の変わりに、中心はえぐれて巨大な穴が出来ていた。


「城はどこだ!」

「ここだよ」


 もう一度Rが杖を振ると、画面が空中に浮く城を映しだされる。その城は赤黒く、禍々しさを醸し出していた。


「純白だったあの城が……」

「お城って浮く物だったんですか!?」


 皆が驚いている中でRがもう一度杖を振れば中に浮いていた画面は瞬時に消えた。

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