第74話


 カイが出した炎と氷も消したことで演習場は何事もなかったようになり、疲れていたカイとミカは座り、3人は立った状態で話していた。


「...にしてもカイ君には適性魔法が無いと聞いてたんですが、急に氷が出て来た時は驚きましたよ」


 一番初めに口を開けたのはラクダレスだった。


「すみません。適正無しって出たのに魔法が使えることが分かったら面倒なことになると思ったんで...」

「...そうですね。適性検査が外れることは無いです。それなのに使えるとしたら「どうして使えるのか?」何してでも知ろうとする輩は絶対にいますからね...」


 聖国側であるラクダレスに知られるのはかなりリスキーだが、あのローブ男達と一緒に戦っていくならいずれ知られてしまう。

 遅かれ早かれ知られてしまうのなら、教えてしまい混乱しない様にするのが先決とカイは考えた。そのため今回の模擬戦にカイはラクダレスを呼んだのだ。


「先生はこのことを報告しますか?」


 カイが尋ねると他の3人がラクダレスのことを見る。ラクダレスは少しの間目を閉じ考えるそぶりを見せた後口を開いた。


「いえ、報告しません」

「な、なんで...?」


 ハッキリと言い切ったことに3人が驚き、報告されると思っていたカイは動揺しながら訳を聞いた。


「カイ君、先程言ったように適性検査が外れることは絶対にありません。それなのに適性無しと出た少年が魔法を使える。聖国は必ずこの原因を調べに来ます」


 ここまで言いラクダレスは突然視線をセレスに代える。


「セレスさん、帝国にも過激派は居ますか?」

「えぇ。い、いることにはいるわ」


 全く関係のないことを聞いてきたラクダレスに対してセレスは言い淀みながら話した。


「聖国よりも温厚な帝国にも過激派はいるのです、もちろん聖国にもいます。情報を扱う身としてどのような事をしているか、それも知っています」


 ここでラクダレスは息を吐き、真っすぐカイの目を見る。その目は恐怖を含んだ目になっており、額にはいつの間にか汗がにじんでいた。


「断言します。過激派はあなたの存在を知ったら誘拐して解剖して調べます、絶対に。だから、カイこのことは後ろ盾が出来るまで秘密にしなさい」


 この時のラクダレスには有無を言わさない何かがあった。




 ラクダレスの言うことに空気が重くなるが、それを払拭するためラクダレスが元の顔に戻し話し始めた。


「まぁ先程のは1つの可能性ってだけです。ただ、私が報告したら教皇が聖国に招くのは確実です。長い間王国に戻れないと思います。その間にローブ男達に動きがあったら困ります。カイ君が捕まえられなかった存在と考えると私は戦うことが出来ないので3人で抑えることになります。正直、敵が何人いるか分からないこの状態で3人は厳しいです。カイ君がいなくなるのは困ります。なので私は報告はしません」


 ラクダレスが報告をしない理由を知れたカイは安心した顔になり、少し笑顔が戻った。


「そうですね、俺は先生を信用するって決めてますから」

「ありがとうございます」

「よし、話しは終わったな。じゃあ、俺からお前らに渡すもんがある」


 そう言いアルドレッドは小さな直方体の物体を3つ出した。


「これを持っといてくれ」


 それをカイ・ミカ・ラクダレスに渡した。


「これって魔法道具マジックアイテムですよね?」

「あぁ。試作品だが、こうゆうのが必ずいると思ったから「作ってくれ!!」って頼んどいたら昨日届いたんだ」


 アルドレッドとセレスも同じ物を取り出して見せて来た。


「これに魔力を流すと・・・」


 セレスが持ってる魔法道具マジックアイテムに魔力を流すと、他4人の魔法道具マジックアイテムが振動し、先端が光始めた。


「こんな感じに振動しながら光るのよ」

「すごいですけど、これって振動するだけでも良かったんじゃないですか?」

「光で魔力を流した人とどのくらい近いか分かるそうよ。近ければ近いほど明るいんですって」

「へぇ~。でも、なんで試作品何ですか?これで完成でも良いと思いますけど」

「それがな、俺ら以外にもこれを持ってたらそれも反応するらしい。それに、遠すぎると魔力を感知できなくて反応しないらしい。せいぜい2㎞前後が限界だそうだ」


 アルドレッドとセレスから魔法道具マジックアイテムの説明を聞いたため3人は懐やポケットの中にいれた。


「これが反応した時は、そこに集まるようにするぞ。緊急時以外は使わないでくれよ?」


 アルドレッドとセレスもそれを仕舞ったのを確認したミカはセレスに聞きだした。


「他には何か送って貰ったんですか?」

「えぇ、アルドレッドの大剣が届けてもらったわ。あとは魔法道具マジックアイテムを1つ送ってくれたわ」


 そう言ったセレスはため息を吐きながら言うと、アルドレッドの肩がピクッと反応する


「お、おい聞いてねぇぞ?」

「えぇ、アルに言ったら「送り返せ!!」って言うでしょ?」

「分かってんなら送り返せよ!!あの人が送って来たってことはヤバイぞ!?」

「そんなことないわよ。それに便利な物送ってくれたのよ」


 セレスはポケットから1つの袋を取り出した。


「あれ、それって俺が持ってるのと同じ奴ですか?」

「そうよ、容量は違いかもしれないけど、同じ物よ」

「でも、なんでアルさんはヤバイっていたんですか?」

「師匠は…」

「根っからの戦闘狂なんだよ」


 ミカの問いかけにセレスが答えようとしたが、被せるようにアルドレッドが答えた。


「セレスの師匠は前任の近衛騎士団長でな、まぁ俺らとしてはかなり世話になってる人なんだが…」

「良い人じゃないですか。問題なんてないと思いますけど?」


 ラクダレスの意見にカイとミカが何度も頷く。


「戦闘狂って言ったろ?訓練のたびに団長と誰かと戦って帰るし、あの人に何か頼むたびに見返りが戦うことなんだよ…」

「アルがよくその誰かに選ばれるのは仕方ないわよ。アルは近接特化で師匠と同じだもの」

「戦うたびにボコボコにされる俺の身にもなれよ!」


 アルドレッドがボコボコにされるほどの強さを持ってることにカイとミカは驚いた。また、ラクダレスは顔には出さなかったが、内心かなり驚いていた。


「はぁ~、それで?今回はあの人は何だって?」

「それが、今回はアルとは戦わないそうよ」

「マジで言ってんのか!?」

「えぇ、袋の中の紙にそう書いてあったわ」


 アルドレッドは戦わずに済んだことに安心したのか、その場に座り込んだ。


「でも、なんで貸してくれたんですかね?」

「王国に言ってる弟子に師匠からの応援とか?」

「あー、確かに。俺も学園に来るときに師匠にこれ貰ったからありえるかも」

「違うわよ?」


 セレスの発言に3人はセレスの方を見るが、アルドレッドだけは嫌そうな顔になる。


「あの人が頼み事してくるなんて、何を頼んで来たんだ…?」

2には頼み事なんてしてきてないわよ?」

「え?」


 セレス以外の4人の声が重なった。そんなこと気にせずにセレスは紙に書いてあったことを話す。


「紙には、カイと戦いたいって書いてあったわ」

「え?」


 カイだけは驚いた声を上げ、ミカとラクダレスはカイのことを見て、アルドレッドだけは、戦った場合どうなるのか気になってるような顔をしていた。


「今すぐにじゃないから安心していいわよ。帝国と王国の対抗戦が終わるまではしないと思うわよ」

「はい」


 カイはセレスの師匠で前任の近衛騎士団長と戦えることに嬉しく思い笑っていた。


「でも、その前に学内対抗戦と学園対抗戦を乗り切らないといけないわね」

「そうですね」


 これから起きる3つの対抗戦であのローブ男達が何かするかもしれない。

 カイは気を引き締めた。

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