第271話


 赤い氷で作った氷柱だったため、貫かれた瞬間、グレイトトレントが燃え始める。だが、すぐさまその炎に青い炎をぶつけて氷漬けにさせる。グレイトトレントが最初に暴れたことが幸いし、周りの木に燃え移ることは無かったため、すぐさまグレイトトレントの氷像が出来上がる。


 グレイトトレントのはるか頭上にいたため、ラウラが生み出した風によってゆっくりと着地する。


 着地したカイの下に全員が集まる。そしてグレイトトレントのことを見つめる。


「綺麗に氷柱になりましたね」

「そうですね。これどうします?」


 ここまで大きな物を魔法道具マジックアイテムの袋でも入れるのは不可能。だが、これをこのまま放置しておくわけにも行かない。どうするべきか考えていると、かなりの数の足音が森から聞こえてくる。


「派手にやりすぎたってことですよね……」

「味方?敵?」

「分かりません。スワイドの者かもしれませんし、違うかもしれません」


 先程まで地面に座ってどうするか考えていたが、すぐさま立ち上がり警戒し始める。

 森から出て来たのは、当然魔人で、今までに見たこと無いほどに大量にいたため、カイ達は気圧されそうになる。


 現れた魔人たちは、カイ達のことを不思議そうな目で見る。その視線を受けながらもカイ達は警戒を緩めない。


「お前達、何者だ?角は折れたのか……?まぁこんな森の中に少人数でいたらそうなるか」


 前に出て来た男はゆっくりと驚いた顔をしながらも、片手を前に出しながら歩いてくる。そんな様子にカイ達はより警戒を強める。


「っんだよ~。こっちが話しかけてんだからしっかり返してくれよ。こんな森の中だから警戒するのは分かるけどよ」


 それでも近づいて男に対して、カイ達は一斉に後ろに飛ぶ。


「あんたらにはこれが見えとらんのか?」


 シャリアの指さした先には氷漬けのグレイトトレントが。これを見ても警戒せずに使づいてきたことに違和感しかなかった。


「見えてるに決まってんだろ。お前らが倒したんだろ?」

「兄貴、もういいだろ。こいつら危険だ」


 先頭にいた魔人がそう言うと、後ろに魔人たちが一斉に武器を抜き始める。


「お、おい!待て!」


 先程まで何食わぬ顔で近づいて来ていた男は、この状況を予期していなかったのか焦り出す。


 そんな男の静止を聞かづ、カイ達に向かって魔人たちが飛び出してくる。


「皆様、翼がある以上あちらが有利です。森に行きますよ!」


 リオの声と共に、ラウラが風を、カイが青い炎を飛ばしながら後退し始める。魔人達も負けじと魔法を撃ちこんでいく。

 魔力感知に優れている魔人達は2人の魔法を確実に避ける。普段なら避けてそのまま追撃を狙うのだが、見たこともない青い炎があったためその場で足を止める。

 魔人が飛ばした魔法は全て最後尾に着いたシャリアが小手にぶつけ吸収、もしくは放出して相殺させていく。


 カイ達としてはすぐにでも森に入りたかったが、これ以上離れては魔力感知で相手の居場所が分からない。遠くから魔法で狙撃されてしまえば対処できないため、森の目の前で足を止める。その様子に魔人達も警戒して、距離を詰めてこない。


「……カイ、さっきの氷柱、もう一回出せる?」

「出せますけど、どうするんですか?」

「視界が悪くなれば、私が奇襲しに行ける。その隙に攻めれば落とせると思う」


 現状の打破にはそれしかないと思い、カイは先程と同じ大きさの氷柱を作り出し、魔人たちの近くに撃ち落とす。そのまま地面にぶつかっていれば、砂埃が起きていたが、氷柱は空中で撃ち落とされた。


「しっかたねぇなぁ。お前ら、死ぬ気で行け!じゃねぇと負けるぞ!」


 最初に近づいて時とは打って変わって、真剣な顔つきになった男がそう言うと、魔人たちは雄叫びを上げ、突進を仕掛けてくる。

 その男こそ、カイの氷柱に岩をぶつけ、空中で砕いた者だった。


「待ちなさい!」


 魔人たちが武器の射程に入ってきたため、それぞれ対処しようとした所で女性の声が森に響き渡る。

 その声をカイ達は聞いたことがあったため、武器を構えながらもそこで立ち止まる。だが、魔人達が武器をも捨て、声が聞こえた方向に向かって跪く。


「その者達は私の客人です。これ以上の戦闘は許しません」


 森の中から出て来たのは姫様で、最初は凛とした顔つきでいたが、カイを見た瞬間に悲しそうな顔に変わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る