第212話


 ルナは予想以上に睡眠不足だったためか、昼過ぎまで寝ていた。起きたときルナはとても恥ずかしがっていたが、最後にはまだ少しだけ落ち込んでいたが、普段通りに近い状態に戻っていた。


 昼過ぎまでルナ達と話していたためシャリアは全然仕事をしておらず、現在、真っ暗になっても仕事をし続けていた。夕方になる頃にサリーが戻ってきてこっぴどく怒られて落ち込みかけていたが、今は疲れた顔をしていた。

 そしてそろそろ日が変わろうとしていた。


「サリーよ、もうお主は帰ってよいぞ。遅いからの」

「何言ってるんですか。私がいないとシャリア様は仕事をしないでは無いですか」

「そんなことは無いじゃろ。それよりも2人きりのときくらい”お母さん”と言わんかい」


 ずっと真顔で仕事をしていたサリーの手が止まり、微笑んだ顔でシャリアのことを見る。視線を感じたシャリアも手を止めてサリーのことを見る。


「シャリア様には感謝しております。こんな私を拾ってくれて。ですが、今は仕事中で部下と言うことなのでそう呼ぶのは控えさせていただきます」

「そうか。…サリー、お主は私がしっかり守るからの。奴らには絶対に渡さん」

「…ありがとう、お母さん」


 今までで一番の笑顔になったサリーの背中が一瞬動いたように見えたが、シャリアは全く気にしなかった。


 2人でまた仕事をしていると深夜だと言うのに扉がノックされたため、2人は警戒しながら返事をする。


「誰じゃ」

「フラージュです。入ってもいいですか」


 相手がフラージュだと言うことで2人は警戒を止めてフラージュを部屋の中に入れる。

 入って来たフラージュは私服ではなく、潜入などする時に使う白いローブを着ていた。


「どうしたのじゃ?それを着とるなんて物騒じゃの」

「一介の教師が深夜に学園が入るなんて無理なの知ってますよね?仕方なくです。今日来たのは王国から連絡が来ないことを相談しに来たんです」

「定期連絡は来とるぞ。情報をほとんどつかめてないそうじゃ。それはフラージュも知っておろう」

「それは分かってますけど、彼が情報をここまでつかめないのが珍しかったので」


 フラージュがソファーを座った後で、サリーが紅茶を入れてフラージュの前に出す。すぐにシャリアも向かいのソファーに座る。


「そうは言うが、来ない物は来ないから仕方ないじゃろ。待つしかない」

「そうなんですけど、魔人が関わってるなら応援を送った方が良いと思って」

「ふむ、それもそうじゃな…。2人だけじゃ心元ないかもしれぬの。ナキャブと相談して追加で送る者を考えるのもいいかもしれぬな」


 シャリアが考えると言うと、フラージュは立ち上がって出て行こうとする。


「もう良いのか?」

「考えてほしいって言いに来ただけなので。もう帰りますよ。明日も早いですから」

「そうか。サリー、私達も今日は帰るとするぞ」

「ですが、まだ仕事が残ってます」

「明日もあるんじゃ。今日くらいいいじゃろ。それに今は物騒じゃからの。一緒に帰るべきじゃろ」

「…分かりました。ですが、明日覚悟しておいてくださいね」


 2人は急いで帰り支度を終わらせて、学園長室から出て行く。


 3人が学園長室を出てから数分後、誰もいなくなったはずの学園長室に侵入している者がいた。その者はシャリアの机で何かを探している。


「無いな~。回収して来いって言って来たけどさ…。どこに運んだんだろ?ここなら情報があると思ったんだけどな」


 しばらく机を漁っていたローブを着た少年は資料を読むのを止めて椅子に座り込む。


「しょうがない。まぁ検死してくれた方が彼のタメになるかもしれないから良いか。魔人の遺体なんて普通手に入らないしね。でもなぁ、お嬢に怒られるな…。やだなぁ」


 ため息をつきながら立ち上がると、少年の足元に魔法陣が浮かび上がる。


「にしても楽しそうにしてるみたいで良かった。世の中悪いことばかりじゃないね。もしかしたら彼女のこと話せば怒られないで済むかな?」


 少年は最後にローブから少しだけ見える口元を綻ばせながら消えて行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る