第211話
ルナの腕を引っ張っているミカはルナが話しかけてくるのを無視して引っ張り続ける。一限目の始まりの予鈴が鳴っても引っ張り続けるため、ルナはついに立ち止まる。突然止まったためミカは倒れそうになるのを踏ん張って耐えてゆっくり振り返る。
「さっきからどこに行くのって聞いてるじゃん!どこ行くの?もう一限始まっちゃってるよ」
「今は良いから早く行くよ。そろそろ着くから」
そう言って再度ミカが腕を引っ張ったためルナは先程までと同じ体勢で目的地に向かう。
少し歩くとルナも目的地が分かったためまた声をかけるが、ミカは気にしないでと言って歩き続ける。
そしてミカが立ち止まった所が学園長室だった。ミカがノックすると、中からシャリアに入って良いと言われたため入る。2人に続いてアルドレッドとセレスも学園長室に入っていく。学園長室はサリーは不在でシャリアしかいなかった。
「…うむ?アルドレッド、鍛え方が甘いんじゃないかの?」
「あぁ?何ですか、急に」
「甘い。甘いの!鍛え直してやる!来るんじゃ!」
部屋に入った瞬間に、大きな机で仕事をしていたシャリアは持っていた資料を置くと、一瞬でアルドレッドの前に立ち、鎧に手をかけて部屋を出る。
「ついでにセレスも鍛えるぞ!久々じゃの。手加減はしないからの」
「はぁー。わかりました」
そう言ってセレスが部屋を出るとすぐに扉が閉められた。
「何か出て行っちゃったね」
「う、うん。それより、どうして学園長室に来たの?私達が何かできることなんてここには何もないでしょ?」
ルナがどうして連れて来たのか聞くと、ミカはルナの頭を胸まで持って来て抱きしめた。突然の出来事にルナは驚くが離れようとはしなかった。
「どうしたの急に」
今まで落ち込んでいてどこか不安だったルナは、ミカの心音を聞いて落ち着いて行く。
「ものすごいクマ出来てたよ。寝れてないんでしょ?」
化粧をして鏡を見たときは分からないくらいに隠せていたため、バレたことにルナは驚いたが声は出さなかった。
「アディのことだよね。誰にも何も言えなかったんでしょ?ここは私達しかいないし、全部吐き出して良いよ」
ミカは言い切るとルナの頭をゆっくりとなで始める。
しばらくは静かだった部屋に鼻をすする音が響きだす。
「なんで、なんであんなことになっちゃったの。なんでアディはあんなことしたの。なんて魔人は私の友達に酷いことしたの。なんで、なんでよ…」
だんだんとルナの声が大きくなっていくが、ミカはただただ黙って聞きながら頭を案で続けた。
ミカがなで続けて数十分経つと、寝息が聞こえ始めたためミカはソファーに寝かせて、膝枕をする。そして眠った状態のルナをなで続ける。
「もう入って来て大丈夫ですよ」
扉が開かれて入って来たのは、さっき出て行った3人だった。実は3人とも扉のすぐ前で待機していたのだ。
「急にごめんなさい、シャリアさん」
「良いんじゃよ。表に出さんかったが、相当ショックだったろうからの」
「全然寝れてなかったから助かったわ。ありがとう、ミカ」
シャリアは先程まで仕事をしていた机の引き戸を引っ張ると一冊の本を取り出した。それをパラパラめくるとあるページの所でめくるのを止め、隣に座ってミカに見せる。
「お主ら、授業中に敵意を感じたと言っておったの。なんでか分かったぞ」
ミカは見せられた本を読むと、それはアディがつけていた日記だった。
「お主らにルナ様を取られたくなかったんじゃの。友人としての地位が無くなると思ったみたいじゃの」
カイとミカに敵意を向けたことが書かれた部分を読んだと判断したシャリアは日記を閉じる。そして外に目線を向ける。その目からは寂しさを感じた。
「あの日の2人だがの、1年の時アディをいじめてたみたいじゃ。他にも数人いるみたいでな。話しを聞く準備をしてる所じゃ。まさか、学園でいじめが起きとるとはの。しっかり目を光らせておったつもりじゃったが、まだまだじゃの」
シャリアは無意識にアディの日記を優しい手つきでなでる。
「これからは無いようにしないといけないの」
「そうですね」
「しばらくここで休んでいくとよい。2人も立ってないで座ると良いじゃろ。私が紅茶を入れてやるぞ?」
少し無理した風に対応し始めたシャリアに対してアルドレッドとセレスは顔を見合わせるとミカ達とは向かいのソファーに座る。
「紅茶入れた代わりに戦えなんて言わないでくださいよ」
「師匠が入れた紅茶もおいしいけど、サリーさんが入れてくれた紅茶の方がおいしいのよね」
2人はいたずらっぽく言うと、シャリアはいつものように笑顔になり、紅茶を全員の前に置くと、セレスの横に座る。
「アルドレッドは私をなんだと思っとるんじゃ。それとも戦ってほしいのか?暇なときにいつでも相手するがの?」
「いや、勘弁してくれ。護衛は万全の状態でしないといけないですから」
「よく言うの。それと、そんなこと言うならセレスには今度から入れてやらんぞ?」
「師匠の入れてくれた紅茶はとてもおいしいわね。ずっと飲んでたいわ」
「よくいうの」
その後も、3人でルナを起こさないように静かに言い合いをしていた。ミカはそんなやり取りをルナの頭をなでながら、楽しそうに聞き続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます