第287話


 大剣を刺した瞬間にサイクロプスから大量に血が噴き出ていたため、リオは全身血だらけになっていた。それでも絶命したことを確認できるまでは油断ならないとその場を動かない。

 そんなリオは離れた場所からミカとフラージュが残党のモンスター達を倒しながら見守る。


「おいしい所、シャリアさんに持ってかれちゃったね」

「そうだね。もしかしたらサイクロプスと力比べしても勝ってたかもね」


 丁度シャリアが着地したところを見ると、シャリアは2人の視線に気づき笑顔で手を振りながら近づく。


 3人は合流したが、未だにサイクロプスは絶命しきっておらず指先などがピクピク動いていた。


 サイクロプスが親玉だったようで、これ以上モンスターが増えることは無く、現在は負傷した魔人を町中に運ぶのと、残党狩りを同時にしていた。だが、そのモンスター達がおかしかった。襲撃して来たモンスター全てが逃げないのだ。生物であれば、敵に勝てないと知った時逃げるはずなのに、1つも例外が無く町に向かってくる。その上、動きも昨日のキメラより悪く。昨日より優れていた点と言えば数だけだった。


 背中からの攻撃に気づくこと無くやられていく。そんなモンスター達を倒していると、何かに操られているのではないのかと全員が疑い出す。そして、それを可能とするのが『洗脳』の魔法。それがどうしても頭にちらつくミカ達。




 モンスターの大群が町を襲撃して来る。それをカイ達と魔人の軍勢が対処して町を守る。このような事がサイクロプス襲撃から2日続いた。

 ここ数日ずっと同じことが起きていることから軍勢の指揮は下がっており、負傷者も日が立つごとにジワジワ増えていた。

 カイ達も毎日大量のモンスター達と戦うこと、終わりが見えない戦いに精神的に疲れていた。


 今日もカイ達は戦いに出て、ほとんどのモンスターを倒し終わり、町に戻ろうしていた。


「そろそろか」


 最前線で聞こえた1人のつぶやき。それをカイとミカ、ラウラとフラージュは聞き逃さなかった。そこには黒くボロボロになったローブを着た者が居り、4人は既視感を覚えた。


「何で倒したはず……」

「でも、さっきの声は……」

「警戒必須」

「不死だったりしてね」

「ほぉ~あやつが例の……」

「現況ですかね」


 全員が武器を構え警戒態勢に入ったが、その者は戦闘体勢に入らず、ゆったりとした動きでローブの肩部分を掴む。そしてローブを破りながら脱ぐ。

 魔人特有の角が2本では無く、確認できるだけで4本も額についていた。その上肉体もとても鍛えられており、体中の筋肉が隆起して、打撃も斬撃も通さない様に見える肉体を持っていた。だが、その顔は全く見たことのある物では無かった。それでもカイはその男と視線を合わせると、以前会ったことのある感覚を感じる。


「そう警戒するな。久しいな、カイ」

「……俺はあんたなんて見たこと無いけど」

「そうだな。この体では初めてだ。だが、俺は覚えてる。お前達に負けたことを。そして宣言した。お前を必ず殺すと」

「ちょっとー!今は戦うなよ!」


 上から女性の声が聞こえ視線を移せば、そこには背中から真っ白の翼を生やし、日傘をさした少女が飛んでいた。その少女は男を怒鳴りつけると、両足を突き出し、男は少女の足首を掴む。すると、少女が羽ばたき飛びだす。


「王国での、あの研究所でのカリは絶対に返す。楽しみにしとけ」

「勝手な事言うなよ!お前が勝手な事するとワタシが怒られるんだからなー!」


 カイ達は一斉に魔法を撃ったが、少女は変幻自在に空を飛び回りほとんどの攻撃を避ける。そして、当たりそうになった魔法に対しては男に叩きとされたため、逃げられてしまった。

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