第288話


 逃げられたことを悔しく思いながらも、モンスターの襲撃の黒幕の存在を知れたことを嬉しく思っていた。


「見た目は変わってたけど……」

「あの口調。それに俺に「殺す」なんて宣言したのはあいつしかいない」

「今回のモンスターの進軍。それは洗脳の魔法があれば説明がつく。そしてその洗脳の魔法を使っていたと思われる者が現れた。それだけでいいじゃろ」

「そうですね。以前話されたウォッシュと言う者かどうかは確定できませんでしたから、今は先程の2人をどうするか考えましょう」


 瘴気の影響で見ることも魔力を感知することも出来なくなっていたが、カイは2人が逃げた方向をしばらく見続けた。




 2人が現れた翌日の早朝、カイ達は大きな地鳴りによって目を覚ました。地鳴りはしばらく続き、カイ達はすぐさま武器を持って町の外に向けて走る。

 外に出ると、多くの魔人達は迎撃するのではなく、遠くの方を見て立ち止まっていた。


「マジかよ……」

「あんなの、無理だ……」


 魔人達のネガティブな声を聞きながら、カイ達の視線はより鋭い物になる。

 先程から続く地鳴り、その原因は以前攻めて来たサイクロプスだった。だが、1体だけでは無かった。見えているだけで5体のサイクロプスが見えており、瘴気と早朝と言うだけで、まだいる可能性があった。

 目の前の景色に加え、ここ数日続く変わらない戦況で、戦闘とモンスターの死骸処理を延々と繰り返していた魔人達の心は完全に折れてしまっていた。

 一緒にいるカイ達も数日間同じことを繰り返していることに精神的疲労を強く感じていたが、ここで心が折れてしまえば容易に町が落とされてしまうことが想像できたため、すぐに戦闘体勢に入る。


 サイクロプスが進行を止めたことで地鳴りが止むと、今度は大きく雄叫びを上げ、1体のサイクロプスがもう1体のサイクロプスのことを掲げると投げる体制に入る。


「ラウラ空中で止められるか?!」

「止めるのは無理。もしかしたら空中でバラバラに出来るかも」

「あれが投げたら空中で当たるように私を飛ばしてください」


 サイクロプスがサイクロプスのことを高く町に向けて投げると同時に、ラウラも言われた様にリオのことを上に打ち上げる。

 サイクロプスが投げられた場所と町の中間点で当たる用に打ち上げられたリオは、袋から以前サイクロプスを倒した大剣を取り出し、真正面からサイクロプスのことを叩き切ろうとする。突然目の前に現れたと言うのに、サイクロプスはその攻撃に反応し、腕でガードする。サイクロプスは不意打ちに反応出来たことで完全に攻撃を防ぐことが出来たと油断していたが、今リオが持っている剣はそこらへんにある大剣では無い。サイクロプスの腕は抵抗を感じさせない様に切れる。だが、それでサイクロプスの勢いを止められるわけでは無く、サイクロプスは町中に落ちようとしている。

 リオは切ったサイクロプスのことなど見向きもせず、目の前のサイクロプス達のことを見つめる。

 町に飛んで行くと思われたサイクロプスだったが、空から降って来た巨大な岩によって地面に叩きつけられる。

 町を守る壁の上には1人の男が杖を持って佇んでいた。その男は構えていた杖を地面に付けると、大きく息を吐く。


「町の防衛はお任せください」


 その男こそバルターであり、町を守るため魔法道具マジックアイテムの杖を手に待機していたのだ。本来のバルターならば先頭に立って戦っていたが、今は自分よりも強い人がいると言うことで防衛に回っていた。

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