第289話


 空中で突然サイクロプスの腕が落ち、地面に叩きつけられたことに魔人達は驚いたが、驚愕はそれだけで終わらなかった。


「ラウラ様」


 空中で体を畳んで防御態勢に入ったリオからのひと言に、ラウラはサイクロプスに向けて撃とうとしていた魔法をリオに向け放つ。放った魔法は1mもずれること無くリオに当たり、リオは反動でサイクロプスに向けて飛んで行く。


「このまま走っても時間かかるの。ほれカイ」

「お願いします」

「私も先行きますね」


 ミカはすぐさま雷を纏わせ高速移動でリオの跡を追いかける。

 カイを呼んだシャリアは、バレーボールでレシーブをする時の様に手を組んで投げる準備に入る。カイは走る勢いを残したまま両手に乗ると、シャリアは地面と平行になる用に力いっぱい腕を振り、投げ飛ばす。

 サイクロプスの軍団にカイとミカ、リオが到着するのはほぼ同時だった。



 リオは持っていた大剣を下に向けるとそのまま着地をする。空中にいるリオに向けて手を伸ばすサイクロプスもいたのだが、その手は全て大剣によって切りつけられていく。着地した際に深々と地面に刺さった大剣を抜くことはせず、リオは常に付けている手袋から爪を飛ばし糸を張っていく。高低差は無いが、地面に突き刺し自分が動くことでサイクロプスが次々と切られていく。


 サイクロプスの軍団をとらえた瞬間にミカは跳躍し、槍を目玉に突き刺す。雷を纏わせ走った加速も相まって、突き刺すどころか貫通する。後ろにいたサイクロプスを巻き込んで倒れる。跳躍していたミカは着地と同時に雷を再び纏わせ次のサイクロプスに向けて跳躍する。


 シャリアの投げる速度はかなり速く、並の人間であれば耐えられない程の空気抵抗を受けていた。そんな中でもカイは両手の手袋に魔力を通し、剣を2本生み出す。投げられた勢いは中々衰えず、その勢いのままサイクロプスの軍団に中に突入する。すれ違い様に斬りつけたカイは地面を地面を滑りながら振り返る。

 サイクロプス達に向けてはリーチが足らず、致命傷にはなっていなかった。それでも足への攻撃だったこともありサイクロプス達は歩きずらそうにしていた。

 止まったカイのことを見逃すはずもなく、複数のサイクロプスが腕を振り下ろす。その拳をカイは地面から生やした先を鋭くした氷柱で受け止める。氷柱は容易にサイクロプスの拳を貫く。痛みで騒ぐサイクロプスの喉元に向け剣を投げつけ、すぐに剣を生産する。投げられた剣は吸い込まれるかの様にサイクロプスの喉元に深々と突き刺さる。そして、作られた剣は通常の鉄製の剣では無く、氷で作られた剣だった。

 その剣で斬りつけるが、熱さに耐性があるのか焼くことが出来ないでいた。




 遅れてシャリア達3人も到着して、着実に1体ずつサイクロプスを倒していたが、かなりの数が進軍しているため、間近にいるカイ達にとっては減っていないように感じていた。倒しても倒しても減らないサイクロプスにカイ達は体力だけでなく精神も激しく消耗し始めていた。


 そんなカイ達のことを空高くから眺める存在がいた。


「なぁなぁ、あれ死んじゃうよ?いいのかー?」

『それならそれで構わん。俺の目的はカイが死ぬことだ』

「ふぅ~ん。つまんねぇのー。……ん?」


 以前カイ達の目の前に現れすぐに消えた少女は、その白い翼を羽ばたかせながら丸い石に向かって話しかけており、その石からは男の声が聞こえていた。

 そんな少女はつまらなそうにしていたが、下の魔人達の動きを見て楽しそうにし始める。


『どうした』

「何でもなーい。それよりもよー、サイクロプスがやられたらどうすんだ」

『その時は俺がカイを殺すだけだ』


 それだけ言うと男は一方的に通信を切る。ブツッというノイズを聞いたため少女は苛立ち舌打ちをしたが、すぐに下を見て楽しむような、何か企むような笑みを浮かべる。

 その少女の目にはサイクロプスを3体同時に討つカイが映っていた。

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