第286話


 迫りくるモンスターの大群の間をすり抜けながらサイクロプスに接近する。

 すれ違い様にモンスターを倒しながら、リオの知りうる限りのサイクロプスの情報を共有していく。


「サイクロプスが最も活発に活動していたのは500年程前。弱者を痛めつけ、限界まで追いつめた跡は、自分が一番楽しいと思う殺し方で殺す。とても酷い性格をしています。当時、サイクロプスが人里に来ては惨たらしく蹂躙していくと言った被害が多く、わざわざ討伐隊が組まれた程でした。その際に狩りつくしたと思われていましたが、魔人領では残っていたのかもしれません」

「まさに外道といった所ですね」

「人間の価値観で考えるのもおかしな話しでしょ」


 モンスターを倒しながらも、3人の足は止まること無く進んでいく。

 そんな中、サイクロプスは再度、赤い氷壁の一角を掴み砕こうとし始める。かなり硬いのか、壊すのに一苦労と言った様子だ。


「あの巨体で歩かれたら迷惑なので、両足の健を私が斬ります。お2人は倒れたら弱点である目玉を狙ってください」

「いくら何でも、糸であの巨体を斬るのは……」

「はい。流石に難しいと思っております。ですが、あのような巨体のモンスターに対処するための武器があるのですよ。ここからは私1人で行きます。お2人は倒れるまで注意を引きつけていただいてよろしいですか?」


 今よりも走る速度を上げたリオは一直線にサイクロプスの足元に向かう。


 注意を引きつけてほしい。そう言われたため、ミカは目玉に向かって雷を飛ばす。その雷はサイクロプスの目玉に吸い込まれるように跳んで行き、抵抗することなくサイクロプスに当たる。サイクロプスは当たる寸前に雷をとらえることが出来たが、あまりにも遅かった。

 雷が当たったサイクロプスは片手で目を抑えながら大声を上げる。


「私はここから攻撃出来るけど、お母さんはどうするの?」

「投てき武器はそれなりに持ってるけど、あれだけ巨体だとね~。ってことで、周りのモンスターを近づけさせないようにする」


 そう言うと、ミカの背後に近づいていたコボルトを一突きで倒して行く。

 他にも近づいてくるモンスターがいたが、槍だけでなくローブの下に隠しているナイフを投げる。その投げたナイフは、全てが急所を突かれていた。


 痛みで悶絶していたサイクロプスは、ある程度収まったのか手を退けて、その大きな目玉をギョロギョロさせて周りを見る。だが、誰が攻撃して来たか、分からなかったのか、激怒してその場で我武者羅に暴れ出す。何度も何度も跳ね、それにより地面が揺れ、サイクロプスの近くにいたモンスター達は踏みつぶされていく。その揺れはミカ達にも影響があり、ミカとフラージュはその場で素早く四つん這いになると、魔法と投てきナイフでお互いをフォローしながら周りのモンスターを倒して行く。

 ひとしきり飛び回ると、今度はカイの作った壁を何度もたたき始める。立ち上がったミカが素早く雷を飛ばすが、厚い皮膚に防がれてしまう。そのため攻撃が通ることは無く、氷壁が壊されてしまう。

 音を立てて氷壁が壊れて行く中で、サイクロプスは気分が良くなったのか笑みを浮かべる。それもつかの間、崩れた氷塊の中でも特別デカい物がサイクロプス目掛けて飛んで行く。その氷塊にはかなりの威力があったのか、ぶつけられたサイクロプスは後ろにのけぞる。


「部隊の半分は巨人を狙え!攻撃が来ても臆するな!」


 その掛け声で一斉に魔法がサイクロプスに向けて放たれる。ほとんどの攻撃が弱点では無い胴体に向けられた物だったが、数が数なため少なからずサイクロプスにダメージを与えていた。

 攻撃を受けて再度激怒したサイクロプスは狙いを魔人達に定め、拳を叩き込もうとする。


「その大きな目は見せかけかの?」


 サイクロプスの顔の前にはシャリアがいた。

 先程の氷塊を飛ばしたのはシャリアで、落ちてきている氷塊を殴り飛ばしたのだった。そして、今は魔人達の放った魔法を足場にしてここまで来ていた。

 シャリアは目玉に向けて、ここに来る前にガントレットに吸収させていた、赤い氷塊を生みだし放つ。

 その氷は目玉をつぶすのに十分で、攻撃をくらってすぐにサイクロプスは膝をつく。


 盲目になっても敵を倒すと言う目的は忘れていなかったサイクロプスは立ち上がろうとする。だが立ち上がることが出来なかった。

 足元を見れば、自分の身長の2倍はある大きな片刃の剣を持っているリオが居り、サイクロプスの両足の健が切られていた。


 目が見えなくなり、立つことも出来なくなったサイクロプスは混乱していた。視覚を失い、嗅覚もここまでに倒された者達の血の匂いしかせず、思うように動くことが出来ない。

 そんな中、背中に誰かが立っている感覚を感じたため、手をついている体勢から上半身を起き上がらせようとしたが、後頭部に衝撃を受けたためうつ伏せに倒れる。

 背中に立っているのはリオで、後頭部を殴りつけたのはシャリアだった。

 リオは先程まで持っていた大剣を再度取り出すと、サイクロプスの心臓部をめがけて大剣を突き刺す。それが致命傷となりサイクロプスを倒すことが出来た。

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