第147話


 走っていく中、カイは外の様子も感知する。

 すると、素早い動きでここに近づいてくる集団がいた。その数はおおよそ60人を超えていて、これがもし盗賊ならばここにいる兵士だけでは対処できない数だった。

 走っている中、カイは誰かに腕を引っ張られ倒れそうになる。だが引っ張った本人に支えられたため倒れることはなかった。そしてここまで近づかれたのに感知出来なかったということで白ローブが引っ張って来たのだと分かった。


「今はミカの所に行かないとですよね」

「そうなんだけど、たぶん来てるのは盗賊だよ。どうにかしに行くんでしょ?それなら手錠を持ってきたいと思ってね。私が戻るまでに制圧してもらって良い?両方とも」


 白ローブはわざわざ最後の「両方とも」を強調していった。カイもそれは分かっていたため黙って頷く。


「一通り探してなかったら紐か何かで縛ろうか」

「起きたら魔法で切られますよ」

「そこは兵士さんにどうにかしてもらお」


 そんな皮肉を言うと白ローブは手枷を探すために走り始めた。カイは検問所に向かって走り始める。




 検問所まで隠れながら向かうと、既に検問所の前にすべての兵士達が集まっていた。そして魔力感知では3人だけ検問所の中の物陰に隠れていることを確認できていた。カイはその3人の所に音を立てないように近づく。そこには侵入した時に倒した2人が寝ており、ミカが兵士達の様子を見ていた。


「カイ、何か分かった?」

「白ローブさんが言ってた通り少し前までたくさん兵士が居たみたい。その兵士達はバーシィ領に移動したってことと兵士の1人が盗賊に武器を横流しにしてたことが分かったよ」

「バーシィ領って…」

「俺がいたところで合ってる。けど、兵士達が移動したのは上級貴族が不正したせいらしいから大丈夫だよ。それより今は盗賊たちをどうにかしないと。ここまで兵士達が武装して出てくるってことは盗賊で決定でしょ」


 そう言ってカイが顔を向けたほうには完全武装で整列している兵士達がいた。仲間を歓迎する空気でも格好でもなく、今から戦う気満々でいた。


「白ローブさんは?何かしてるの」

「今から俺らが出たら兵士も盗賊も相手しないといけないでしょ?先に盗賊が起きて逃げられたら大変だから捕まえとくための手錠を探してる」

「じゃあ、この数を私達でどうにかするのね。兵士の後ろから不意打ちで良いの?」

「ダメだけど、今から盗賊の後ろに回れないじゃん。仕方ないよ」


 カイが仕方ないと話したところで兵士達が声を上げる。先程まで隊長と思われる者が話していたのが終わったのか皆が声を上げて気合を入れていた。


「私が雷でどんどん減らしていくよ。カイはその間に盗賊の方に走って」

「分かった」


 2人とも武器を構える。カイ達は兵士達の動きを注視する。兵士達は後ろを取られることが怖かったのかここから動かない。その間にも盗賊たちが大量に近づいてきている。

 すぐに盗賊たちが森から現れた。兵士達は再度武器を構え直す。


「来たぞ!返り討ちにしろ!」


 隊長がそう言うと兵士達が盗賊に向かって走り始める。隊長は馬に乗り兵士達に守られながら進んでいく。盗賊たちも声を上げて走ってくる。

 その場にカイとミカが検問所から出る。

 兵士達は前しか見ておらず、未だにカイ達の存在に気づいていない。2人は離れないように盗賊に向かって走り出す。前を走っていたカイが1人の兵士を追い越す。


「なっ!貴様誰だ!」


 兵士が声を荒げるが、周りの兵士達も声を上げているためにその声は聞こえない。兵士は持っていた剣でカイを斬ろうとするが、ミカが飛ばした雷に当たりその場に倒れる。カイとミカはそのまま前に進んでいく。ミカは通り過ぎる兵士をどんどん倒していく。


「なっ!敵は後ろにいるぞ!」


 隊長が馬に乗りながら後ろを振り向いたためカイ達の存在に気づく。それでもカイ達は兵士達の間を通りながら前に進む。そのたびにミカの手によってどんどん兵士達がやられていく。


「お前達!そいつらをやれ!」


 隊長の声を聞き兵士達は立ち止まりカイに剣を向ける。その瞬間一番前にいた兵士が盗賊とぶつかった。

 剣と剣がぶつかる音がしたために隊長は再度盗賊の方を見る。兵士達は引き続きカイ達に向かって攻撃する。ミカは接近されないように魔法で対処していく。だが、カイの方に向かった兵士達までは対処が出来なかった。

 カイは剣を抜き兵士達を切り付けながらどんどん盗賊の所に向かう。ミカも遅れないようについて行く。2人に向かって魔法を撃つ兵士もいたが、早く移動する2人には1発も当てられなかった。

 兵士達はそんなカイ達を追うが、盗賊が目の前まで来ていたために追うのを止めて迎撃体勢に入る。


「おい兄弟。いつの間に潜入したんだぁ?」


 カイの下まで来た盗賊がそう言って近づく。カイはその男を問答無用で切りつける。


「なっ!?くそぉ…」


 仲間が倒されたのを見た盗賊たちはカイ達も敵だと理解してカイ達にも襲い掛かる。カイは兵士達よりも力を入れ、深く斬っていく。ミカも後ろで雷を飛ばして遠くにいる兵士と盗賊を見境なく倒していく。


「あ、あいつはやべぇ。に、逃げるぞ!!」


 盗賊のトップがそう言うと盗賊たちは、負傷した仲間を置いて森の方に逃げて行く。

 そのため兵士達は盗賊からカイ達2人に標的を変える。


「盗賊お願い。兵士は全部俺がやる」

「分かった。戻ってくるときには終わってるかな?」


 挑発的に言ったミカは盗賊たちを雷で落としながら追っていく。

 そんなミカを追おうと兵士達が走るが、その兵士はカイに切り伏せられていく。


「お前達そいつをやれ!もう1人はほっとけ!」


 もうすでに10人もいない兵士達はカイに剣を向ける。

 ミカに挑発されたカイは負けられないと思い、今まで以上にやる気になる。


「一斉にかかれば倒せるはずだ!」


 その声を皮切りに兵士達が一斉にカイに向かって特攻する。

 カイも兵士達に向けて走り出す。カイと兵士が対峙するかと思われたが、兵士達はその場で膝から崩れた。

 それを見たカイはもうやることは無いと思い剣を鞘に仕舞う。


「な、なにをした!」


 隊長がカイを怒鳴りつけるが、その瞬間に落馬する。


「私が予想するよりも早く制圧出来なみたいだね」

「いいとこどりなんてズルいですよ」


 カイが声をした方を見る、白ローブは馬の頭をなでて落ち着かせていた。


「早めに手錠を見つけられたんだよ。それで来てみたらほとんど終わってるじゃん?少しは私も戦いたいよ」




 その後盗賊を全員倒したミカはカイの下に戻って来て、白ローブから手錠を受け取ると逃げた盗賊たちを捕まえるために森に戻る。カイは白ローブについて行ってと言われたため盗賊に手錠をかけ、検問所前で運ぶのを手伝う。

 その間白ローブは倒れている兵士も盗賊も関係なしに、傷に手を向けて光を当てて行く。すると光の当たった傷の部分が治っていく。


「2人とも手が止まってるよ。どうしたの」

「白ローブさんは何属性ですか?無属性とか?それなら身を隠すのは」

「私は光だけだよ。身を隠すのも、こうやって回復させるのも光属性の特性だよ」


 そう言って光と闇の特徴を話していく。


「ルナ様に聞いて知ってるかもだけど、闇は麻痺とか状態異常を与えることが出来るんだよ。逆に光は傷を癒せるんだよ。ただ毒とか状態異常は治せないんだけどね。光にはそんな力があるんだよ」


 言い終わる頃には兵士の傷がふさがっていた。


「全員は治せないね。ほら2人とも早く運ばないと」


 白ローブにそう言われ2人は盗賊たちを検問所に再び運び始める。

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