第146話
ウォーターベアーの血抜きをしたおかげか、ある程度ゴブリン達の近くを通っても気づかず、ゴブリン達は一目散に血の臭いがする方に歩いて行く。
カイ達はその隙をついて国境を超えるために走り始める。
ずっと走っていた甲斐もあり、王都の門に負けないくらいの大きさの門と壁が前方に見えてくる。3人は草むらに隠れて、どうやって通るか話し始める。
「2人とも中の様子分かってる?」
「分かってますけど…。国境を守ってるにしては人が少なくないですか?」
「こんな人数で守れるはずないでしょ。ここまで考え無し?」
魔力感知で中と壁の上に何人いるか調べた結果、現在いるのは40人程度だった。そしてこれはいつも通りと言うように監視のため皆がバラバラで壁面側にいた。
「違う。これは異常だよ。私がここを超えるときはいつも監視だけでも少なくとも100人はいたよ。それなのに監視してる兵が半分以下。その上、この様子だと待機してる兵はいない。ごめん急いでるんだけど、ちょっと調べていい?」
白ローブの提案にカイもミカも反対することなく、協力して今起きていることを調べることにした。
「まず、どこから入ろうか…」
「姿を消せる奴は使えないの?それ使えば簡単に入れるじゃん」
「あれは便利な分消費魔力がものすごいんだよ。ギリギリまで近づいてから使っても3人もいたら着く前に魔法が切れちゃうよ」
「ここは検問所まで真っすぐ行きましょう。検問所の見張りをしてる兵士は2人だけみたいですし、話しかけられた瞬間に制圧すればいい。そうすれば少しは時間を稼げるかもしれません。その間に分かれて調べましょう」
「力技で行くね~。でもそれが1番よさそうだね。分かった。その作戦に乗るよ」
「私は検問所で監視してるよ。逃げ口は合ったほうがいいでしょ」
作戦が決まったため、カイとミカはいつものローブと仮面をつける。
そして、モンスターから逃げて来た冒険者を装って、走って検問所に近づく。そして兵士の所まで走っていく。
「お、おいどうした。まさかお前達もあの盗賊たちにやられたのか」
焦って聞いてくる兵士に対してカイは壁面まで殴り飛ばす。
後ろにいた兵士から狼狽える声が聞こえたが、ミカが高速移動を使い一瞬で制圧する。
「作戦通りに行きましょう。ここの監視お願いね。さっき盗賊って言ってたのが気になるから気を付けて」
「分かってる。出来るだけ早く帰って来てね」
そしてカイと白ローブは左右に分かれて検問所と壁内を調べ出す。
カイはまず検問所の兵士達が休む控え室だと思われる部屋に入る。
「誰もいない。怪しいとしたら…あの木箱だよね」
部屋の奥には見る限り少なくとも大きな木箱が6箱はあった。カイが木箱を開けるとそこには大量の保存食があった。その量は木箱1つで今ここにいる兵士全員の2日分だった。そして奥にあった物も数えると、この部屋だけで24箱もあった。
「これ全部保存食だとしたら、100人以上がここにいたからこの量の食料はおかしく無さそうかな。逆に少ないくらいか」
カイは確認のため箱を全て調べると、予想した通り保存食だった。カイは他には調べる物が無かったため部屋を出て次の部屋に入る。
するとそこには先程の3倍近くの量の木箱があった。
「…多すぎだって。何入ってるの」
数を見るだけで嫌になっていたカイは嫌々ながらも中を調べて行く。
調べるのに時間はかかったが、全てが食料だと確認できたカイはその場で床に座る。
「これだけの量だったら、この人数で半年は過ごせそう。でもそんなにいる?定期的に近くの都市から食料を補充すればいいだけなのに。それにこれだけ同じ物食べ続けたら飽きそうだけど」
保存しておく食料の量を知らなかったカイは休憩もすんだため次の部屋に向かう。するとそこにはたくさんの木箱が同じ様に置かれていた。
「また?もう嫌なんだけど」
先程と同じ様に嫌な顔をしながら箱を開けたが、開けた瞬間顔つきが変わる。
「ここ武器庫か。よく見ると箱の大きさ違うもんね」
カイが開けた箱の中には直剣がたくさん入っていた。近くにあった少し小さめの箱を開けると、次はナイフ。同じ様にして開けて行くと、槍・矢・斧・ハンマーなど色々な種類の武器が大量に出て来た。
「これを40人で。多すぎるよね。それにいくつかは手入れが入ってないみたいだし」
そう言ってカイが手に持ったナイフは少しばかり錆ついていた。
「最近まで人がたくさんいたのは本当そう」
すると歩いてくる2人組を感知した。念のため木箱の裏に隠れると、案の定2人組はこの部屋に入って来た。
「にしてもさぼって大丈夫なのか?隊長が黙ってねぇぞ?」
「ここには私達の方が前からいるのよ?私達の方がどう動けばいいか良く分かってる。無駄に偉そうにしてる隊長の言うことなんて聞かなくていいのよ」
そう言うと、男女は木箱に座った。カイが顔だけ出すと、2人の手には瓶が握られていた。
「そうだな。急に隊長は変わるわ、あいつらも移動になるわで散々だ」
「そう言えば私どこか聞いた覚え無いんだけど」
「どこだったか。忘れたわ。おっと、そんなこと良いんだよ。今は酒だ酒!」
そう言って男の方はラッパ飲みを始めた。女の方も男に続いて飲んでいく。
「うめぇ!やっぱ酒がねぇとな」
「確かにおいしいけど、あんたどこから手に入れたの」
「それは秘密だ。聞くなよ。知ったら殺されるぞ」
「あんたに?よしてよ。弱っちぃあんたに負ける奴なんでどこにいるの」
「はいはい。俺は弱いですよ。でもな殺すのは俺じゃない」
「じゃあ誰なの。言ってみ?」
「言えるかよ。言ったら俺が殺されちまう」
2人が笑い合ってる中、カイは男の背中の方に回り込む。
「あ、そうだ。さっき言ったあいつらの移動先だがな、バーシィ領らしいぞ」
その名前を聞いて動揺したカイは近くに置いてあった木箱に当たってしまう。笑い合っていた2人だが、その音を聞き逃すことなく音がした方を見る。
「おい、誰かいんのか。つれねぇなぁ。一緒に酒でも飲もーぜ」
「そうよ。人数がいたほうが楽しいわ」
男の方が近づいてくるためカイは仕方なく勢いよく影から出る。そして出た瞬間に男の顔面に一発いれる。
「な、誰よ。まさか盗賊」
「んなわけあるか。盗賊だったら俺を攻撃しねぇよ」
「何言ってるの」
言い合いをしている2人を無視してカイは女の方に跳躍して蹴りを入れる。
カイのことを見ていなかった女は蹴りをくらいその場で気絶する。
「てめぇ誰だ!」
そう言って男は近くの剣を取りカイを切り付けようとして来る。だが酔っているため足取りがフラフラで、カイが回し蹴りをすると簡単に当たった。
動けなくなった男にカイは剣を抜きながら近づく。
「さっき言ってたバーシィ領のことを教えろ」
「お、俺は同僚が移動したことしか」
「本当?知ってるんじゃないのか」
怯えている男の首元に剣を近づけると男は先程よりも震え喋り出す。
「う、噂だとバーシィ領にいた上級貴族の1つが不正してたとか。そ、それで警備を厳しくするって。お、俺はここまでしか知らねぇ!ホントだ!」
「じゃあ次。なぜ盗賊だったら攻撃してこない」
「ここの余ってる武器を安く売ってんだ。今だってそのためにここに来た。その代わりに俺はたまに酒を売ってもらってんだ」
これ以上は聞くことが無かったため、カイは蹴りを入れて気絶させる。
男が倒れたのを確認して魔力感知を使うと、壁の上にいた兵士達がどんどん検問所に集まって行っている。
カイは急いで検問所にいるミカの所に向かった。
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