第253話


 悪意の全くない、小さな少年が吐いた純粋無垢な言葉に、先程まで程よい温度が一気に氷点下に変わったのではないかと錯覚するほどに冷める。


「彼らは私の友人です。今、この屋敷にいてもらっているんですよ」


 リオはほんの一瞬だけ固まったが、すぐに説明してオムニの後ろに下がり耳打ちする。

 耳打ちされたオムニはただ一言「わかってる」と返すだけでそれ以外喋らなかった。




 朝食が食べ終わると、クリミナルのことは他のメイドに任せて、カイ達とオムニ、リオは朝食を食べた部屋に留まっていた。


「さて、昨日、君達は彼にあってるはず。それなのに覚えていなかった」

「突然のことで記憶が抜けてるとか……」

「それはありえません。昨日の事情聴取の際、私も一緒に居りましたが、皆様が守ってくれたとしっかり話してましたから」

「それなら、子供の体になった同様に魔法道具マジックアイテムが原因としか考えられないですよね」


 このようなおかしなことは魔法道具マジックアイテムでしかできない。それもそぅなのだが、クリミナルの記憶を消す。その利点がオムニ達は分からないでいた。


「記憶を消すのは、クリミナルから犯人である自分の正体がバレないためじゃないですか?」

「それに、今日突然記憶が無くなったってことは、昨日の夜に侵入者がいたか、何か記憶を消すきっかけがあったとしか思えないけど……」

「決まった時間に継続的に発動する魔法道具マジックアイテムならある」


 ミカの疑問を解消するために答えたラウラは落ち着いて話し出す。


「さっき言ったけど、そう言う魔法道具マジックアイテムはある。でも欠点がある。使ってる人はその時に魔力が自動的に吸われる」

「クリミナルを使って分かりやすく言うなら、朝起きた時に100%の魔力を持ってるはずなのに、その魔法道具マジックアイテムのせいで起きた時に60%くらいしかないってことだね」

「そして、昨夜侵入者はおりませんでした。これは絶対です」

「それは僕も補償するよ。どんな魔法、魔法道具マジックアイテムを使ってもこの屋敷に気づかれずに入るのは不可能だよ」


 言い切ったオムニは、自身満々の顔で見渡すと、紅茶を口に含む。


「それと犯人がバレないためってあったけど、この姿になってるんだよ?誰もクリミナルのことをクリミナルだって認識しないよ」

「でも現にリオさんとオムニさんは知ってたじゃないですか」

「小さい頃のクリミナルは仲間と僕たち以外に顔を出さないし、誰と情報を売買してるか絶対に洩らさない」

「その仲間って」

「全員亡くなってる。だからクリミナルの小さい頃を知ってるのは僕とリオだけ」


 先程の魔力が取られることが目的なのではと言うが、オムニがそれも否定する。


「組織の末端がかけたとしたら、そいつを隠し解けばいい。ただ、殺しに来てるって時点で魔法道具マジックアイテムを使ったのは上の方の人間だろうけどね。ただ、昨日まで表には全くと言って良いほど出てこなかったんだよ。別に魔力が減ってても困らないんだよ」


 オムニの言葉に誰もが黙る中、カイがボソッと言葉を洩らす。


「2ヵ月前からずっとこの状態ってことは無いですか?」


 誰も喋らなくなっていたため、その呟きは全員の耳に入る。


「それもあり得るっちゃあり得るけど、どうかな~。クリミナルなら出来るのかなー」

「可能性としてはあります。そして、私とオムニは知ってました。おそらく見た目と同じ年齢までの記憶しかないのでしょう」

「どうして小さくなっちゃったかだよね~」


 場にそぐわない程に緩み切った声で言うため、空気が軽くなる。


「まっ、ここまで考えたけど、本当は目的なんてどうでもいいんだけどねー」

「……えっ」


 カイ達がとても驚きながらオムニ達を見ると、オムニは何でもなさそうに紅茶を飲み、リオは申し訳なさそうな顔を浮かべる。


「昨日、大量に捕まえた者達から記憶を覗いている状態のはずです。そのため敵の本拠地などを掴むことが明日までに出来る手筈になっています」

「もし兵士達ができなくても、家の魔法道具マジックアイテムで絶対に出来るから相手は尻尾を出した時点で終わりなんだよー」

「予定では朝食の時にお伝えする予定でしたが、クリミナルのことがあり話すのが遅くなってしまいました。申し訳ありません」


 深々と頭を下げるリオと、対照的にドッキリが上手く行ったとでも言うように満面の笑みを浮かべるオムニに、カイ達は何も言えなくなった。

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