第139話

 1人で歩けないカイはミカに肩を貸してもらいながら検問所にバレないように向かっていた。


「…ミカはこれからどうするの?」


 以前、カイが帝国に行くと言った時、ミカは悩んで答えが出なかった。今のカイは王都どころか王国に居ることも出来ない。そうなると帝国に行くしかない。ならばいつも行動を共にしているミカがどうするのか、カイ気になっていた。そして、心のどこかではミカは王都に残ると思っていた。


「一緒に帝国に行くよ」


 驚いて勢いよくミカの顔を見る。

 ミカは真っすぐ前を見たままカイを見ない。


「前にお母さんに帝国に行くかもって言ってあるし、帝国に行ってもお母さんに頻繁に会いに行くから」


 悲しさなんて微塵もない顔でミカがそう言う。本当にそれで良いのか聞こうとした所でミカが立ち止まる。


「着いた。今から検問所の前で白ローブさんが騒ぎを起こしてくれるからその隙に抜けるよ」


 カイが前を見ると、視線に先に検問所があり、たくさんの兵士が明かりを片手に集まっていた。

 耳を澄ませば「見つかったか」「面倒を起こしやがって」などの声が聞こえる。


 カイは魔力を大量に失った疲労で、ミカは作戦を必ず成功させなければいけないという気持ちから後ろへの警戒が疎かになっていた。

 後ろから2人の口元に手が覆いかぶされる。


(後ろ!?ヤバイ!)

(後ろ見てなかった!早く倒さないと…!)


 カイもミカも後ろにいる人を攻撃しようとしたところで、声をかけられる。


「今から手を退けるので大声を出さないでください」


 真後ろからラクダレスの声が聞こえた。つまり口を塞いだのはラクダレスだった。

 口元から手が無くなった2人は振り返る。

 そこにはいつも着ている白衣を脱いだラクダレスがいた。


「2人とも時間が無いですから質問はなしです。まず、今から1分以内に白ローブさんが作戦を実行します。次に追っているローブ男達のことです」


 ローブ男達と聞きカイは何か言おうとするが、先程聞いてくれと言われたため言葉を飲み込む。


「これ以降の調査ですが、1月後に帝国の騎士が来ることになっています。その方と調査をします。調査結果は白ローブさんに送るので白ローブさんに聞いてください。次にですが…」


 ラクダレスが続きを言おうとしたところで検問所の方が騒がしくなる。白ローブが作戦を開始した合図だ。


「カイ君、ローブ男は任せてください。必ず素性を明かして見せます」


 ラクダレスはそう言うと、2人に瓶を渡す。以前ラウラが渡してくれた回復薬と同じ瓶だった。


「これは回復薬と言う物です。飲めばある程度の怪我は治るので怪我した時に使ってください。2人とも気を付けて下さい」


 頷いた2人は回復薬を仕舞い、検問所に向かってばれないように歩き出す。




 検問所で騒ぎが起きる前、白ローブは移動しながら兵士達の動きを見ていた。


「結構バラバラに分かれてるけど、検問所に1番集まってるね。それにあれって騎士団長だよね?絶対にカイ君を逃がさないつもりだ」


 白ローブは屋根の上を走っているのだが、下の通りには前調べた時資料の役職の欄に騎士団長と書かれていた男が検問所に向かって部下と走っていた。


「それだけカイ君を逃がしたくないのは冤罪だから?でも逃亡犯1人に対して城の警備をあれだけ手薄にするかな~?他に何かありそうだよね」


 今王都では異常な量の兵士がカイを探している。それを白ローブは見ていた。そんなに人数を使えば城の防衛はがら空きになるはずだった。その上、騎士団長を出しているのだ。城の守りは皆無と言っても過言ではないと白ローブは考えていた。


 白ローブは考えながら、騎士団長をつけていると検問所が見えて来た。


「2人もそろそろついたかな?カイ君とミカは…。あれかな?」


 白ローブが騎士団長を付けるのを止め、カイに近づこうと屋根を伝いに走っていると、カイ達が今いる場所から少し離れた建物の屋根で待ってる人がいた。


「待ってました」

「待ってたって…。君はもう戦える体じゃないでしょ?ラクダレス」


 そこにいたのはラクダレスだった。白ローブが来たためラクダレスは立ち上がる。


「おそらく、あなたがあそこに攻め込んで混乱してる間に2人を逃がすんですよね?」

「そうだけど。君は何をしに来たの?」

「しばらく会えなくなるんです。挨拶くらいしたいですよ」


 笑いかけるラクダレスを見て白ローブは肩の力を抜く。


「それと、カイ君の名付けたローブ男達は私が調べときます。調査結果は帝都に私が直接届けに行くようにしますね」

「全部任せる形になってごめんね。じゃあ、ラクダレスが2人に伝えてくれるみたいだし私はもう行くよ」

「待ってください」


 検問所に向かって走り出そうとする白ローブを止めると、何かを投げる。


「彼が「逃げることが出来なかった時に使え」と言って渡してきた物です。今使うのが良いかと思ったので」


 それは赤色の石だった。しかしただの石では無く魔封石、しかも魔法陣が施されていた。


「彼がいじった物です。威力は同じ大きさの物の3倍はあるそうです。使えと言われた後わざわざ「悪用するなよ」って笑顔で言ってきました」

「…あの人らしいね。さっそく使うね」


 白ローブは改めて検問所に向かって走り出す。ラクダレスは白ローブよりも速度が落ちているが、それなりの速度で走りだす。そして、カイ達の後ろに移動して話しをした。




「さてと、さっそく使おっか」


 検問所に一番近い家の屋根に着いた白ローブはラクダレスから貰った魔封石に魔力を込める。少し流すと魔封石が点滅し始めた。白ローブは振りかぶり、検問所の奥目掛けてに投げる。

 兵士達は検問所の前に集まっているため当たることは無いと思っていた。

 投げて20秒ほどすると、検問所と大量の兵士が炎にのまれた。


「…3倍かぁ。私には30倍に見えるよ」


 検問所が燃えることで騒ぎになれば良いと思っていたが、予想外のことになった。だが、多かった兵士を減らせたため良いかと思うことにして屋根から飛び降りる。

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