第342話
振り下ろした剣が地面とぶつかる寸前で止め、すぐさま全力で振り上げてその笑みを浮かべた顔を切りつけようとしたが、先程のカイと同じようにハルマは一歩後ろに下がることで避ける。それを追ってカイがまた剣を振り下ろすが、先程同様に黒い水で出来た障壁を切り裂くだけでハルマ?に傷をつける事は出来ず、ハルマ?はひと際大きく後退する。
「このような動きだったか?なかなか上手い物だろう」
先程の一歩後ろに下がって避ける動き、誰でもするような動きだったが、つま先から腕の動きに加え、手指の先まで。全てを寸分狂わずに真似をして動いていた。
「出てこい」
声を発すると地面が盛り上がり黒い棒が出てくる。その棒の長さとカイの持っている剣の長さはほとんど同じ物となっていた。
「確か……」
ハルマ?は素早くその黒い棒で素振りをする。やはりその動きも先程のカイの振り下ろしの動きそのままであった。
「こうだな。では行くぞ」
踏み込みの仕方から、剣を振り下ろし対処された後の行動。全てが先程までカイが見せた行動そのものだった。そのためカイは自分自身と戦っているかのように感じ始めていた。
先程まで見せていなかった受け流しなど、自分の動きを見せれば見せるほどにハルマ?は真似をして同じ局面を作り、模倣した動きを見せてくる。
「己自身を戦うことなどなかろう。どうだ?楽しかろう?」
先程から浮かべた笑みを絶やさずに問いかけるハルマ?をカイは黙ったままただただ見つめ返す。その表情は先程までのハルマ?のように無表情だった。
「なんだ?己と戦うのは苦痛か?ハハハ!!」
その問にも答えず、カイは攻撃することを止め受け流しや受け止める事だけをし始める。
先程まで感情など感じさせなかったハルマ?は笑みを浮かべてからだんだんと感情的になってきており、攻撃もそのせいかどんどん激しくなっていた。だが、その分隙も大きくなっていた。
「なんだなんだ!?どーしたよ!つまんねぇことすんじゃねぇよ!このゴミが!」
高らかに笑みを浮かべながら棒を振りかざすハルマ?に対して、カイは一瞬の間に出来た隙を見逃すことなく、横腹に一撃を入れハルマ?のことを通り越す。普通の人ならば致命傷の一撃を確実に入れる事が出来た。
「かかったな」
先程までの高揚した声とは変わり感情を感じさせない冷たい声色が響くと、カイの側頭部めがけて棒が近づく。そのことを読んでいたかのようにカイはしゃがんで避けると、足に蒼い炎を纏わせてから後ろに目いっぱい蹴りを繰り出す。その蹴りによってハルマ?は後ろに吹き飛ぶ。
振り返れば、ハルマの腹は4割ほど繰られており、普通ならば助かるはずがない。そのはずだったが、ハルマからは一滴も血が出ておらず、すぐにその傷もふさがった。
「ふむ。陽動させることは不可能か。それなりの強者と言うわけか」
「そんな見え見えな演技、見破れない人がいるわけないよ」
「全知全能の神になりえるであろう我に不得手な事があると?馬鹿も休み休みに言うのだな」
持っていた棒を地面に落とすと、地面の中に飲み込まれるように消え、ハルマ?は両手をカイに向ける。その両の手のひらには拳大の黒い水の球体が作られていた。
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