第341話


 傷ついていると言っても、先程のラスター同様に傷ができ血を流しているわけではなく、体に無数の穴が出来ている状態だった。そんな彼の違うところといえば、ラスターの時は断面も肉だったが、現在のハルマの状態では断面が黒い液体になっていた。

 穴が開いた箇所から液体が大量とは言わないがそれなりに多めの量が流れると、その液体は逆再生するかのように元の箇所に戻り穴を埋め始める。


「核があるのか、それとも……」

「核などあるわけなかろう。我の体は魔力そのもの。核などという弱点になる脆弱な物は無い」


 何もなかったかのように服も体に空いていた穴も元通りになったハルマ?が再度ゆっくりと接近を開始する。そのハルマの後ろに瞬間的に移動するミカとリオ。彼が防ぐ様子は無く、突き刺さった槍と爪は体内に飲まれるだけで堪えている様子は全くない。続けて魔法で追撃するがそれを物ともせずただ前に進み続ける。むしろ魔法は吸収されているように見えた。


「羽虫が。


 ただ一言。その一言にミカとリオが壁まで突き飛ばされる。入れ替わるようにしてフラージュとシャリアが正面から仕掛ける。

 仕掛けたのだが、先程の2人の時とは違い皮膚がかなり固くなっており、金属と金属がぶつかったときのような音が響く。


退


 ミカたち同様に吹き飛ばされる2人。

 ラウラとR、アルマが魔法で攻撃をしかけるが、すべて吸収される。それはアルマの黒い羽も例外ではなく、刺さった瞬間に体内に飲み込まれていた。




 今度は3人が壁まで飛ばされる。3人の近くにカイがいたのだが、カイだけは飛ばされずその場に残っていた。


「無駄だと知れ。我を傷つけることなど……」


 喋っている途中のハルマ?に接近したカイが剣を喉に突き刺す。その刃は何も抵抗を見せずに突き刺さり、ハルマ?は口から黒い液体を吹き出す。かかると危険だと察したカイは剣を消してからすぐさま下がる。

 液体を吹き出したハルマ?だったが、その首の穴だけを埋めてカイに問いかけ始める。


「なぜお主には言霊が効かぬ?聞こえていようと無かろうと、我の命令通りに動くはずだというのに」

「知らないよ!」


 今度は赤い氷を腕に纏わせて懐に入り殴りつける。先程のシャリアと同じように殴りつけたのだが、結果は違った。

 シャリアの時は皮膚が固く、衝撃もほとんど投資ていないようだった。むしろほとんどの衝撃がシャリアに帰ってきていたためかなり痛そうにしていた。

 それに対してカイの攻撃は腹にめり込み、衝撃で壁まで吹き飛ばされる。


「……そうか。2000年以上の時で鈍ったか」


 変わらず無表情のまま真っすぐカイのことを見つめながら口をゆっくりと開く。



 言い終えると同時に壁の前に壁ができ、カイとミカ達が分断される。その壁は城に入ってきたにできた黒い壁と全く同じものだった。


「我の体は魔力そのもの。つまり魔力感知を使わなくても感覚的に感じ取ることができた。しかし、お主の魔力は持っていない。だから先程から不覚をとってしまう」


「お主の魔力を手に入れれば我はすべての魔力を滑る神となれる。神である我が世界を統治するのは至極当たり前のことだろう」


 わけのわからないことを話しながらも、攻撃してくるカイのことを視界から外さないようにしていた。視界にはとらえていたが避ける事は無く、ただただカイのことを見ていた。


「……もうよい。分かった」


 直立不動から初めて行動を起こした。手のひらに黒い液体を張り巡らせ、振り払う。と同時に黒色の液体による障壁が生まれる。できる寸前に一歩だけ後ろに下がったカイは剣を振り下ろして障壁を切り裂く。


「2000年ぶりの戦闘肩慣らしに付き合ってもらうぞ」


 ハルマ?が初めて無表情から笑みを浮かべた。

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