第276話


 姫とメイド、ミカ達が見つめる中で、カイとバルターは演習場の真ん中に集まろうとしていた。

 新しく作って貰った紫色の手袋をはめ、カイは目の前に佇んでいるバルター前に向かった歩を進める。

 相対するバルターは銀色の甲冑に身を包み、片手には自分の体と変わらない程に大きな盾。そして持っている武器は、両刃のついた大きな片手斧だった。どちらの刃も限界まで鋭く研がれており、光を反射していた。


「武人と戦うことは我が至高。今回のこと受けて下さり感謝いたします、カイ様」


 兜を付けて顔のほとんどは見えなかったが、隙間から見えた瞳は闘志に燃えているのが感じ取れた。それを見たカイは手袋をもう一度手袋をしっかりはめ直す。


「準備はよろしいですね。バルター殿、先に行っておきますが勝敗がついた時点で戦闘を止めてください。もし止められない際は私達が介入します」

「分かっております。ですが、あなた達とまた戦うのも楽しそうですねえ~」

「……気を付けろよ」


 サーバは最後にカイにそれだけ言うと下がって行った。


「カイ様、貴方の力量は知りません。ですが武人であると直感で感じております。万が一私が暴走したら申し訳ございません」




 2人が少し離れると、バルターが戦闘開始の合図を出す。

 その瞬間にカイは両手に氷を纏う。だがその氷は次の瞬間砕かれた。バルターが瞬時に近づき斧を振ったのだ。カイはその接近が分かっていたからこそ、受け止め後ろに退いた。


「今のを受け止めますか。まだまだ行きますよ!!」


 後ろに下がったカイに対して、バルターは接近し直す。カイは今度は炎を纏い、受けるのではなく迎撃に入る。斧の軌道をしっかり読み取り、避けて拳を突き出す。その拳をバルターも危なげもなく避けて半歩後ろに下がる。


「危ない危ない。その手、とても嫌な感じがしますね。当たらない方がよさそうだ」

「当たって見ないと分からないですよ」


 今度はカイがバルターに接近し始める。手が危険だと判断したバルターは斧を振って接近させないようにするが、カイの手数の多さに鎧が炎を掠る。掠っただけで鎧に霜が降りたことを確認できたためか、バルターは大きく斧を横に薙ぎ払い下がる。


「先程砕いた氷は熱い。炎は霜が降りるほど冷たい。ですか。不思議な魔法ですね。ここは私も魔法を使わせていただきます」


 バルターの額から生えていた角は茶色。つまり地属性。そのことが分かっていたためカイは岩が飛んでくると予想して身構える。だが、バルターが取った行動は地面に両手をつくだった。

 次の瞬間、大きな音を立てて砂埃が辺りを包む。普通ならば視界が悪いため行動出来ない所だが、カイには魔力感知がある。そして、バルターは魔人だと言うこともあり、魔力を感じ取ることはお手の物だ。2人にとってこの状況は何も影響はないはずだった。それだと言うのにカイの魔力感知は上手く機能せず、辺り一面が魔力でおおわれているような感覚になっていた。

 辺りに散っている砂粒全てが魔力を纏っているためだった。普通の人間なら出せない、魔人だからこそ出せる技だった。

 魔力感知が機能しないとは言え、戦いながらでも使えるため、どこから攻撃されても対応できるため、感知を使いながらも周りを警戒する。


 先程の大きな音のため耳に違和感を感じていたが、カイの耳には地面を抉る音をかすかに感じ取っていた。

 次の瞬間カイの足目掛けて地面から手が出てきて、カイの足首を掴む。だが、地面から音がしていたため、下からの攻撃も警戒していたカイは、すぐさま足の掴まれている部分の周りに青い炎を出す。すると、鎧の小手が凍り付く。カイが無理振りほどくと小手は砕ける。だが、その小手の下に手なんて無かった。カイはすぐに小手が出ていた穴に向かって炎の手を入れて伸ばす。すると、砂煙が起きる前にバルターが立っていた所と、また別の場所から青い炎の柱が立ち上がる。


 砂煙が落ち着き周りが見え始めると、小手と兜を外したバルターが両手を下にだらりとぶら下げながら立っていた。頭も下に向けていたため、表情を読めなかったが笑い声が聞こえていたため、カイは警戒して近づくのを止めた。


「最高です。最高最高。最高だ。……最っ高っだあぁぁああ!!」


 まだ薄く漂っていた砂煙はバルターの咆哮で完全に散る。バルターは満面の笑みを浮かべ、高らかに天に向かって笑っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る