第275話


 バルターとの戦闘が明日に控える中で、カイが今どこにいるのかと言うと、武器を作ってくれると言った男の下に来ていた。そして、目の前にある出来た自分専用の武器を眺めていた。




 姫がバルターと戦うように言ったことにカイは納得し、今からでも戦うのかと思い、部屋から出て行こうとした。それは他の者も同じで、全員が一様に部屋から出ようとしたが、それをバルターが止めた。

 バルターが言うには、カイが長旅で疲れているだろうから休むべきだと。そして、現在カイの武器が制作されているとことを報告した。


「ふん。ねぇバルター、本音は?」


 姫のその一言がカイ達は分からなかったが、サーバは顔面蒼白になりいつ倒れてもおかしくないような様子になり、メイドの女性は居づらそうに苦笑いを浮かべる。それとは逆に姫は先程までと同じように心底楽しそうに笑みを浮かべる。

 次にバルターの表情を見て、カイは背中に冷たい物が電流の様に流れる錯覚を感じる。口端は限界まで吊り上がり、姫と同じ様な楽しそうな表情を浮かべながらもその目は獲物を狙う獣その者だった。


「万全な状態で戦いたいのです」

「うむ、わかった。カイ様、戦いは1週間後、武器が出来てからでもよろしいですか?」

「わかりました」


 姫はバルターの反応を見た時も楽しそうにしていたが、受け答えをしたカイを見て笑いをこぼす。背筋から冷や汗を大量に流しながらも、カイは笑っていた。




 武器が出来たと連絡を受け、カイ達はバルターに連れられて鍛冶師に下に来ていた。その案内したバルターは部屋の前で待つと言ったため、部屋にはカイ達だけ入った。


「待ってたぜ。最高傑作だって言って良い」


 カイ達に座る用に促すと、男は1つの大きな木箱を取り出しカイの前に置く。

 その箱を開けると、白が基調となっていて黒の線が複雑に数本入った手袋が一組入っていた。


「中々に面白いもんが出来たと思うぜ。まずは魔力を流してくれ」


 カイが言われた通り魔力を流すと手袋はだんだんと白から紫に変色していく。


「……角を作った時と同じ仕組みなんだが、そう言うことか。まぁいい。今お前さんが魔力を流したことでそれはお前さん用の武器になった。付けてみな」


 カイの手の大きさに合うように作られた手袋だったため、付け心地は最高だった。


「お前さんは魔法を纏って戦ってるって言ってたからな。それは邪魔しないようにしておいたぜ。いつもの様に纏ってみな」


 言われた通りいつものように氷を纏わせると、見た目は何も変化が無く纏うことが出来た。


「……これすごいですね」

「だろ?だが、ソレだけじゃない」


 カイは感じ取っていた。いつも一瞬で纏っているため時間は変わらなかったが、明らかに纏った時の硬度が違う。いつもよりも硬い。それなのだが、何も纏っていない時と変わらない感覚で手を握ったり開いたりが出来た。その上、いつもよりも魔力の消費が少なかった。


 鍛冶師の男に一度魔法を解いてほしいと言われたためカイは大人しく魔法を解く。その状態で片方の手袋に魔力を流せと言われたため魔力を流す。すると流した右手の手のひら方から剣の持ち手出てくる。カイはその剣を勢いよく抜く。

 見た目はシンプルな物だったが、今まで持っていた剣よりも刀身が綺麗で鋭いことは分かった。


「それに比べれば、お前さんが持って来た剣なんて子供のお遊びで出来た剣だな。っと、切れ味は後で試してくれ。面白いのはここからだ。嬢ちゃん、剣を持ってみてくれ」


 男に言われカイはミカに剣を渡す。最初は剣として存在していたが、数秒をすると剣が忽然と姿を消す。


「き、消えた…!?」

「その剣は持ち主の魔力がねえと数秒で消えちまうんだ。敵に使われる心配がないだろ?防犯だ防犯」


 豪快に笑う男を隅に、カイが再度手袋に魔力を通すと剣の持ち手がしっかり現れた。剣を抜くと先程と変わらない剣が出て来たため、どうして出て来たのか分からなかった。

 鍛冶師曰く、出て来た剣は全てコピー品で、元の剣の記録が手袋の中に記録されており、その剣を魔力で生み出していると言う物だった。つまり、魔力を流す事が出来る状態であればいつまでも武器を生み出す事が出来る。


「さてクライマックスだ。またさせちまうが魔法を纏ってくれ。纏った状態で手袋に魔力を通してみな」


 言われた通り、今度は炎を纏う。氷の時と同じでいつもよりも魔力の消費が少なく楽に纏うことができた。それに加え、いつもよりも炎の勢いと範囲が大きかった。

 鍛冶師が驚いているのを無視し、カイは手袋の魔力を流していく。すると、全てが青い炎で作られた剣が出来上がる。先程と違い、手のひらから持ち手だけが出てくるのではなく、剣その物が生み出された。


「魔法で生み出されてるとは言え、切れ味はさっきの剣と同じだ」


 その後、普段の戦闘スタイルはもちろんのこと、剣を使った戦闘の調子をミカ達と軽く模擬戦する事で確かめた。

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