第274話
(好きな方を付けろって言われても……。こっちで良いかな)
カイの魔力は特殊な物。人前で使って面倒が起きないと言う方が無理がある。そのため街中では使うことが出来ない物と言って良い。結果、どちらの角を付けたとしても意味が無いと言う結論に至ったため、カイは最初に目に入った赤色の角を額に着ける。
周りを見れば、全員が同じ様に角を付けており、お互いの角を興味深そうに見ていた。
「皆さま気に入られた様で良かったです。今から姫様にあっていただきます」
そう言ってバルターは扉を開ける。ぞろぞろと部屋を出ていく中で、最後に出ようとしたカイが角を出してきた男に呼び止められる。
「この目で見て、俺がそれを作れって言われたワケは分かった。だが、わざわざ属性が込められた物を2組も作るわけがわからねぇ」
「それ以上は詮索しないで頂きたい」
男の言葉に対してカイよりも先にバルターが反応して、どこから出したのか分からないが、ナイフをいつでも投げられる体制で構えていた。
「ま、待ってくれ旦那!俺は力になりたいだけだ!」
「力に?」
「見たところ坊ちゃんは武器を持ってねぇ。
バルターの殺気に当てられて、先程までと違いかなり早口で焦った様子の男は縋るようにカイのことを見る。
カイの戦闘スタイルは手に魔法を纏って戦う形。つまり武器は要らないため、現在持っている武器と言えば、王国の学園にいた時に買った剣だけ。魔法が使えない時はシャリアが小手を貸してくれていたが、これから先もそうするわけにはいかないと思っていた。
「これです」
カイは怯え焦っている男に袋から出した剣を見せる。男は目にも止まらぬ速さで近づくと、剣のことを凝視し始める。
「こりゃ……ひでぇな。どこの素人が作ったもんだ。……なぁ本当に剣で戦ってんのか?」
剣を数秒見ている間に男の様子は落ち着き、カイのことを真っすぐ見る男の目は職人その者だった。
「いえ、基本は拳で。魔法を纏って戦ってます」
「そうか……。バルターの旦那、坊ちゃんを1週間後にまた連れて来てくれ。お前さんも是非来てほしい。俺にお前さんの武器を作らせてほしい。頼む」
先程まで睨んでいたバルターは打って変わって驚いた様子を浮かべながらも、目の前で深々と頭を下げる男のことを見つめる。数秒見つめたあと、今度はカイのことを見つめ、頭を下げる。
「カイ様、これは私のわがままでございます。この者は魔国1の職人と言われた程の腕前を持つ鍛冶屋です。そんな彼が誰か個人に武器を作らせてほしいと言うのは大変珍しいことです。この男が作ると言ったからには最高級品を作るとお約束いたします。この者にお時間をいただけないでしょうか」
「俺としては、武器を作っていただけるなんて嬉しい限りです。是非お願いします」
「ありがたい」
そう言ってカイが出した手を、男は力強く握った。
武器を作ることを確約すると、男はすぐに部屋を飛び出していった。カイ達もここにいる必要がなくなったため、バルター案内の下、姫の下を向かい始めた。
建物の中を数分歩いてバルターが開けた部屋に入れば、姫が座っており、後ろにはサーバと見たことのないメイド服を着た女性が立っていた。バルターもカイ達を座らせるとサーバの隣に移動した。
「話したいことはたくさんありますが、まず、何故カイが来ているのですか?彼が来た時の危険性をオムニも知ってるはずですよね」
「それはオムニも承知の上です」
「ならっ!」
「結界を破られた時点で公国には安全な所がありません」
リオに詰め寄っていた姫は静かに、だが威圧感を確実に含んだその言葉に黙る。
「3枚ある結界が1枚破られました。そして、姫は「ラスターは以前よりも力をつけていた」そうおっしゃりました」
「基本的に
「リオ様、何を……?」
「強くなったのは、ラスターが魔力を吸ったからですね。彼の副隊長の」
リオの発言にバルターだけは驚いた顔をしており、残り2人は分からないと言う表情を浮かべる。そして、姫様はやはりかと言うような顔になる。
「その通りです。ラスターは王家が禁忌として封印していた彼の魔力を吸収したようです」
「姫様!」
「バルター、黙って。はぁー、リオの予想通り」
今までの態度と変わって、姫は背もたれに寄りかかり頬杖をつき始める。
「オムニも分かってたんでしょ?倒し切れてないって」
「予想はしておりました。そして、私達の協力者がある
「なんの話をしてるのか分かりますか、サーバさん」
ここまで黙っていた女性がサーバに話しかけると、サーバはただただ首を横に振る。
「魔人を生み出した存在を殺すことが出来なくて、今まで封印していたってこと」
「その封印をしていた
「初代王の誤算は、副隊長の魔力の多さと結界ですね?」
「そう。瘴気となった魔力を一切外に出ないようにしたから自然消滅する前に本人の吸収。それを封印されてからずっと繰り返してる」
「魔国中に広がったとは言え、源の魔力は強力。それをラスターが吸収してしまったと」
そう結論付けると、姫はいつの間にかバルターが用意した菓子を口にしていた。
「ともかく、これ以上強くなったら本当に手が付けられないってこと。だからカイには公国にいてもらって吸収されないようにしないと」
「姫様、これ以上強くなったらではありません。現状、既に手に負えない状況じゃないですか」
リオの言葉に姫は図星だったのか何も言い返せない。
「それならば、対抗できる力を持っているカイ様に協力していただいた方がよろしいでしょう。オムニも私もそれが得策だと考え、カイ様に協力を仰ぎました。姫様よく考えてください。いつかでは無く、今討つのです」
姫は難しい顔をした後で、1つの結論を生み出した。その顔は何か企んでを含んだ、とても楽しそうな笑顔だった。
「カイ、貴方はラスターを討つために魔国に来た。そうですね?」
「はい」
「貴方にそれほどの力があるのならば、私は貴方にラスター討伐を依頼いたします。その時私達はどんな協力も惜しみません。ですので、バルターと戦って実力を私達に示しなさい」
姫の表情いつの間にか真剣な物に替わり、一国の王なのだと分からせる威圧を放っていた。
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