第273話
サーバを先頭に入った通路はとても暗く、全く前が見えないため、足音を頼りに進んでいる状態だった。
視界が悪く聴覚と触覚のみが働いているためか、全員の嗅覚が研ぎ澄まされており、全員がこの先から感じる異臭、血と薬品の匂いを感じ取っていた。
「……もうお分かりかと思いますが、この通路は怪我をした者達の部屋と繋がっています」
「いざと言うときに怪我人から逃がすためですか?」
「そうです」
空気が重く長りながらも進んでいくと、明かりを見つけ全員が前にいる者達の姿を少しずつ確認できるようになって行く。
そして通路を出た瞬間、目の前に広がって来た光景は、少ない数の魔人たちが体中に包帯を巻いた状態で横たわる姿だった。包帯には血が滲み、大量に苦しそうな声が聞こえてくる。
サーバが部屋に入ってすぐに、1人の男性の魔人が駆け寄ってくる。その男は先程まで他の魔人を治療していたのだが、本人も怪我をしており包帯を巻いている上に両角が折れていた。
「姫様!」
「皆の様子は」
「……1人の同胞が逝きました。包帯は備蓄があったため足りていますが、薬の数が圧倒的に足りておりません。光の魔力を持った者が治療していますが、人数が少なく治療しきれておりません」
報告を聞き、姫はただ一言「そうですか」と言うと奥に進んでいった。
「サーバ、お前は姫の所に」
「分かりました」
サーバも姫について行ったため、カイ達もついて行こうとした所で先程の男がカイ達の前に立つ。
その男、バルターは姫の執事で、侍女と一緒に姫の身の回りの世話をしていた。そして、姫に客をつれてくると言われ、カイ達を泊める部屋の準備をしていたのだ。
バルターに案内された部屋に入ると、そこには筋骨隆々の男が椅子に座って寝ていた。寝ていると思っていなかったのか、短くため息を吐くとバルターは男のことを叩き起こす。
叩かれた男達は痛がりながら文句を言っていたが、バルターの顔を見た瞬間にすぐに椅子から立って頭を下げて謝り出した。
「俺のことなど良い。姫様に頼まれていた物は」
「で、出来てます!」
男はそう言って横の戸棚から箱を取り出し、開けて見せる。そこに入っていたのは、魔人達がついている角その物だった。
「これを。額につけてください。多少の衝撃では取れませんが、引っ張れば取れますのでお気を付けを」
前に出された箱に入っていた角は全部が白色で、先にフラージュとシャリアと取っていく。それに続いて角を取っていく。
最初の2人が取った時は色が変わらなかったが、ミカとラウラ、リオが取ると角の色が変わり出す。角は取った物の魔力に反応して色が変わっており、ミカは黄色、ラウラは緑色、リオは灰色だった。
「俺の分は……?」
「カイ様の魔力はやや特殊だと聞いておりましたので、こちらで用意しております」
バルターが言い切ると、先程の男がさっきよりも小さめの箱を出してくる。その箱には先程の色がついていない角とは違い、赤色の角が2本、青色の角が2本入っていた。
「どちらの角を付けるかは、カイ様に委ねます。先程も言った様に簡単に取ることが出来る物ですので付け替えるのも有りですね。姫様の用意も整ったことでしょう。皆様こちらへ」
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