第207話


 後ろ姿だけでも自分達が押さえつけてる存在がアディだと言うことが分かり、カイとミカは驚いて押さえつける力が弱くなりそうだったが、フードを取ったことでより一層アディが暴れたため、弱まるどころかより力を入れて抑え込む。

 アディを抑え込む力が弱まりそうだったことなどシャリアは気にすることが出来ず、内心混乱していたが、すぐに立ち上がり魔人を蹴りで仰向けにさせて馬乗りになる。


「言え!あの子に何をした!」

「…」

「言わんか!」


 シャリアが魔人の顔が掠るようにパンチを出す。そのパンチは地面を陥没させものすごい音が響く。


「次は当てるぞ!その顔をつぶされたくなかったら言うんじゃな」

「…俺はそいつの願いをかなえただけだ。そいつはな!力が欲しい、魔力が欲しいって言ってたんだよ!俺はただそれをかなえただけだ!何もわりぃことはしてねぇ!全部そいつが願ったことだ!」


 魔人の訴えにシャリアは怒りが湧き顔面を1発殴りつける。痛みで悶えている間にシャリアは馬乗りを止めて、魔人の左胸に片足を付けて踏みつける。結構な力を入れているため魔人が苦しそうな声を出すが、シャリアはかまわず問いただす。


「お主の主張は嫌と言う程分かった。今のシャリアはどんな状況なんじゃ?死にたくなかったら答えろ。今すぐにでも私はお主をつぶしたいと思っとるからの」


 シャリアの魔人を見る目には既にハイライトは消えており、とても冷たい物になっていた。魔人が顔を殴られた痛みと胸を踏みつけられている痛みで喋れずにいると、シャリアは一掃足に込める力を強くする。


「グッ、あいつが無能なのは知ってるだろ。あいつの体には魔力器官ってもんはねぇ。そのせいで最初に入れた魔力が暴走して体内から壊してってるんだよ」


 言っている途中で笑みを浮かび始めたため、シャリアがより力を込める。それにより魔人の顔がこわばった物になる。


「他にしたことは」

「い、いずれ魔力が体の組織を壊しつくして死ぬんだ。だから俺は人間の限界を知るために持ってる魔力をあいつに入る限界まで入れた」

「それだけじゃないの。何か入れとったじゃろ。見てないと思ったかの」


 よりシャリアが足に込めたため魔人の苦しむ声が強くなる。そして魔人とシャリアの耳には骨が軋む音が聞こえている。


「グゥッ!そ、それだけじゃ動きそうになかったからな。な、仲間が作ったちょっと面白い薬を使ったんだよ」

「効果は?」

「お、俺も詳しくは知らねぇが、打った奴の体を強くする代わりに、自我を一時的に無くす代わりに復讐しか考えられなくなるとか言ってやがった。効果はなげぇからそいつが元に戻る頃には死んでるぞ!」


 魔人が楽しそうに言い切ると、シャリアは足に込める力の制御を誤り骨を折る。その音が演習場内に響く。魔人が苦しそうに悲鳴を上げる中シャリアは踏んだまま観客席を見渡す。

 そこにはもう観客はいなくなっており、兵士と騎士が武器を構えて待機していた。


「誰かラウラとリングを呼ぶのじゃ!急げ!」

「な、なにする気だよ…。そいつはもう助からねぇぞ」

「やはり魔人じゃの。胸骨を折っても生きとるとはの。じゃが、ほっといて死なれたら困るの」


 シャリアは魔法薬を取り出して雑にかける。すると、折れていた骨は元に戻ったのか魔人の顔が元に戻る。


「治ったようじゃの。じゃが、完治させる訳が無かろう」


 シャリアは開いている片足で魔人の腕を勢いよく踏みつけ骨を折る。魔人の顔が苦痛で染まった瞬間に今度は反対の腕をラウラが勢いよく踏んで折る。

 両手を折ったシャリアは再度魔人の胸の部分を踏みつけて動けなくさせる。


「腕を折った程度では死なぬもんな?後で色々話してもらうからの」




 シャリアが魔人に尋問をかけてる間、カイ達はシャリアのことを押さえつけるしかなかった。同じクラスメイトを、いつも話していた人を押さえつけることにカイ達は苦しさを覚えながらも、これ以上アディに残酷な事をさせないためと思い抑えつける。


 シャリアがラウラのことを呼んで1分足らずでラウラが演習場に入ってくる。


「ごめん。時間かかった」

「ラウラ、カイ達が押さえつけてる者の魔力を診とくれ」


 ラウラは今出せる最大限の速さでアディに近づき、以前カイの魔力を見たときと同じ様に魔法道具マジックアイテムを使い魔力を見る。


「…魔力器官が無いからダイレクトで体の組織を壊してる。…今すぐに魔力を抜いてもこの子は長く生きられない」

「…その魔力を抜くことは」


 未だに押さえつけているミカに問われてラウラはゆっくるとミカのことを見る。そして目線を合わせるとゆっくり首を横に振る。


「そ、そんな…」


 ミカが落ち込んでいる間にカイはラウラに手招きして魔人に聞こえないように小声で話しかける。


「あれ使えば行けるんじゃないの」

「抜くのは出来る。でも抜いた魔力をどうにかする術がない。今のままでも結構な量の魔力があるから入れたらその人の魔力器官が一瞬で壊される。正直ここまでの量の魔力が入ってるのに未だに生きてる方が異様」


 シャリアは魔力を抜けない理由を離した後に悲しそうな顔になり、詰まりながらもまた話し出す。


「それに長く生きられないって言うのは年単位じゃない。医者じゃないから詳しく分からないけど長くて数日、最悪数時間」


 ラウラの見解を聞き、カイもミカと同じ様に落ち込みかけるが、込めている力は緩めないように注意する。




 ラウラが診てから数分、シャリアが魔人を踏みつけながら兵士や騎士に指示を出していると、リングが走りながら入って来た。その横にはフラージュの姿もあった。


「その子だね。抑えつけないと暴れる感じかな?」

「はい。これ以上アディにあんなことさせる訳に行かないですから…」


 診るため近づいてきたリングに聞かれ答えると、リングはすぐに魔法道具マジックアイテムの準備に入る。その間フラージュとシャリアのやり取りを聞く。


「避難はあの子のフードを取る前に終わっていたので、あの子の正体はおそらく誰にも知られてないです」

「そうか…。ナキャブの方はどうじゃ?」

「今陛下達の護衛をしています。数人の騎士を追加で送ると言ってました。先に着いた兵士達が学園祭に来ていた者が随時学園から帰らせてます。全員を帰らせたら学内の安全確認をするようにと指示が既に出てました。サリーさんには今、城で魔人を拘束できそうな物を探して貰ってます」


 シャリアとフラージュの会話に集中していたため、リングの方の準備が終わっていることに気づかなかったカイは突然肩を叩かれて驚く。


「あ、驚いちゃった?ごめんね。魔力を診ないといけないから、ちょっと退ける?」

「あ、はい」


 カイとミカに抑えられながらアディはリングに魔力を診られていく。するとリングは驚いた様子になる。


「カイ君の見て無かったら驚いてひっくり返ってたかもねー。…2人とももう抑えなくて大丈夫だよ」

「え、でも暴れようとしてますよ」

「いいから。早く退く」


 いつもはニコニコ笑顔でいるリングの顔が真剣な物に変わったため、2人はすぐに抑えるのを止めて退く。するとアディはまた起き上がろうとして手をつくが、力が入らないのか体を起き上がらせることが出来ない。


「もうほとんど体内が壊されてるから力が入らないんだよ。…2人とも見ない方が良いから早く出て行きな。ラウラさん2人をお願いします」

「リングさん、もうアディは…」

「…助からない。あと1時間も生きれない」


 リングには離れた方が良いと言われたが、2人はアディの最後を看取るために動かなかった。

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