第250話


 外はとっくに日が沈んだため、空は暗くなっていた。だが、日々国民から魔力を収集しているこの街では該当が設置されているため、夜でも出歩くのは容易だった。

 そんな時間にカイ達は、オムニの屋敷ではなく兵士達の詰所に来ていた。

 何故そうなっているのか、それは数時間前に遡る。




 レストランを出たカイ達は、フライヤーではなく馬車で現在いる西区から南区に向かっていた。


「これからいく南区は家具などを作っている所です。他にも家などの建物、数は少ないですが魔法道具マジックアイテムの制作をしている所もあったりします」


 南区についてリオは話していたが、カイ達は先程の無銭飲食のことが気になっていた。


「あんなにおいしい料理が出るお店だったから食べたいのは分かるけど、払わないで逃げるなんてやっぱり違うよね」

「確かにね。でも追ってる人がいるから大丈夫だよ。絶対捕まるって」

「…どうでしょうか」


 ボソッと言ったため、普段だったら聞こえないかもしれない物だったが、場所が馬車と言うこともあり、カイ達の耳にはリオの呟いた言葉が聞こえていた。


「どう言うこと何ですか?」

「皆様には関係の無い、関係させてはいけないことだと思い話していなかったのですが、思った以上に被害が多いようなので皆様もお気を付けください。実は現在公国では愉快犯が出没しています。そして、その愉快犯の思想に影響された者達が現れ始めているのです」

「愉快犯?!」

「はい。シャリア様はよくご存じだと思いますが、国を動かす以上汚い物が出てきてしまいます」

「それは当然じゃ。だから帝国では過激な反国家の思想を持つものは危険視して、いつでもどうにか出来るようにしてる」

「公国も同じです。ですが公国はそういう者達に協力を仰ぐことがあります。やはり裏のことを一番知っているのは裏の人間ですから」


 表からでは絶対に見ることの出来ない会話に、カイ達の間に重い空気が流れだす。


「問題になっている愉快犯を私達は『クリミナル』と呼んでいるのですが、彼も最初は1人の裏の人間でした。彼は裏ではかなり有名な情報屋でして、金を出せば悪人だろうが善人であろうが相手の求めている情報を売る。そんな男でした。もちろん私達も彼から情報を買うことがありました。本人しか知らないであろう情報もあり驚いた物です」

「ですが彼は私達と情報を売り買いを始めた20年前から、ずっと牙を研いでいたんです。いつか公国を落とすために」


 予想もしていなかった年月に言葉が出ず、リオの次の言葉を待つ。


「もちろん私達は最初から色々と対策はしていました。彼の情報の質の高さかから凄腕だと言うことは分かっていたので慎重に、バレないよう、牙を向けられた時に確実に捕まえられるよう。ですが私達が想定するよりも彼の情報収集力は凄かった。彼は何食わぬ顔でいましたが、おそらく最初から私達が捕まえられる用にしていたことは分かっていたのでしょう」


「事は約2ヵ月前です。監視していた彼を見失ったんです」


「私達はすぐに捜索しました。オムニも協力いたしましたが、彼を見つけることはかないませんでした」


「そして1ヵ月前、悲劇がおきました。中央区のとある店で引きこもり殺人が起きたんですが、その犯人は彼だったんです」


「殺害されたのは、国の政治に関わっている貴族の息子でした。街のいたる所に遠くの様子を映像として投影する魔法道具マジックアイテムを設置し、息子を殺す所を放映したのです」

「愉快犯って言いましたけど…」

「彼は殺すとき言ったんです「これは断罪だ。こいつは貴族と言うの良いことに裏で違法薬物に手を出していた。そして一部の兵士はそれを見て見ぬふりをした。由々しき事態だ。だから俺が手を下すんだ。真っ赤に染めるんだ」と」


「犯行現場を特定し、現場に急行した時には遺体と、血で壁に『俺が断罪する。国は頼れない』としかありませんでした」


「その日の夜、兵士は3人程殺害されました。その兵士こそが、貴族の息子の犯行を容認している者達だったんです」


「これらの情報は次の日には広められていました。おそらくクライムは流したのでしょう。それからです。「クライムの意思だ。お前も断罪されろ」と言うような犯行が増えているです」

「そんな…」

「現在、巡回する兵を増やしたりして対策しています。そのおかげと言っては何ですが、そのような事件は殺人未遂で止められています」


 話し終えたリオは、自前のバックから飲み物を出して飲みだす。長く話しており、喉が渇いていたのだ。飲み終わったのを確認するとミカが一番に話しかける。


「クライムの動向は?」

「最初に1件以降、表に出てこないんです。もちろん捜索していますが…」

「上手く行っていないと」


 重い空気がより重くなる。何か話そうとしても言葉が見つからず何も言えなくなる。そしてより重い空気になる。そんな悪循環になっている中、リオがそれを断ち切ろうとする。


「ここ1週間は変更件数もグンと減って安全になってますが、何が起きるか分からないので、皆様も気に留めていてください」


 全員が気を付けようと心掛けた瞬間に、馬車が失速していき、ついには止まってしまう。


「どうしたんですか?」

「お客さんごめんねー。なんか前で人だかりが出来てるんだよ。おーい、ちょっと通してくれー」


 御者のおじさんが声が聞こえ、何が起きてるのか説明に来た女性の話しによると、前で冒険者達が「無銭飲食やろう!やっと捕まえたぞ!ちょこまかしやがって!」と言ってを捕まえてるとのことだった。


 あまりにも騒ぎが大きくなっているため、リオが鎮めようと人混みの中に入っていく。カイ達も犯人の顔が気になっていたため、人混みの中に入っていく。




 人混みを抜けた先では、冒険者に捕まえられたであろう男の子がリオの足に抱き着いており、リオの顔はありえない物を見たと言わんばかりに驚きに染まっていた。

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