第251話
「おい姉ちゃん、そいつの保護者か何かか?」
少年のことを捕まえてたであろう冒険者に話しかけられるが、リオは固まって動けないでいる。
「リ、リオさん……?」
目いっぱいに涙を溜めながら上目遣いでリオのことを見つめる少年。それを見てようやく正気を取り戻したリオが冒険者と話しをつけ始める。
話しをつけ終わり返って来たリオの足には先程の少年がガッシリとしがみついていた。見た感じ、どれだけ強く足を振られようと絶対に離れないと言う少年の意思が強く感じられた。
「リオさん、その子は……?」
「……ここでは話す事が出来ません。騒ぎも収まったことです。馬車に戻りましょう」
いつまでも足にしがみついている少年のことを見ながらカイ達は馬車に戻って行く。
「ん?お客さん、1人追加かい?」
「はい。これでお願いします。それと、今から話す事は他言無用でお願いします」
「はいよ」
多めにお金を渡すと、リオは真剣な眼差しでカイ達のことを順番に見る。
その間馬車は前にまだ人がいるため、動いていなかった。
「街を案内している所にこのような申し出をするのは大変心苦しいのですが、……先程のレストランまで戻ってもよろしいでしょうか?そして、その後は屋敷に戻りたいのですが……」
「その子は何者なんですか?」
リオは視線を下にいる少年のことを見てから、意を決したように話し出す。
「この子に名前はありません。孤児です。私とオムニが初めてこの子にあったのは裏路地で、初めの方は敵意と殺意を込めた視線で見られたことです」
続きを話そうとした所で馬車が動き始めたため、御者が目的地はどこか聞いてくる。
「戻りましょう」
ミカのひと言に全員の視線がミカに集まる。
「お店の人に謝らないとだめですよ!それに観光はまだ後日できますから」
「……そうだね。戻ることにしようか」
「ん」
「私はお主たちに任せる。好きにせい」
「皆様お心遣い感謝いたします」
リオのお礼を聞いた瞬間に馬車は方向転換し始め、西区に向かい始めた。
西区に向かう中で、もう話しを聞く人がいないだろうと判断したリオが少年のことについて話し出す。
「先程、私はありえないと思い驚きましたが、世の中体の時間を止める魔法があるんですから、ありえないなんて無いですよね」
「この子は今巷を騒がせている『クリミナル』本人です」
このことには、カイ達だけでなく御者のおじさんも驚いて振り向いてくる。だが、いつまでも後ろを見ているワケに行かないためすぐに前を向いて馬に指示を出し始める。
「クリミナルってこんな子供だったんですか?!」
「いえ、ちゃんと成人した青年ですよ」
「じゃあ……」
「
さっきいったリオの言葉からクリミナルが子供になった原因を
「確実に、とは言えませんが可能性は高いかと」
「リ、リオさん、この人達は……?」
今までずっとリオから離れなかったクリミナルが、リオの袖を軽く引っ張るのを繰り返す。
「彼らは私の友人です。それよりどうしたんですか、そんな恰好をして」
少年が来ている服は所々に土がついていた。これは先程冒険者に捕まった時に付いた物だと予想出来た。だが、服が破けているのが気になった。力で引き裂かれたのではなく、刃物で切られたような跡なのだ。
「追われてる。腕に狼の刺青を入れた人達に。ねえ、街並みも変わってるしどうなってるの?!それにクリミナルって何??!」
『腕に狼の刺青を入れた集団』このことに思い当たることがあるのか、リオの顔が険しい物になる。
「これは、かなりマズイことになりましたね」
「嘘ついてるとか……」
「どうでしょう。私には嘘をついてる様に見えません。ともかく、屋敷には調べるための
屋敷の
すぐに全員が馬車から降りて迎撃しようとしたが、クリミナルが手を掴んで離さないため、リオは降りることが出来なかった。
「リオ殿はそこにいるんじゃ!私とカイで撃退、ミカとラウラで馬車を守るんじゃ。フラージュ、お主は奇襲じゃ。カイ!魔法は使うで無いぞ!」
シャリアはそう言うとカイに向かって自前のガントレットを投げる。
「片方に1種類しか入らん!それ以外は全部衝撃が来るから気を付けるんじゃぞ!」
「分かりました!」
ガントレットは装着すると自動でカイの手の大きさに変わる。ガントレットに埋め込まれている石を見れば、既に青色にうっすらと輝いていた。
ミカとラウラは袋からそれぞれ槍と杖を取り出し、シャリアはすぐさまグリーヴを装着する。フラージュの姿は忽然と無くなっており、奇襲に行ったことが伺えた。
周りにいた一般人達は突然 馬車が攻撃が攻撃されたことに混乱して、自分も攻撃されるかもしれないと言う恐怖から蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
人がいなくなると、物陰からぞろぞろと人が出始める。その者達の右腕を見ると、前腕に大きく狼の入れ墨が入っていた。
「お主達、街中で騒ぎを起こしてなんも思わんのか」
「……殺せ」
小さく呟いた声は、普段の街なら聞こえないが、人がいなくなった現状では全員の耳に入って来た。そして、彼らには話し合う考えなど微塵も無いのだと分かったカイ達は容赦なく敵を倒して行く。
敵は馬車を囲む形で集まっており、見ただけでその数40人はいた。それは見えているだけで、魔力感知によると70人近くは居り、こちらに近づいてくる反応も確認できていた。
「容赦はせんで良い!」
跳びかかって来た1人を蹴り飛ばしながらシャリアが声を上げる。
カイが相手している者達は、力量が分からないことから魔法を撃つが、その全てを叩き落していく。そして、その中に氷を飛ばしてきた者がいたため、石の輝きが増していく。
「こんな感じかなっ!」
普段魔法を飛ばすときと同じ感覚で氷を出そうとすると、普通の色をした氷が相手に向かって飛んでいき、数人を倒す事に成功する。
「これ、かなり便利だなぁ……」
相手の魔法が吸収でき、放出が出来る。あまりの便利さから羨ましがっているが、カイは飛んでくる魔法と、近づいてくる敵両方の相手をしっかりとしていた。
魔法を吸収・消滅させるだけでなく、時には敵を掴んで盾にしたり、近づいてきた人を足場にして魔法を避けながら着実に数を減らしていく。
兵士達が来るよりも先に敵の応援が来るのが早く、最初の3~4倍に増えていた。
そんな中で、あまりの力量の差にカイに近づく敵が減り、魔法を撃つ敵が増える。
後ろに飛んで行かないように叩き落していくが、20人近くが一斉に撃って来たため、捌ける限界を超えて、見逃してしまう魔法も出てくる。
その魔法は全てラウラによって相殺されていた。
カイが防御でいっぱいでいると、敵の中に人が飛んでいく。敵の魔法を撃つ手は止まる。
「何やっとるんじゃ。攻めないとどんどん増えるぞ」
「分かってますよ。一斉に撃たれたんでガードしてただけです」
シャリアが応援で敵のことを投げたのだ。その隙にシャリアの方を見れば、大量の敵が倒れていた。カイの方も敵がたくさん倒れていたが、シャリアの方が確実に多かった。
誰も怪我すること無く、数分戦っていると、兵士達が集まり出したため、敵は一斉に逃げ出した。敵を追いかけるのは兵士に任せて、カイ達は馬車に集まる。
「敵の狙いはやっぱり」
「その子。でも何がしたいのか分からない」
「皆様ありがとうござます。そのことは屋敷で調べてみましょう」
「ちょ~~~っとすいません。今回の騒動について聞いていいですか?」
カイ達は被害者だったと言うこともあり、拘束されることは無かったが、事情聴取のため詰所まで行くことになった。
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