第303話


 偽アルマの亡骸すらも無くなったことを確認すると、アルマは目を閉じ深く息を吐く。息を吐くのと同時に翼の黒色も抜けて行き、遂にはいつもの白色の羽に戻る。自分の目で翼の色が白色のなったことを確認すると、広げていた翼を音を立てて畳む。その様子をカイ達は警戒して見ていた。


「要らない助太刀だった?」

「……中々やられなかったから助かったけど……本物なの?」

「彼女は本物だ。とはいえ、証明する方法はないけどね」


 アルマの背中側、階段の方から話したことは無いが、聞いたことはある声。門の前で大声でアルマに向かって声をかけて来た『ライトルの神童』と呼ばれる男の声だ。研究員が帰って来たのだと戦闘体勢に入ったカイ達だったが、一番近くにいるアルマが何もしないことに違和感を覚える。心なしかアルマの表情はうんざりしているようだった。


「アルマ・ヒューが強いと言うから強いと思っていたけど、まさかクローンが一方的なんてねぇ~」


 チャラチャラ雰囲気を放ちながら男はカイ達のことを一瞬だけ値踏みするような視線を送ったが、すぐにアルマに向けて笑顔を向ける。


「一応言っとくと、僕はアルマ・ヒューの協力者だよ。信じなくてもいいけどね」


 そう言った男はアルマの横を通り、カイ達の横を通り過ぎ、奥にある程度進むとこちらに視線を向けてくる。


「僕がいたら4階までは簡単に下りれるはずだよ。どうするかは君達次第」


 それだけ言うとまた進み始める。それに対してどうするか考えていると、アルマが話しかけてきて「大丈夫だ」と言ってきたため、いつでも反撃できるように警戒しながらついて行く。




 偽アルマの紫の霧のおかげと言うべきか、どこに行っても研究員たちは寝ていた。


「本当に俺達が話してたアルマなの?」


 カイの呟いた言葉に対して答えたのはアルマでは無く先導する男だった。


「彼女はこちら陣営の中でも最高戦力に入る程に強いんだよ。だからクローンを作って戦力補充をしようとしてると言うわけさ」

「クローン……」

「アルマ・ヒューとさっきのクローンの角を見た通り、無属性って言うのは共通点。だけど、それぞれ違う魔法を覚えているんだよ。何が言いたいかと言うと、翼を使う魔法を覚えているのは本物のアルマだけってことだよ」

「それを信じられる根拠は」

「そう言われると痛いな~。あと僕のことは……うーん、『R』とでも呼んで。」


 そう言っていると、下に下りるための階段を見つめたためそのまま下りて行く。先ほどまで軽く話していたが、少しだけ早口に変わる。


「大雑把に言うと1階が搬入口、地下1階は小型モンスター、2階は大型モンスターの格納庫。見て来たから知っている思うけどね。3階はついにキメラを作る所だ。4階はそのキメラの運用実験と保管。それから運び出しのためにあるよ。そして君達が目指している5階、悪いけどそこだけはどうなってるか分からないんだよね」


 それは無いだろうと言おうとした所で階段の終わりが見えてくる。そのためなのかRが話しを終わらせにかかってくる。


「一応客人として招いてることにするけど、余計な事は言わないでくれ。まぁ通り過ぎるだけだから話す事は無いと思うけどね」


 3階に到着すると、2階と同じ様にガラスケースの中にモンスターが収納されており、その中には大型だけでなく小型も入っていた。また、先程の出来事で鼻が慣れたと思っていたが、顔が険しくなりそうな程に3階には血の匂いが濃く充満していた。

 進めば進むほどの研究員は増えてきて、軽く50人はいることを確認できた。そして、横目でモンスター達の一部が斬られ、つなぎ合わされる所を見ることが出来た。




 Rの言う通り3階は通り過ぎるだけで終わった。すれ違う何人かの研究員はカイ達のことを珍しい物を見る視線を向けていたが、前にRがいると分かるとほとんどの者が頭を下げていた。


「4階で僕とアルマはお別れだ。君達だけで行ってもらうよ」

「それはそれで勝手じゃないですか?」

「1階分戦わないで済んだと思ったら中々良いと思わない?まぁ大変なのはここからだ」

「ここからはバレたらキメラの集団と私の偽物と戦うことなるから。アンタ達がアイツを倒せることを願ってるよ」

「俺達の目的は調査だけだ。お前達の願いをかなえる義理は無いが?」

「ならここで侵入者がいるというだけ。私も全力でアンタ達を捕まえる」


 サーバはアルマと睨みあっていたが、出来れば責任者の暗殺も視野に入れていたこともあり引き下がる。それが分かったからかアルマも目線を外して階段を下りて行く。

 地下4階に下り立ってから一番最初に目に入って来たのは、ここに来てからよく見るようになったモンスター入りのガラスのケースで、奥では戦闘音が小さいながら聞こえて来ていた。

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