第156話


 凍えついた森のことをこのままにしておくことは出来ないため、7人は森の中に入っていく。


「さ、さみぃな」

「が、我慢」

「で、でも、こ、これは我慢できるレベルじゃないっすよ」


 凍えている場所に防寒対策をせずに入って来ているために全員が震えている。


「と、とりあえず、こ、このオーガはく、砕くよ。良い?」

「こ、こんなんじゃ売れねぇだろ。やってくれ」


 白ローブは袋から槍を取り出す。白ローブが槍を一振りすると、オーガは砕け、音を立てて地面に落ちる。


「は、速いわね。わ、私達じゃ、いくら頑張っても、無理だわ」

「お、おいアンネ。も、もう我慢できねぇ。ひ、火出せねぇか?」


 ここに入ってからまだ数分しか経っていないが、既に全員限界に近かった。

 ニコラの意見に異論がなかったため、白ローブは袋から枯れ木を出してきた。

 その枯れ木を使い、焚火を起こし皆がすぐに囲い始めるが、火が寒さからかすぐに消えてしまった。


「く、くそ。こ、これは出た方が良いんじゃねぇか」


 少しでも早く出るために、駆け足で来た道を戻る。そこまで離れていなかったためすぐに出ることができ、離れた場所で焚火を作り火を囲い始める。


「さ、寒かった。全然調べられなかったですね」

「仕方ないわよ。あの状況じゃ調べられないわ」

「でも収穫はあった」


 アンネの言葉に驚いた者達は一斉に視線を向ける。数多くの視線を向けられたためかアンネは隣にいた白ローブの後ろに隠れる。


「皆落ち着いて。アンネが言った収穫って言うのは、あそこで氷を溶かせたことだよ。よく見ないと分からなかったけど、火が当たった場所が溶けてたんだよ。つまりあの氷は普通の氷ってことだね」


 アンネは白ローブの後ろから顔だけだして頷く。


「あんな一瞬でよく見てんな。火が消えたの見た時はもう出ることしか考えてなかったぞ」

「そうですね。私もです」


 ミカも同じだと言うと皆が笑い声をあげる。そんな中カイだけは笑わず、先程までのことを考えていた。


(前までは炎を飲み込むなんて能力は無かった。それに温度が前とはレベルが違う。普通に使えなくなった代わりに強くなった?魔力を吸われただけでそんなことが…)

「要らないの?」


 話しかけられたため意識を戻すと、目の前にスープが入った器があった。それを出しているのは白ローブだった。


「いただきます。ありがとうございます」


 白ローブから器を受け取り、カイは温かいスープをゆっくり飲んでいく。




 皆が温まった後で、試しに凍っている木にアンネは炎を撃ちこんでみると、木が燃えていた。そのため『広範囲に凍っている場所があり、時間が経てば溶けて元通りになるかもしれない』ということをこれから行く街と冒険者ギルドに早く伝えるために馬車に乗り込み移動した。


 森のことを検問所と冒険者ギルドに伝えていたら時刻は夜になっており、7人はそれぞれ部屋を取る。

 男子はカイ1人と言うことでカイは1人部屋になる。カイは部屋に入ってすぐに仮面とローブを外しベッドに寝る。そして目を閉じて自分の魔法と魔力のことを考えようとした所で扉がノックされる。


「カイ君。入って良いかな?」

「どうぞ」


 ノックしてきたのは声で白ローブと分かったためカイはベッドから起きてすぐに扉を開ける。するとそこには白ローブとミカがいた。カイは少し驚きながらも2人を部屋に入れる。


「疲れてる所ごめんね。温まるためにってスープを渡した時考え事してたでしょ?だから様子見をしに来たんだけど、大丈夫?」

「それなら大丈夫です。なんで普通の炎と氷を出せなくなったのか考えていたんです」

「そっか。それなら良かった」

「ねぇカイ、あの青い炎だけど、前よりも温度が低くなってなかった?前に見せてもらった時はあそこまで温度は低くなかったよね?」


 ミカも疑問があったためか、カイに聞く。白ローブがいるため素直に話すか少し悩んだが、これからも関りがあるのはほぼ確実なため、後で知られるよりも良いと考え話し出す。


「そうなんだよ。それに炎を飲み込むなんて能力もなかった。前までは衝突はすることはあっても吸収なんて…。1回も見たことが無かった」

「それだけ考えると、パワーアップしてる?」

「はい。ただ使えなくなったこともあるので、なんとも言えないです」

「…私は部屋に戻るね。帝都に着いたらすぐにカイ君を検査してもらえるようにしとく。ミカはどうする?」

「私はもう少しここにいる」

「分かった。けどあまり遅くならないでね」

「うん」


 白ローブは言った通り部屋から出て行った。出て行ったのを見たミカはカイに詰め寄る。


「本当に体は何ともない?少しでも辛さはある?」

「な、無いって。大丈夫。逆にとっても調子が良いよ」

「やっぱり今回のことって、魔力が混ざってることが関係あるのかな?」

「関係ないとは言えないかもしれない。正直分からない。でも魔力操作をしてみたら前よりも動かしやすかった。なんか体になじんだというか」

「じゃあ、もしかしたら今の状態が本来の状態ってこと?」

「かもしれない。とにかく帝都着いたら検査してもらうよ」

「うん。カイが大丈夫だって分かったから私は戻るね。おやすみ」


 カイもおやすみと返事をするとミカは部屋から出て行った。

 カイは再度ベッドに横になると、魔力操作で動かしてみる。


(前よりも自由自在に動く。やっぱり今の状態が正常な状態なのかな?ラウラがいればわかったかもしれないのに…。帝都に行くって言ってたっけ?検査とか終わったら探してみよう)


 考えが一区切りつくと、カイはすぐに眠りについた。

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