第80話


 学内対抗戦も進んでいき、ミカの番となった。

 相手は3年Aクラスの生徒だ。

 ミカは控室で目を閉じ、精神統一と魔力操作をして自分を落ち着かせていた。


(相手は3年生のAクラスだけど、カイの初戦の相手を見る限り大丈夫。落ち着いて、冷静でいれば大丈夫。魔力操作だっていつもと変わらない。よし!!)


 最終戦と言うこともあり緊張していたミカは自分を落ち着かせてから入場口の方に向かうが、内心「まだ負けてしまうのではないのか?」と不安があった。


 カイの時とは違い入場口には誰もおらず、ミカは呼ばれるのを待っていた。


「ミカ」


 不意に後ろから声が聞こえたため振り返る。


「カイ!来てくれたの?」


 そこには仮面を手に持ったカイがいた。

 他の生徒と会ったが、感知でそこまで人がいない所を選んで来たために怪しい者がいるとはならなかったようだ。


「ミカは最終戦で3年Aクラスだからって緊張してるかもしれないから一言言おうと思って」

「なに?」

「ミカなら絶対に勝てる」


 カイの言葉により先程まで感じていた不安が消し飛んだミカは大きく深呼吸する。

 丁度舞台から呼ばれたミカはカイの目を真っすぐ見る。


「いってきます!」

「いってらっしゃい」


 ただそれだけ言い舞台に上がって行った。




「ここまで上がって来たのは凄いけど、棄権した方が良いんじゃないかしら?」


 舞台に上がったミカに対して、相手がかけた第一声がこれだ。これにはミカも唖然としてしまった。そのため何も言えないでいると相手が勝手に話し始めた。


「そうね、負けると分かっているのに戦うのね?それはとてもいい心がけだわ。分かったわ。一発で倒して差しげますわ!」


 相手が勝手に解釈し、勝手に解決したことにミカは呆気にとられる。

 そんな中でも審判が準備は良いか?と聞いてきたためミカは気を取り直して槍を構える。一度大きく息を吐き、審判の問いかけに頷く。


「良いですわ」


 相手がそう言ったため審判は少し離れ、開始の合図を出す。


「これで終わりですわ!!」


 試合開始と同時に相手は持っていた杖に魔力を込める。少し経つと普通の「フレイムキャノン」よりも大きい火の玉が出来た。


「これをくらったら、ただではすみ・・・」


 女生徒はそれ以上言えなかった。ミカが目の前で薙ぎ払いをして、女生徒はそれをノーガードでくらったからだ。きれいに槍の柄が入ったことで女生徒は舞台上で数度転がったが、場外にはならなかった。場外に出来たが、ミカは優しさからそうしなかった。もしも場外になるほどの力で殴りつけるように攻撃していたら、この女生徒は間違いなく骨折していた。しかもミカは柄をぶつけるのではなく、女生徒に軽く当ててから力を込めて薙ぎ払ったのだ。そのため女生徒は押された痛みはあれど、殴られた痛みは無かった。どちらかと言うと転がったことに対して痛みを感じていた。

 転がった拍子に女生徒が放とうとしていた火の玉は、コントロールを失ったためか消滅していた。

 消滅したことを確認したミカは、いまだに横になっている先輩を場外まで運んだ。


「勝者!ミカ=アルゲーノス!学園対抗戦出場決定!」


 審判がそう言った瞬間に観客席にいる生徒達から大きな歓声が沸き上がった。ミカはそれを見ることもなく入場口に戻って行く。


 ミカが入場口に戻ると、拍手をしているカイがいた。


「おめでとう」

「ありがと!カイもこの後頑張ってね!応援してる!」

「うん」


 カイは返事をした後、仮面を被り直し魔力を纏ってから走って行った。

 ミカもその場を後にし、観客席の方に戻って行った。




 ミカの試合から2試合が終わり、後1試合となった。

 最終日の最終戦、そこにカイが出ることになっている。

 カイは先程と同じ様に控室に行き、座ってゆっくりしている。

 すると、1試合目と同様に外が騒がしくなるが、それはあの時とは違う騒がしさだった。聞いてみると、「ま、待ちなさい!ドッペルト!!」誰かを止める声が聞こえた瞬間、控室の扉が雑に開かれた。


(また?あのビューンっている先輩と同じじゃん...)


 カイがうんざりしていると入って来た男が大声を出し始める。


「お前が無能だな!!所詮ビューンは2番手だ!!トップの俺がお前を成敗してやる!!」


 それだけ言って扉をそのままにして控室から出て行った。

 あの男と全く同じことが起きてカイがうんざりしていると、外にいる教師と目が合った。


「今から控室の検査をする。今すぐ入場口に向かうように」


 ここで何を言ってもどうにもならないのと、結局控室には何も置いて行かないため、言われた通り入場口に向かった。


 入場口も同じ様に身体検査をされたが、もちろん何か出てくることは無く、そのまま試合となった。


「最終戦を行う!3年Aクラス グリンド=ドッペルト!!!」


 審判が選手の名前を呼ぶと観客席から歓声が巻きおごる。もしも近くで聞いていたら鼓膜が破けるんじゃないか?くらいの声で叫ぶ。


「1年Fクラス カイ」


 今度はカイの名前が呼ばれるとブーイングが起きる。だが、カイはそんな物無視しながら舞台に上がる。


「無能がぁぁあああ!!俺が倒してやる!!」


 ドッペルトがそう言うと観客席から再度歓声が上がる。


「両者とも準備は良いか?」


 そう言うとカイはいつも通り頷いた。


「無能に準備だと???そんなもん要らん!!こんなやついつでも倒せるわ!!」


 それを聞き、観客は歓声を上げ、審判は下がる。


「開始!!」


 合図が出たためカイは動き始める。前とは違い最初から走って接近する。相手のドッペルトはカイのことなど気にせずに持っているメイスを地面に突き刺す。すると地震が起きる。地震が起きたことにより、カイは一度止まり、体勢を低くする。


「無能などこれで終わりだぁああ!!グリーンボール!!!」


 地震により倒れているドッペルトは突き刺したメイスを握ったまま、空いている手をカイに向けて魔法を放つ。誰もがこのまま当たると思っていたが、カイは横に転がり避ける。


「ストーンボール!!!」


 ドッペルトが今度はストーンキャノンを撃って来た。そう、ドッペルトは2属性持ちなのだ。

 その後も交互に属性変えながら魔法を撃ってくるが、ドッペルトはただ2属性の魔法を撃っているだけ。今まで2属性ってだけで何もしてこなかったのか、カイからしたら放たれる魔法は全て遅く、地震で自由に動けない今でも簡単に避けられる物だった。また地震の影響で標準が定まっていないためか明らかに当たらない物もあった。


(自分がトップって言ってたけど...。本当?この人じゃオークファイターを倒すのも無理なんじゃ...)


 カイが今まで対抗戦で戦って来た人、全員がオークファイターと戦えるような実力ではなかった。一対一で戦ったら簡単に倒されるほどの実力だった。それは学園の生徒皆がそうだった。つまり、本当の学園のトップ2はオークファイターを1人で倒すことのできるカイとミカと言うことだ。


 地震が収まらずに2人とも倒れた状態で、カイは魔法を避け続け、ドッペルトはカイに向けて魔法を撃ち続ける。


「ストーンキャノン!!グリーンバレット!!!ストーンボール!!グリーンキャノン!!・・・」


 撃ち続けていく中で魔力が減ってきたためか、顔から大量に汗が流れ、地震が弱くなっていく。動けるくらいの揺れになったためカイはドッペルトに向けて走り出す。ドッペルトは先程までと変わらずに魔法を撃ち続ける。撃ち続けるが、手がブレブレのため当たらない。当たりそうな物も遅いため見てから避けることが出来る物ばかり。

 接近したカイは、まずメイスを握っている手を蹴る。するとドッペルトは痛みでメイスを離す。ドッペルトは最初から魔力纏っていなかった。それがここになって痛手となった。

 ドッペルトがメイスを離すと地震が収まったため、カイは思い切り蹴る。するとドッペルトはそのまま転がっていき場外になった。

 審判は何が起きたのか分からないと言うような目でカイとドッペルトを交互に見ており、生徒達と教師は誰も喋らない。

 10秒ほどしてようやく状況を理解した審判が結果を声に出した。


「勝者カイ。学園対抗戦出場決定...」


 これを聞きようやく現実を見ることが出来た生徒と教師がブーイングをしてきたが、カイはいつも通り無視して入場口に戻って行った。

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