第79話


 学内対抗戦、最終日。

 舞台には勝ち抜いた生徒32人が集まっていた。この32人のうちほとんどが3年で1年は5人しかいなかった。その中5人の中にはカイとミカの姿があった。2、3年にはカイとミカが会ったことがある人はいなかったが、1年の中にヒース=バーシィもいた。バーシィはカイを見つけた瞬間にずっと睨みつけていて、今すぐにでもカイに跳びかかろうとする雰囲気だった。


「今からの本選で学園対抗戦の選手を決定する!2回勝ち抜いた者が学園対抗戦の代表だ。組み合わせは今から行う抽選で決める!出場生徒は正々堂々と全力で戦ってくれ!」


 副学園長が少し話した後にすぐ抽選会が始まり、3年から引き始めた。

 抽選は3年Aクラスから引き始め、3年が終わったら2年、2年が終わったら1年と言う順番で引くことになっていた。カイは1年Fクラスで、他のFクラスの生徒は予選敗退のため必然的に最後となった。

 全員が引き終わり、対戦表を見てみるとカイの相手は3年Bクラスの生徒だった。


 カイは珍しく闘技場の観客席の壁にもたれ掛かり、試合を見ていた。これが知らない生徒の試合だったら見に来ていなかったが、今から戦おうとしているのはミカだった。今まで試合を魔力感知と観客達の歓声でしか分からなかったため、本選だけでも見たいと思いここに来ていた。

 ミカの相手の生徒は2年Aクラスの中でもトップの実力を持つ生徒らしく、相手が1年と知り余裕そうな顔をしている。


 これから試合が始まると言うところでカイの前に男達が来た。一番前にいる男をカイは知っていたため思わずため息をついてしまいそうになる。


「おい無能。何した」


 代表するかの様に話しかけて来たその男は、舞台にいるときに睨んできたバーシィだった。


「...何もしてないですよ」

「そんなわけあるか!お前みたいな無能がビューン家の嫡男であるプレア殿に勝てるわけがない!!」


 カイの返答に不満に持ったバーシィがカイの胸倉をつかもうとするが、カイは避ける。


「ふ、不正したんだろう!!答えろ!何をした!!!」

「何もしてませんよ。ただ殴ったら動かなくなったので、そのまま場外にしただけです」


 バーシィは顔を真っ赤にさせ今度は殴りかかってきた。これを避けてもこのまま殴り続けてくるのは明らかだったため、カイは受け流した。いくら感情に任せて殴った拳だったとしても、避けるどころか受け流してきたことにバーシィは驚き目を見開いてカイを見る。

 カイは涼しい顔をしながらバーシィに嫌そうに話しかけた。


「もう用は終わったので失礼します」

「勝者 1年Aクラス ミカ=アルゲーノス!!」


 カイがバーシィに言った瞬間にミカの試合も終わり、ここにいる意味が無くなったカイは観客席から出て行った。バーシィの取り巻き達は「追いかけなくても良いんですか!?」と言いたげにバーシィを見るが、カイに受け流されたことがよっぽどショックだったのか微塵も動いていなかった。




 その後数試合して、ようやくカイの番になった。

 カイが控室で精神統一していると外が騒がしかった。少し耳を澄ますだけで何を話しているか聞こえて来た。


「よし、集まったな。この後無能は試合に出る。その間に控室を調べて不正の証拠を見つけるんだ!」


 代表らしき1人の男がそう言うと数人が「はい!」と言った。


(先生には感謝しないといけないな)


 カイはいつもならここに袋を置いて行くが、昨日ラクダレスから控室を調べられるかもしれないと聞いていたため、今日は袋どころか何も持ってきていなかった。

 そんな中、試合に呼ばれたためカイは控室から出て行く。直後、数人が控室に入っていくのが魔力感知を使わなくても分かった。


 いつも通り、入場門前に着くとそこには9人の教師と鎧を着た男が1人いた。


「身体検査をする。動かない様に」


 鎧を着た男がそう言うと、その男と2人の教師が身体検査をしてくる。以前と違い教師は上着を脱がせ、その脱いだ上着を5人の教師が入念に調べる。残りの2人は3人と確認を取りながら身体検査を続ける。

 身体検査が終わり、教師たちがカイから少し離れ話し始める。

 鎧を着た男ともう1人が途中で離れカイの所に来ているも通り質問してきた。


「では質問する。カイで間違いないな?」

「はい」

「武器は?」

「持ってないです。素手で戦います」

魔法道具マジックアイテムは持ってるか?」

「持ってないです」

「分かった。そこで待て」


 そう言い戻って行き、その男は首を横に振った。すると数人の教師は目に見えて落ち込み始め、それ以外の教師は顔を赤くして怒鳴り始める。それがカイにまで聞こえてくる。


「おかしい!身体検査もした!魔法道具マジックアイテムも使った!それなのになぜ不正の証拠が出ない!!」


 一番声が大きな教師がこう言っており、他の教師も同じような事を言っている。その教師達を男がなだめていると、カイは試合に呼ばれたため舞台に向かって歩き始める。




 闘技場に上がるとすでに相手は準備が完了しており、カイもすぐに構え始めた。審判に最終確認をされ、互いが頷くと審判は離れて行く。

 そして、合図がされ試合が始まった。


 試合が始まりカイは相手がまた一直線に突進してくると思ったが、相手は一歩も動かなかった。相手はカイが攻めてくるのを待っていた。カイはその狙いにわざと乗り、ゆっくり歩きながら接近する。

 見ている生徒からはブーイングが飛んでくるが、カイも相手の生徒も気にせず敵だけを見る。

 相手が持っている長剣の間合いに入る寸前でカイは足に力を籠め飛び込む。それに相手は反応して長剣を振り下ろしてくるため、カイはそれを避け腹に拳を入れる。防御もせずにくらった相手は体勢を崩したため、カイは間髪入れずに殴り続ける。


「ダ、ダークボール」


 相手はこの至近距離から撃つ魔法ならば誰でも当たるだろうと思い撃ったが、カイには掠りもしなかった。それに驚いた相手は一瞬止まってしまうが、カイはそのまま殴り続ける。相手がよろけて後ろに移動し続けてくれたおかげで場外まであと一歩と言うところでカイは足払いをした。


「ダークキャノン...!!」


 カイが足払いをしたため撃ったダークキャノンは真上に上がり消えて行った。

 そして、相手の上半身は場外のラインを超えていたためカイの勝ちとなった。




 試合が終わり控室の横を通ると、中には約20人の教師がいた。

 1人の教師がカイのことを見つけると舌打ちをした後に撤収と言った。それを聞いた教師達は控室から出て行く。その間全ての教師がカイを睨みながら出て行くと、最後に残った教師だけカイに言い放った。


「絶対に証拠を見つけてやる、覚悟しとけ」


 カイは予想していた通りの言葉が来たため苦笑いするが、相手は顔も見ずに離れて行った。

 最終戦まではそこまで時間は空かないが、またヒースのような生徒に絡まれても面倒と言うことから、カイは闘技場の周りを歩きながら最終戦を待つことにした。

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