第198話


 翌日、1限目が始まる前の時間にカイは教室でミカとルナ、アディと話しながら、昨日教えてもらった生徒3人を監視してみることにした。

 まずはすでに登校している赤髪を監視していく。


「なっ!やばいだろ!」

「何自慢してんだよー。てか、どうしたらそんなになんの?」


 赤髪の生徒は数人の生徒と談笑をしており、その中には昨日カイの教えた彼もいた。彼も談笑に乗って笑っており、普段通りにしていた。


「そう言えばよ、お前ら昨日の訓練どうだった?」


 無理やりの話しの持って行き方だが、彼も彼で探りを入れようとしたのだ。


「んだよ急に。まぁでもいつも通りの戦闘訓練だったよな?」

「そうだよなぁ」


 皆が特に変わったことが無いと言うため、これ以上どうどう探ろうかと考えたところで助け船が出て来た。


「まぁでも、模擬戦はレベルの高い物を見たいよな」

「それなー。ここだったらカイとミカちゃんとルナ様か?」


 カイ達の名前が出たため、彼は赤髪の生徒のことを見ると、彼は普段通りの顔をしているが、会話には入ってこなかった。


「基本的に模擬戦って1対1だけどよ。その3人だったら三つ巴とか面白そうだよなぁ」

「分かる分かる。見てぇな。それにカイのあの炎不思議だよなぁー。炎を飲み込むんだぜ。お前は天敵だな」

「あぁ?そんなことねぇよ。火力ごり押しで押し切れるに決まってんだろー」

「嫌々無理だろー」


 全員が笑っている中で赤髪の生徒だけは笑っておらず、ただただ黙って見ている。その顔はだんだんとしかめ面になっていく。


「でもよ、カイって火以外は簡単に避けてくよな。俺あいつが魔法にあったてる所見たことねぇよ?」

「魔力感知者なんじゃね?じゃねぇと説明できねぇよ」

「いいなぁ。俺達感知なんてできねぇもんなぁ」

「それよりよー。今日の授業って…」


 我慢が出来なくなったのか、赤髪の彼は話しに割り込み話題を変えて行く。


(うーん…分からない。あんまりよく思われてないのは分かったけど)


 そこまでして白髪の女子生徒が登校して来る。彼女が教室に入るなり、扉近くにいた女子が挨拶すると、彼女は「おはよ」とただ一言だけ言って席に着く。

 彼女は席について早々、本を取り出して読んでいく。


(特に変わった様子は無いけど…本当に睨んできてるのかな?)


 そう思いながら彼女の方を見てみると、彼女と目が合う。カイはミスったと思って目を逸らそうとしたがそれよりも先に彼女が目線を外す。彼女は本にすぐさま本を読み始める。カイはそれを見てからゆっくりと視線を外す。


(睨んでは無かったけど、こっちは見てた。なんで?興味があるとか?)


 カイが何故本を読むのを止めてまでこちらを見てたのか考えながら今度は先程よりも慎重にゆっくりと彼女の方を見る。すると今度は睨んでいた。だが、その睨みはどちらかと言うとミカの方に集中しているようだった。


(…もしかして、ミカのことをよく思ってないって感じ?でもミカが彼女と話してる所なんて見たこと無いし…。後でミカに聞いてみるしかないか)


 これ以上は見てても情報を得られない上に怪しまれると思ったため、カイは手洗いと言って教室を出るときに教室を見渡すが、昨日聞いた眼鏡をかけた生徒は見つけることが出来なかった。




「おう、カイちょっと良いか?」


 カイが教室から少しすると、昨日情報をくれた男子生徒が後ろから話しかけてくる。


「さっきの俺達の方でカイ達の話しになったんだがよ…」

「聞いてたよ。バッチリね」

「お前器用だなぁ。まぁ今は良いか。やっぱりあいつはあんまりいい顔しなかったな。珍しいぜ」

「珍しい?やっぱり普段の彼はもっと話しに入っていく感じなの?」

「そうだな。と言うより俺達のグループで最初に喋り出すのは大体あいつだ。それでよく相槌もして来る。話しに加わらないこと自体異常って言ってもいい」

「そ、そんなに…?」

「あぁ、あいつは喋るのが好きだからな。まぁまだ見てみるわ。普通に会話してるだけでも分かりそうだしな。それより、あいつはどうだった?言った通り睨んできたろ」


 少しだけドヤ顔気味に言ってくる彼に対してカイは苦笑いを付けながら答える。


「そうなんだけど、俺達って言うよりミカのことを睨んでる感じに見えたよ」

「あぁ?なんでそう思うんだよ」

「実は見てるときに目があったんだよ。だけど俺のことは睨んでなくて。少ししてまた見たら、ミカのこと見て睨んでたんだよ」

「んだよ。そう言うことか。ならあいつは大丈夫だな」

「…まぁミカになんか睨まれるようなことしたか聞いてみるよ」

「無駄足になりそうだな」


 ニヤニヤしながら言う彼をカイの中では弱い力で腹を小突くと、彼は壁に片手をつき支えながらもう片手を腹に当てる。


「お、おい、あ、朝飯出ちまうよ…」

「ニヤニヤしてるからだよ。それより、最後に言ってた眼鏡をかけた彼は?」

「そ、それよりって…。お前のせいでこうなってんだぞ。はぁ、あいつなら偶に遅刻して来るぞ。まだいねぇってことは今日がその日なのかもな」

「そんなに頻繁に?」

「いや、1月に5回くらいだな。まぁ教師も遅刻して来るのを許してるから何かあんだろ。そのことをあんまり聞いてほしくなさそうだったからな。お前も聞くなよ?」

「分かったよ。誰にだって聞かれたくないことはあるから」


 そこまで話すと、予鈴が鳴るまで少ししかなかった。2人は自分達が予想していたよりも話し込んでいたのだ。




 4時限目の授業が始まる寸前に、カイのお目当ての眼鏡をかけた生徒が入ってきたため、カイは授業中に様子をうかがう。

 彼は他の生徒のお手本になるような授業の受け方をしており、積極的に手を上げたりなどしてる。


(ん?あれって…)


 彼が上げた腕を見ると、少ししか見えなかったが確かに包帯がされていた。注視していなかったら分からない一瞬だったが、カイはそれを見落とさなかった。


(腕に包帯。ただ怪我を下だけか、他の原因で?)


 だが、これ以上は考えても分かるはずのないことだったため、すぐに考えるのを止めた。




 授業が終わり、カイは教室を移動する中でミカに小声で話しかける。


「ミカ、ミカのこと睨んでる人がいたんだけど、何かした?」

「え!?そんな恨まれるようなことしてないって」


 ミカがそう言うとゆうことは本当に心あたりが無いのだと分かったカイは、勘違いだったと言ってその場を乗り切った。


 結局1日だけで分かることは少なかったため、数日様子見することとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る