第203話


「何?カイより魔力が多いじゃと?!」


 学園長室で驚きの声が木霊する。今、学園長室にいるのは先程謎の人物達に遭遇したカイとミカ、そしてこの部屋にいるべき存在のシャリアとサリー、そしてカイの師匠であるラウラ、最後にミカの母親のフラージュがいた。

 ラウラ以外の全員がシャリアの大きすぎる声に耳を手で塞ぐ。ラウラは手で塞ぎはしていないがうるさかったためにしかめっ面になる。


「ラウラ、カイにはフィールの魔力を混ぜたんじゃろ?」

「ん。しっかり全部カイに混ぜた」

「フィールの魔力量は正直異常じゃった。元のカイの魔力量と合わされば、常人の3倍は行くはずじゃ」

「カイも多かったから4倍」


 ラウラの発言に、シャリアは今度は驚きすぎて声が出ない。


 少しして力が抜けたようにシャリアが椅子に座り込む。


「…実際はどのくらい多かったんじゃ?」

「長い間感知出来たわけじゃないですし、多すぎて詳しく分からなかったんですが、少なくとも俺の5倍は…」

「つまり…常人の20倍…ですね」


 サリーがとぎれとぎれに言ったことに全員が静かになる。


「…20倍もの膨大な魔力を保持することってできるんですか?」

「…分からない。ここまえ多い魔力があるなんて聞いたこと無い。でも私は保持できるとは思わない」


 その言葉に全員がラウラに視線を集中させる。


「魔力は、見えない何かの器官に溜められてるって言われてる。その器官はある程度余裕があるように作られてるはず。だから私はカイに魔力を渡せた。でもさすがに20倍ともなったら入らないはず。そんなのは人じゃない」

「人じゃないと言ったら魔人じゃな…」


 魔人という存在を名前しか知らないカイ達は、どう反応したらいいか困り出す。だが、知っているシャリアとラウラは顔がこわばる。


「魔人は人よりも強靭な体を持っとる。もちろん魔力の量も多い。カイの魔力の量が普通くらいかもしれんな」

「魔人がそんな存在なら私達は滅ぼされてるはずですよね…?でももう数百年は戦ってないって…」

「そうじゃ。私達が現役の冒険者だった時よりも前に魔人との戦争は終わったそうじゃ。私は魔人が入れないように結界が張られたと聞いたことがある」

「その結界は未だに残ってる。でも綻びがあってもおかしくない」

「結界の管理は公国がしとる。じゃが、公国は秘密主義すぎるからの。実際はどうなっとるかわからん」


 シャリアが言いきると、再度静かになる。


「じゃが、今回カイ達の前に現れたのは魔人じゃろ。じゃないと魔力量が説明つかん。警戒を強めた方が良いじゃろ。サリー、私は城に行く。ラウラもフラージュも今日は帰るんじゃ。2人と一緒にの」

「待ってください」


 全員が行動に移すために立ち上がろうとしたが、カイとミカは座ったままだ。カイが止めたため全員が座り直す。


「あいつは「人にしては」って言ってたので魔人ってことは確定で良いと思います。でも問題なのは魔力量だけじゃないんです。そいつは俺の魔力が混ざってることに気づいてました」


 ミカ以外が今日一番の驚きを見せる。先程まで疲れて椅子に座っていたシャリアが身を乗り出す。


「何じゃと!?」

「混ざってることを知ってる…。魔人族側にもその技術がある…」


 焦り出すシャリアと考え出すラウラ、2人の反応に全員が置いて行かれる。


「ラウラ、カイとミカと出来るだけ一緒にいるのじゃ。おそらくじゃが2人が狙われるぞ。お主も狙われるかもしれぬから警戒しとおくのじゃ」

「ん。分かってる」

「2人とも、カイはもちろんじゃが、ミカも1人になってはならん。これからは1人で行動してはならん。帰るときはフラージュかラウラと一緒に帰るんじゃ。

「分かりました」

「はい」

「2人の業務は減らすから、基本は2人についておれ。サリー、私はすぐに城に行く。警備体勢を強化しておいとくれ」

「了解しました」


 シャリアの指示でそれぞれが行動し始めた。




 カイ達は学園にいる頃、帝都のどこかの一室で先程赤いローブを着ていた男がローブを脱ぐ。男の頭からは2本の長い角が生えており、背中には大きな翼が畳まれていた。肌も人間とは違い黒色だった。


「あの魔力欲しいなぁ」

「そんなことより、力をくれるんだよね?」


 魔人の男は内心舌打ちをしながら、顔に笑顔を浮かべ黒いローブを着た者を見る。


「あぁ、約束通りお前が渡せと言った時にやるよ。ったく、最初に怖がってたお前はどこに行ったんだかな(初めての実験だ。楽しませてくれ)」



 魔人はそれだけ言って部屋からいなくなる。

 黒いローブを着ていた者はローブを脱ぎ捨てると、ベッドに横たわる。


「必ず復讐してやる」


 その言葉にはしっかりとした殺意と憎悪が含まれていた。

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