第128話


 招集されてから3日後、アルドレッド達は言われた通り、朝から団長室に向かっていた。


「ねみーな。こんな早くなくて良いんじゃないのか?」


 欠伸をしながら言うアルドレッドをセレスが叱る。


「一週間だけとは言え、広い帝国近郊を調べるのよ?早くから行かないと調べ切れないわ」

「調べ切るのかよ…」


 疑うような、信じられないものを見る目でセレスのことを見るが、セレスはアルドレッドに見向きもせずに団長室まで真っすぐ進んでいく。アルドレッドは置いて行かれないように肩を落としながらついて行った。




「早朝に来て貰ってすみません。今回の任務はあなた達3人にモンスター増加の原因を探ってもらいます。出来れば原因の排除をしてほしいですが、無理はしないでください。ではお願いします」


 2人が団長室に入ると、団長はさっそく任務の内容を話し始めた。

 だが、この場には3人しかおらず、白ローブの姿は無かった。


「検問所出た先の森で待ってるから」


 不意に後ろから声が聞こえたため2人は急いで振り向く。2人が振り向くと誰も居らず、自分達が入って来た扉は閉めたはずなのに開いていた。


「あの人の悪戯心には困った物ですね」


 声を思い出し、団長の様子を見て先程のが白ローブだと気付き、2人は同時に息を吐く。


「いるって知ってたなら言ってくださいよ」

「いやー、彼女と昔話をしてたら2人が来たので、驚かせようって話になった物で」


 2人は団長のことを睨むが、団長は気にせずに笑い続ける。


「じゃあ、俺たちはもう行くんで」

「はい、お願いします」


 2人は白ローブを待たせないように、速足で森を目指す。




 帝都を出た2人は先程と同じ速度で白ローブの所を目指す。


「さて、原因を探せって言われてもな…」

「やっぱり広いわね」


 久々に帰って来た帝都から出て周りを見ると、そこには壮大な草原が広がっており、街道に沿って遠くを見ると、森が広がっているのが分かる。

 すると、街道沿いに歩いてくる男がいた。

 その男は所々土で汚れており、返り血らしき物も少しついていたため、アルドレッドは冒険者だと思い挨拶を交わす。


「よう、夜通しモンスター狩ってたのか?」

「うっす、この頃モンスターが増えてるみたいなんで。懐を温めるためにもっすよ」

「にしては何も持ってないが…。もしかして収納系の魔法道具マジックアイテムでも持ってんのか?」

「そうなんすよ」


 そう言って男は袋を出す。


「これがあると便利っすから。貯金を全て使って最近ようやく買えたんすよ」

「貯金も?そんなにモンスター狩るのが好きなのか?根っからのモンスターキラーだな」


 そう言ってアルドレッドは声を出して笑う。それにつられて男も笑う。

 嘘っぽく笑う男の全身をセレスは黙って見続けていたが、自分達が行く予定の森の方を見る。


「おっと、そろそろ行かねぇと。夜通しお疲れさん」

「お勤めご苦労様っす。頑張ってくだせい」


 そう言って男は帝都に戻って行く。アルドレッドとセレスは森に向けて歩きだす。


「あの男、変だわ」


 男に声が聞こえない距離になったところで、今まで黙ってたセレスがアルドレッドに話しかける。


「袋を買える冒険者だったら私達は知ってるはずだわ。あれはそんな安易に買える物じゃないはずよ」

「そうだな。それに夜通し狩ってたんなら元気すぎだ。1人だったらなおさらだ。汚れも気になるな。袋を手に入れられるくらいだったら、ここらのモンスターであそこまで汚れないだろ」

「…今は、森に行く方が良いわ。あの男が関係してるんだったら何か起きてるはず」

「あぁ、急ぐぞ」


 そう言って2人は森に向かって走り出す。




 男と会うまでに目的地の半分まで来ていたため、2人はすぐに森に着いた。


「ここにいるはずよね?」

「2人とも遅いよ」


 白ローブは突然セレスの目の前、一歩あるき出せば当たる距離に突然現れる。


「驚くことしないでくれ…」

「寿命が縮むわ…」

「ごめんね。久々に帰って来たら嬉しくなっちゃって」


 白ローブの顔は見えないが、絶対に口角を限界まで上げて笑っていると2人は思った。


「それより、2人に会わせたい人がいるよ」


 白ローブがそう言うと、さっき白ローブが現れた時と同じ様に1人の少女が現れる。


「な、なんでいるんだ!?」

「しっかり許可は貰って来たから大丈夫」


 白ローブの隣には、フード付きのローブを着たルナがいた。




 時刻は数分前に戻る。

 白ローブはアルドレッドとセレスに悪戯した後で姿を消したまま、検問所を通る。姿は全く見えてないため、素通りすることが出来る。

 少し歩いた所で、フードを顔が見えなくなるまで深く着ている人がいたため、白ローブはその人が見てない隙に姿を現し話しかける。


「こんな所でどうしたの?」


 その黒いローブを着た人はルナだった。ルナは白ローブの質問に答える。


「え、えーと。人を待ってるんです」


 振り向きながら言ったため、相手の顔をお互い見ておらず、ルナが言い終わったところで顔を見る。


「え!?カイ?!」


 ルナはカイが仮面をつけた所を見たことがあったため、仮面に見覚えがあった。そしてローブで体が隠れてることもあり、ルナは白ローブがカイだと思った。

 白ローブの方は言葉でなくルナの存在自体に驚く。ここにいると思っていない存在がいるのだからしょうがないことだ。白ローブは急いでここにいる理由を小声で聞く。


「なんでルナ様がここにいるんですか!?」

「え!?あなた誰?!」


 2人して驚いているが、先に白ローブが周りに誰もいないことを確認して、自分のことを話し始める。


「私は今、任務で王国にいる~~~です」

「あ、お母様が言ってた…」

「…サトレア様はお元気でいられますでしょうか?」

「はい、とても元気にしています。あなたにとても会いたがっていました」

「そう、ですか…」


 2人の間に悲しい空気が訪れそうになったが、白ローブが話しを変える。


「ところでルナ様。なぜこのような場所に居られるんですか?」

「今日、アルとセレスが任務で帝都近郊を調べるって聞いたんです。だから協力したいと思って…」

「ルナ様。今回の任務はモンスターを倒すだけで無く、原因まで調べないといけないのです。危険です。戻りましょう」

「ま、待って。近衛騎士団長の許可を貰いました。これでダメですか?」


 そう言って、ルナは紙を見せる。それには色々書いてあったが最後に『ルナ様に「王国で友達が出来たの。2人に置いて行かれないために私は強くなりたい!だから許可をください」という言葉に負けました。陛下達には私から申し出ておきます。3人はルナ様の護衛に専念してください。ですが、今のルナ様の実力であればあなた達3人と協力して原因を見つけられると私は思っています』と書いてあった。


「先輩…。分かりました。ですが私達から離れないこと。そして言うことはしっかり守ってもらいます」

「分かりました!よろしくお願いします!」




「ってことがあったんだよ」


 白ローブがあらましを言うと、ルナはアルドレッド達に紙を見せる。

 それを見たアルドレッドは片手で目を覆い、セレスは団長がこのことを隠していたことに怒りを抱く。


「あの人、ルナとサラ様には甘いもんな…」

「とにかく、今日はモンスターを倒すのを優先するよ。どのくらいいるか調べてから作戦を考えようね」

「そうね。団長に文句を言うのは終わってからだわ」

「3人とも隠しててごめん」

「来ちまったし、許可も出てんだ。謝んな。それにモンスターがたくさんいるってなれば人数は多いほうがいい。切り替えて行くぞ」


 4人で森の奥に進んだ頃、城では誰かが叱れらている声が響いていた。

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