第324話


 生い茂る森の中で、カイは潜伏するために茂みの中に隠れていた。森の中にいると言うこともありモンスターが多く徘徊していたが、目の前に設置している魔法道具マジックアイテムのおかげで目の前を通られても認知されない状態に出来ていた。

 隠れているカイが見ている物、それは目に見える範囲のほとんどが赤黒いツタの様な、茨の様な物で覆われた城壁だ。異質な物に絡まれたソレは異様な雰囲気を醸し出していた。また城壁周りにはモンスターとモンスターの死骸が群がっていた。それは近日の間に出来た物では無いらしく、遠目に見てもかなり腐敗が進んでいるのが分かる。周りに徘徊しているモンスターの一部はその腐敗した死骸を食べて食いつないでいるようだった。

 何故モンスターの死骸が当たり一面に広がっているのか、それは城壁に絡まっている赤黒い物質が原因だった。赤黒い物質が危険だと判断して触らないようにしているため賢いモンスターの様だが、あまりにも強い飢餓感から理性を失い壁に攻撃を仕掛ける個体がいた。その壁には赤黒い物質が満遍なく絡まっている。結果、爪先が物質に触れ、触れた瞬間に死んでいた。そうして出来た死骸をモンスター達は物質に触れないように器用に運び出し食していた。

 そんな景色をなぜカイが見ているのか、それはRの提案から始まった。




「こちらから攻める」その一言に全員が驚きつつも、その手が有効だと思い乗ることにした。姫とも話しを交え不意打ちにしたいならば先に数人潜入させた方が良いとなり、カイ達とR、そしてアルマが先に攻めることにし、バルター率いる本隊が遅れて攻め入る作戦となった。

 その話を受け各々が準備期間が最終調節に入った時、リオ達の元に音も無く客人が現れた。音はしなかったが、魔力を感じることが出来ていたためカイ達は驚くこと無くその者に話しかける。


「遅いですよ、クリミナル」

「こんな重いもんを持ってるんだ。勘弁してくれ」


 窓際に手をかけて入って来たのは、公国を出る際に分かれたクリミナルだった。その手には鎖が握られており、その先には大きな棺が繋がれていた。それと一緒に中身がパンパンに入った大きな麻袋につながった紐も握られていた。

 疲れた様子で中に入って来たクリミナルは床に座り込む。見れば服も破けたり汚れたりしていた。モンスター集団の中を思い棺を持ちながらだったため当たり前と言えば当たり前なのだが、予想よりも疲れていないことからかなりの実力を持っていることが伺えた。


「ご注文の棺はこの通り。他のもんはこれの中だ」


 そう言ってクリミナルは横に置いた麻袋を指さす。するとリオはさっそくその中身を確認し始める。


魔法道具マジックアイテムは持ってないんですか?」

「あ?」


 座り込んで休んでいるクリミナルにミカは単純に疑問に思ったことを聞く。それに対してクリミナルは呆れたような表情で返す。


「お前な、誰でも収納系の魔法道具マジックアイテムを持ってると思うなよ。お前達は持ってるだろうが、本来は貴重なもんなんだよ」

「あなたも前は持ってたじゃないですか」


 中身の確認を終えたリオが話しに入って来たことで、クリミナルは黙ったまま立ち上がり窓際に足をかける。


「俺はもう戻る。あっちも大変なんでな」

「そうですか。ご主人様をよろしくお願いします」


 返事もしないまま飛び降りたクリミナル。その姿を見ようと外を見てもクリミナルの姿はない上に魔力感知でも感じることは出来なかった。

 いつまでもそのことを気にしていても意味がないためカイ達は準備を再開させる。ラスターとの最終決戦のために。

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