第298話


 檻の中で、万が一の時逃げられるようにカイ達は武器を隠しながら大人しくしていた。そもそも檻自体も鍵が見せかけだけしてあるだけで軽く押せば開く状態になっていたためいつでも逃げることが出来るようになっていた。


 遠くから檻が飛んで来た状況にカイ達は研究員たちが驚くかと思ったがそんなことは無く、1人の研究員は嬉しそうに腕を振って来て、もう一部の研究員は露骨そうに嫌な顔を浮かべる。残りの研究員は見る者もいたりいなかったりで、見た者もすぐに視線を外して作業に戻る。


「おーいアルマ・ヒュー!!獲物は見つかったかー!!」


 カイ達が隠れていた時に聞こえて来た声だと分かり、檻の中からバレないように見ると、その研究員は満面の笑みで手を振っていたが、アルマは近づくこと無くそのまま街に向けて飛んでいく。


「相変わらず無視かよーー!……それはいつもん所に運んどいてくれーー!」


 その声を背中に受けながら街に入ろうとする中で舌打ちが聞こえて来た。下でされても聞こえる距離にいる訳ではないため、必然的にアルマが舌打ちしたのだと分かる。


「アイツも殺ってくんない?モンスターの生産研究に関わってるから」

「ならなんで外にいるのかな?」

「アイツはいろんな研究に協力してんだよ。今回も面白そうってことで参加してんだろうな」

「何それ……」


 門が開いていることもあり、街中に入るのは容易だった。

 ライトルの街は守っている壁や砦だけでなく中も機械じみており、サーバとアルマの話しによれば現在いる場所こそが研究施設が集まっている所だった。そのためなのか出歩いている人がカイ達以外には居なかった。


「まさか……あいつが『ライトルの神童』か!?」


 周りに人がいないことを魔力感知で確認すると、サーバは小さい声ながらも驚いた声色で呟く。その言葉にアルマはため息をつきながら「そう」とただ一言だけ返す。


「天才の中の天才。研究さえできれば他はどうでもいいと言うほどの研究一筋の奴だ。あいつにかかれば解けない問題はないと言われている。さっき話した『ライトルの花園』はあいつが作った物だ。他にも数々の功績から『ライトルの神童』と呼ばれている。ただし、本人が公表されるのを嫌がっているために名前も何も分かっていないがな」

「その花園に関しては作った途端に管理しなくなった薄情者って資料にあったけどな」


 先ほどの男のことを話しながらも、街の様子を眺めて行く。

 どの施設も頑丈に作られているのだとみるだけで分かる作りになっており、ガラス窓のような物は一切ついていないため中の様子を見ることは出来なかった。外と繋がる所と言えば扉だけだった。そんな施設だったが、大きさはそこまで大きくなかったため本当に研究施設なのか疑わしい物だった。


「地下だ。昔は街の防衛がそこまでしっかりしてなかったらしくてな。高い建物だと空飛ぶモンスターに壊されてたから地下に施設を作ってたそうだ。その名残が残ってるんだ」


 警戒しながらゆっくりと街中を進んでいくと、他と違って屋根のない建物が見えてくる。その上にアルマが待機すると屋上の部分が開き始める。


「あそこに入ってすぐに下ろすから。あんたらが目指すのは地下5階。そこに目的の奴がいる。私はほとんど何も出来ないから自分達でどうにかしろよ」


 完全に開き切った所から中に入ると、アルマはすぐに檻を下ろしてまだ開いている天井に向かって勢いよく飛んで行った。

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