第278話
カイに斬られたバルターは膝をつき、倒れないように手をつく。
苦しそうに呼吸しながらも、自分が切られた箇所をじっくり見たり、触ったりする。
「綺麗に、ふさがれていますね……。とても、冷たい、ですが」
流石に苦しかったのか、バルターは仰向けに寝転ぶ。
剣を消したカイはバルターに近づく。カイが到着すると同時に姫と一緒にいたメイドもバルターの下に到着する。その手には小さめの木箱があった。
「……そこまで深い傷では無いですねー。この氷消せたりしますか?」
少しだけ間延びするような感じで話すメイドは、バルターの傷を正確に見て行く。
赤い氷をうまく使い氷を消すと、メイドは慣れた手つきでバルターの傷を処置していく。
「バルターさんがやられた所なんて、初めて見ましたー。あのサーバさんですらバルターさんの足元には及ばないんですから。バルターさんに傷つけられたのって、昔教えてたお弟子さんくらいだって言ってましたよねー?」
「その話を今する必要は無いでしょう。私は大丈夫ですから、カイ様は姫様の下へ。サーバ」
バルターが一言名前を呼ぶだけで、飛んで来たサーバはカイを姫の下に案内し始めた。
「先程の模擬戦、素晴らしかったです。オムニがこちらに来させた理由が少しだけ分かりました」
姫の下には既にミカ達が居り、全員が椅子に座ってくつろいでいた。
「それに最後に剣が消えた時は驚きましたよ」
「丁度いいタイミングで消えるために、氷を張ったんだよね!すごかったよ!」
全員が戦いの感想をカイに伝えていると、部屋に処置を終えたバルターとメイドが入ってくる。
「さて。バルター、最後は道具の差によって負けたように見えましたが、どうですか?」
先程の態度とは裏腹の姫の言葉にカイ達は驚く。だが、誰も声を出さず、バルターの言葉を待つ。
「それは違います。武器の差があろうとなかろうと、私の負けは決まっていました。それほどまでにカイ様の力量は高い。私はそう感じました」
「あなたにそこまで言わせますか。分かりました」
姫はバルターに向けていた視線をカイに移し、カイのことを見る。
「貴方はバルターと戦い、私達に自分の実力を示した。改めて、私から依頼致します。どうかラスターを討ってください。そのための協力を私達は惜しみません」
「そのつもりでここに来たんです。絶対にラスターを倒します」
深々と頭を下げる姫に答えるカイ。それを近くで見ていたミカ達は自分達も戦うのだと再確認して気合を入れる。
「オモシロイ与太話ダナァ~」
その様な声が聞こえた瞬間に、全員が警戒態勢に入る。そして声が聞こえた方向には、赤色の霧状の何かが空中を漂っていた。
「ヨウヤク見ツケタゼ~?コンナ所ニイタンダナ姫サン」
「あなたは……!?」
「サァナ~?サテ、場所モ分カッタコトダシ、王ノ下ニ帰ルカ~」
「まて!」
「戦エルノヲ待ッテルゼ~」
全員が一斉に魔法を放ったが、霧状のそれに当たることは無く、それは高らかに笑いながら霧散していった。
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