第89話


カイがミカに、あの宝石に魔法の魔力が吸われていたこと、最後はおそらく許容量を超えた宝石が壊れたことで相手が倒れたことを話した後、それぞれゆったりしていると、アルドレッドとセレスが入って来た。


「アルさん、セレスさんお疲れ様です。何かありましたか?」

「問題は無かったわ。ただ、ここに来るまでに白ローブにあったわ」




アルドレッドとセレスは学園対抗戦の行われている闘技場の周りを巡回しており、今日の試合は全て終わったため、いつも通り医務室に向かっていた。


「ちょっといい?」


アルドレッドとセレスは後ろから尋ねる声が聞こえたため振り返る。そこには白ローブがいつもの格好でいた。


「こっち来て」


そのまま路地裏まで歩いて行くため、アルドレッド達はついて行った。

路地裏をある程度進んだところで白ローブが振り返りこっちを見る。


「急にごめんね。後片付けが終わったところで2人を見つけたから話しかけたんだ」

「カイのやつか?」

「そうだよ。計画を企んでた貴族はもちろん、それに協力してた人も片づけておいたよ。これをカイ君に伝えてね」

「分かった。あんたはこれからどうするんだ」

「基本はローブ男達のことについて調べるよ。これからも別行動するね」


そう言うと、白ローブは前と同じ様にいなくなった。




その後は路地裏を使いながら医務室に来たのだ。


「結局、カイを襲うように計画した人は誰だったんですかね?」

「それは言ってなかったわね。今度会った時にそれを聞いてみましょう」


その後、お互いが試合でどのようなことがあったか話す。


「今日の二回戦で相手が胸ポケットから宝石を出したんです。その宝石が魔力を吸収したみたいで。割れたら急に倒れて…。その宝石のことをセレスさん達が知ってるってラクダレスさんが言ってたんですけど…」


アルドレッドとセレスは少し考える素振りを見せると、何のことか浮かんだような顔になる。


「もしかして魔封石かもな。その宝石は割れたか?」

「はい。魔法を撃ち続けてたら割れました。カイは吸収の許容量を超えたからじゃないかって」

「それは完璧に魔封石よ。魔封石を持ってくるなんて危ないことするわね」

「魔封石って魔法道具マジックアイテムじゃないですよね?」


カイは魔封石が魔法道具マジックアイテムと言うことに疑問を持っていた。


魔法道具マジックアイテムは魔力を通したら魔法が発動する物のはずです。でも、魔封石は吸収するだけで魔法は発動しない。ってことは魔法道具マジックアイテムじゃないですよね?」

魔法道具マジックアイテムと思われてるってことは、王国じゃ帝国以上に出ないんだな。カイの言ったように魔封石は魔法道具マジックアイテムじゃない。魔封石は特殊で希少な鉱石だ」


アルドレッドの言ったことにカイはやっぱりと言う顔になり、ミカは驚いた顔になる。


「魔封石の特徴は吸った魔力によって色が変わることよ。今回ミカが見たのは黄色になったはずよ。色は適性検査の時の色と同じになるわ。でも、これは装飾品じゃなくて観賞用にしか使われないわ。魔力を吸収するせいで装飾品としては使えないのよ」


ここまで聞いてカイとミカは頷く。


「でも、吸収するって言っても限界があるわ。限界になった魔封石は割れて、吸収してた魔力の属性の物になるわ。今回は雷になって、その雷をくらって倒れたのね」

「昔は観賞用に使われることは無かった。わざわざ戦場に持って来て、敵陣に投げて使ってたそうだ」

「今は戦争なんてする国は帝国と王国だけだから、それ以外の国では観賞用で使われるわね。帝国でも魔封石よりも普通に魔法を使ったほうが速くて安全ってことで観賞用になってるわ。あと希少なのはほとんどないっていうのもあるけど、ダンジョンでしか採掘が出来ないからよ。希少な上にダンジョンでしか出ない。ダンジョンで採掘するのなんて危険すぎるから誰もやらないわ。だから、ダンジョンがたくさんある帝国でもあまり見ないわね」


ここまで魔封石の特徴を話して、セレスはラクダレスが入れたお茶を飲む。


「でも、胸ポケットに仕舞えるくらいの大きさで相手は運が良かったわね」

「もしかして、大きければ大きいほど割れたときの魔法の威力がデカかったりするんですか?」

「そうよ。まぁ大きくなる分、魔力を吸収する量も増えるけど、手に収まるくらいの大きさだったらミカなら満杯にして割ることが出来たわ。そのくらいの大きさだったら命が危なかったわね」

「そもそも、魔封石を知らないで持って来てた時点で運は底をついてただろ」


アルドレッドの魔封石を持って来た時点で運が無かったと言う発言に対して、皆は苦笑いしかできなかった。




「なぜ無能が勝って、どうして私が負けるんだ!」


学園の寮の一室でバーシィが椅子を蹴る飛ばす。すでに部屋は荒れに荒れており、色々な物が散乱していた。今日の対抗戦でバーシィは魔法第二学園の上級生に負けてしまったのだ。


「それに無能がミカさんを脅すなんて許せない!」


蹴る物が無くなったバーシィは今度は壁を殴りつける。


「無能、私に歯向かったこと後悔しろ!」


バーシィの心は憎悪で満たされていた。


「まずは、あの人達に声をかけなければ。それから…」


これから起こることを想像して、バーシィは笑顔になりながらぶつぶつと独り言を言い始めた。

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