第112話


 ミカが教室に行けなそうだったため、カイはミカを支えながら医務室に向かう。

 医務室について分かったが、今ラクダレスがいないのだ。朝のことで今のミカは震えており戦える状態じゃない。そのため1人にさせたくないカイは休んで医務室でミカの看病をすることにした。




 授業が終わったと思われる時間にカイは医務室に向かって来てる2つの魔力を感知する。2つの反応だったらアルドレッド達かと思われるが、今は午後になったばかり。こんな時間に2人が来ることは無い。もしこれが2人で怪我をして来たのならばすぐに解除して通せば良いと考えたカイは扉を氷漬けにして開かない様にする。


「どうしたの?」

「ん?問題無いよ」


 そう言ってカイはミカを寝かしつける。その間に2つの魔力は近づいてくる。カイはミカの頭にまで布団をかぶせる。急なことに驚いたミカだったが、カイが口の前に人差し指を当てて、静かにするようにとジェスチャーしてきたため、おとなしくそれに従う。


「この先に言ってた女がいるのか?!」

「僕ちんの情報網を侮らないでほしい、ドッペルト」


 この声にカイは覚えがあった。学内対抗戦で戦ったビューンとドッペルトだ。

 2人は扉に手をかける。だが扉はびくとも動かない。カイが裏で氷漬けにしたのだから当然だ。


「ん?空かんぞ!?」


 そう言って扉にかける力を強くするが扉はびくともしない。


「どういうことだ?」


 そう言ってビューンも扉に手をかける。


「おかしいね。こうなったら実力行使だ」


 そう言って、ビューンは『ウィンドボール』で扉を破壊する。

 ビューンとドッペルトが医務室に入ると、扉にぶつかって壊れた物はあったがそれ以外は普通で誰もいなかった。


「「僕ちんの情報網を侮らないでほしい」だったか、ビューン?」


 嫌味をこれでもかと込めた声でドッペルトは問う。聞かれたビューンは顔を真っ赤にして周りに合った物を蹴飛ばす。それは勢いよくミカが寝ているはずのベッドに跳んで行きぶつかる。


「あいつめ、僕ちんに嘘を教えたな!?許さん!」


 そう言って出て行ったビューンにつられて、ドッペルトも呆れた顔で出て行く。


 2人が遠くに行ったところで、ミカが寝ているベッドのすぐ近くに2人の人物が突然現れる。そのうちの1人はカイでもう1人は白ローブだった。よく見ると、先程物がぶつかったと思われたベッドは膨らんでおり、ミカが寝ているのが一目瞭然だった。

 実はミカに頭まで布団をかぶせた直後、タイミングよく白ローブが入って来たのだ。

 入って来た白ローブはいつも自分がいなくなる時に使う魔法を応用して、カイと自分自身、そしてミカが寝ている布団を誰も寝ていない様に幻を見せる。そうしたことによりビューンとドッペルトは誰もいないと勘違いしたのだ。もしも近くに寄って触っていたら分かったが、2人はろくに探しもしないで出て行ったため、カイと白ローブは胸をなでおろした。そして、安心した白ローブはミカに当たらない様に、ベッドに腰掛ける。


「突然ごめんね。あとそれありがと」


 そう言って白ローブが指さした先には先程ビューンが蹴った物があった。そして周りには砕けた氷があった。先程物が飛んで来た際カイが瞬時に氷を作り出し防いだのだ。不意打ち見たいな物だったため、強度は低い物になってしまったが防ぐことが出来た。


「お礼を言うならこっちですよ。ありがとうございます。もしかして魔力切れですか?」

「うん。この姿を偽る『イリュージョン』は魔力の消費が激しいんだ。その上今回は範囲も広かったからね。もう今日は魔法を使えないかな」


 顔は見えないが、見えていたら絶対に苦笑いしている顔だった。

 そのタイミングでミカが布団から顔を出した。


「大丈夫?」

「うん…」


 ミカは先程と違い震えてはいないが、明らかに怯えていた。


「大丈夫だよ」


 そう言って白ローブがミカのことを抱きしめた。ミカは白ローブのことを抱きしめ返した。


 しばらく抱きしめられ、抱きしめたことで落ち着いたミカは周りを見てびっくりした。扉は無くなっていたが、先程壊された物が無くなっていたのだ。


「落ち着いた?」

「うん。カイが片付けたの?」

「このまま片付けないで帰ったらさすがに先生が可哀そうだから」


 そう言ってカイはミカに袋を見せた。おそらく壊れた物を全て袋の中に仕舞ったのだろう。


「とにかく今はここを離れよう。あいつらが戻ってくるかも」

「うん」


 そう言って立ち上がったミカは白ローブにしか聞こえない声で何かを言うと白ローブは「どういたしまして」と一言言った後でカイが話しかける。


「前回の俺みたいに何かしなくていいですよ。あいつらは俺がつぶします」

「…分かった。任せたよ」


 白ローブはカイに言われなければ今すぐにでもビューンとドッペルトをつぶそうと考えていたが、カイに止められたため止めた。これが普段のカイ相手だったら文句を言っていたが、今のカイの顔は怒り一色で有無を言わさない物があった。

 白ローブはカイを敵に回してはいけないと思いながら窓から出て行った。




 カイとミカは寮に向かわずにカイが泊っている宿に向かっていた。先程の2人の会話から狙いがミカだと予想できたため、寮に戻ってはまた狙われると思ったからだ。それならば実家に戻ればいいと思ったが、今度はフラージュが狙われるかもしれないとなったため、アルドレッドもセレスもいるあの宿に向かっていた。先程白ローブに抱きしめてもらったおかげかミカの調子は戻っており、カイと一緒に魔力感知を使いながら移動していた。


 宿に着いた2人は、ミカもここに泊まると言うことで追加で料金を払いカイの部屋に来ていた。カイはもう一部屋取ろうとしたが、2人でいたほうが安全とミカが言って押し切った。




「おい!奴らと連絡が取れないとはどういうことだ!?」


 ビューンとドッペルトが医務室に強襲した翌日、バーシィは寮でビューンとドッペルトの2人を集め、今日実行する作戦の最終調整をする予定だった。今回の作戦では3人の取り巻きを全員使ってカイのことを消そうとしていたが、取り巻き達と連絡が取れないのだ。


「なぜだ!?確認してこい!」

「は、はい」


 最後の唯一残った取り巻きは怯えながら部屋から出て行った。


「お2人とも申し訳ありません」

「…バーシィ殿のも取り巻きと連絡が無いのだな」

「「も」と言うとドッペルト殿も?」

「あぁ、今日の作戦にはあいつらを行かせるつもりだったからな、今日確認をしたら全員誰かに殺されていた」


 それを聞き、バーシィは目を見開く。その後で少し考える素振りを見せる。


「今日予定していた作戦は必ず実行します」

「だが、作戦を実行する者がいない」

「私たち3人の取り巻きが捕まった。そのうち兵士にバレてしまうかもしれない。それならばバレる前に片付けないといけない。分かっているのかドッペルト」

「だから、その作戦を実行する者がいないのだろうが!」


 ビューンとドッペルトが言い合いを始める前にバーシィが言う。


「今回の作戦は私たち3人で行いましょう」


 そう言うバーシィを2人が見ると、前と同じ不気味な顔になっていて逆らえなかった。

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