第96話
バーシィ領までは馬車で来たカイとミカは、領内に入った後で2人が変装するために路地裏に移動する。変装では2人ともローブを着て、付いているフードを深く被り、ついでに仮面をする。そのローブはラウラの家から王都に戻るときに「持って行って」とラウラが言って持たせた物だった。普通だったらカイだけが変装すればいいが、今の格好は前回長期休みでグイと遭遇した時と同じ様な格好をしている。そのため、一緒にいるミカの面が割れると何をされるか分からないと考えたため、カイが変装するように頼んだのだ。ミカはそれを快く承諾した。
変装を終えた2人が通りに戻ると、カイ達は会いたくない人と会ってしまった。
「…見つけたぞ、ローブ男」
そこにはグイがいた。だがグイに会うのは仕方のないことだった。あの時カイを痛めつけられず、レイに止められたことにイラついたグイは、今まで以上に外出し、平民を痛めつけるようになったのだ。
(なんでこの人に会っちゃうかな…)
「ん?横の奴は仲間だな」
カイが内心溜息をつき、話を聞いてない中でもグイは一方的に話し始める。
「ねぇカイ、あれ誰?」
「元家族。性格に難があるって言ってた方の兄」
「あー…」
ミカの表情は全く分からないが、絶対に苦笑いをしている声だった。
「おい、聞いてるのか!わざわざ私が崇高な存在と言うことを教えてやっていると言うのに聞いていないとは。救いようのない屑だ」
顔を真っ赤にしたグイは剣を抜き、前にいたカイに斬りかかる。カイはそれを横に跳んで避ける。ミカのことは目に入っていないのか、それからずっとカイに斬りかかる。前回よりも弱体化しており、グイは振り下ろす攻撃しかしてこない。そのためカイは横に避けるしかしてない。動くたびにローブの端がヒラヒラしているが、そのローブの端にもグイの剣は当たりそうもなかった。
「また避け続けるのか。屑が。今回は止めてくれるレイはいないぞ。私に斬り殺されろ」
前回同様に怒り始めたグイはどんどん剣筋が鈍くなっていく。すると突然止まり「あー」と叫び声を上げる。その叫び声を聞き人が集まってくる。それに気が付かずにグイは勝手に1人で頭を掻きむしりながら語りだす。
「お前みたいな屑がいると、同じあの屑を思い出す。クノス家の者と言うのに魔法の適性を持たず、家に泥を塗ったあの無能を。あんなのと家族だったと思うと虫唾が走る。なぜあんな奴がクノス家に生まれたのだ。クノス家にあんな屑は要らんというのに」
そこまで話すと、手を止めて突然笑顔になる。
「だがあいつは追放された。無能は何も出来ん。ならばどこかで野垂れ死んでるはずだ。あいつが死んだことは良いことだ。無能や屑は死ぬべきなんだ」
その笑顔はカイが前に狂気に感じた笑顔よりも歪で禍々しい者だった。カイにはグイが人を止めた怪物にしか見えなかった。
「だからお前も死ね。私に殺されることを感謝しろ」
そう言うと再度カイのことを斬り殺すためにかけ出そうとする。
だが駆け出すことは無く、その場で倒れた。
「もう行こ」
それはミカが雷を撃ち込んだからだった。ミカは仮面で声をいじってからカイに話しかける。カイがミカの方を向いて頷くと、ミカはその場からいなくなり、カイは屋根を伝って離れた。
その場に残った者達は何が起きたか分かっていなかったが、近くに来ていた兵士によって事情聴取をされた後で解散となった。
カイは魔力感知を使うことで追手が来ていないことを確認すると、森の近くで止まる。すると突然横に不機嫌なミカが現れる。
「さっきのことなんて忘れて、気分変えて行こ」
それだけ言って背中に背負っていた槍を手に持ち、ミカは森に向かって歩き始めた。ずかずか進んでいくミカについて行く形でカイは森に入って行った。
森に入ると、ゴブリンやホーンラビット、ウォーターベアーが出てくるがイラついているミカの前では姿を現した瞬間に首を一刀両断される。すべてのモンスターが断末魔の叫びをあげること無く倒されていく。カイのすることと言えばモンスターの死骸を回収するだけだった。
道中、モンスターを倒すことでストレス解消できたミカの機嫌が良くなり、途中からはカイも参加した。最初にミカがものすごい勢いでモンスターを倒していったためカイが予想しているよりも早く結界の前までつき立ち止まる。急に立ち止まったことでミカが不思議そうな顔をする。
ミカがどうしたのか聞くと、手を出してと言われたためおとなしく手を出す。直後カイが手をつなぎ前に進む。突然な事にミカが手を引っ張られたことに驚く。だが次に見た景色によって引っ張られたことなど忘れて、驚きから何度も瞬きをする。
「え、さっきまで家なんてあったっけ…?目の前にあった木は…?」
ミカの驚いている姿にカイは「最初はそうなるよね」と言いたげに数回頷くとミカに結界が家を隠しているのだと説明した。
まだミカが驚いていると家の扉が開かれた。そこにはラウラがおり、カイ達に近づく。
「家入って」
「分かった。ミカもいつまでも驚いてないで行くよ?」
そう言いながらカイがミカの方を見ると、ラウラが予想していた見た目と全然違かったことに驚いているようだった。
カイが目の前で手を振ったことで正気に戻ったミカは、少し急ぐようにして家まで向かった。
「まず、自己紹介。私はラウラ。カイの師匠をしてる」
「わ、私はミカです。カイとは学園とかで大体いつも一緒行動してます」
ミカはまだ驚いてるのか緊張しているのか分からないがなかなか話せずにいて、ラウラは元から口数が少ないため会話はすぐに終わってしまった。そのためカイが間に入ろうとしたが、ミカが入るよりも先に話しかけた。
「数日間だけになっちゃいますが、魔法とか教えてください」
「ん。頼まれてるからにはしっかり鍛える」
その後は、明日から特訓するということになったため、前回の長期休みを終えてから何があったかラウラに2人で交互に話した。話している間に夕飯の時間になったため、3人で夕飯を食べた。これらにより緊張が解けたミカはいつも通りに話せるようになっていた。
「変わってない…。昔からそうやってズルとかする人が多い」
対抗戦でミカがナイフ型の
「え、ラウラさん私たちと同じくらいじゃないんですか?」
「親友の魔法で成長が止まってるだけ。実際は200歳以上」
「え!?そうなんですか!?」
「ん。帝国にいる親友にかけてもらった魔法でこうなった」
「会えたの?」
「会えた。有名になってたからすぐに見つけられた」
「えーと、その感じだとラウラさんはつい最近帝国に行ってたんですか?」
ミカの発言に対してラウラはカイを見る。その目は何の目的で帝国に行ったか話して良いのか?と言っていた。
「実はラウラには帝国でモンスターを作った可能性があるか調べて貰ってたんだ。どうだった?」
「皇帝陛下が指示して作らせた可能性は0。
「そこまでしてたの!?カイが帝国まで疑ってると思わなかったよ」
驚いているミカだったが、どこに敵がいるか分からないということをカイから聞いていたのと、カイがアルドレッド達を信用していることを知っていたため、それ以上は言わなかった。
「ん。もうこんな時間。寝たほうがいい」
そう言ってミカが立ち上がると、ミカの手を握る。
「寝る前に魔力感知使えるようにしとく」
そう言うと、ラウラがミカの手を掴んでいる手に魔力を集め始めた。すると、ラウラは体や武器に魔力を纏わせるのと同じ様に自分の魔力でミカを包む。そして少しすると魔力を元に戻す。
「相手からも魔力が出てるから魔力で覆うのは難しい。けど魔力操作が上手く出来ればこんなことも出来る」
「え!?」
「魔力感知の兆しがある人にこれをしたら魔力感知出来るようになる」
ラウラは片手間に用事を済ませるような感覚で、ミカが魔力感知を使えるよう覚醒させた。
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