第227話



 メッサーだけでなく、部屋にいる全員がフラージュ達のことを疑問や、敵意などの視線を含みながらカイ達のことを見る。


「会議中失礼します。早急にボスに会いたいとのことです」

「俺にか?ん?どこかで見た顔だな」


 大きな椅子に座っている男、ボスと呼ばれたはフラージュをじろじろ見ると、思い出そうと試みる。だが、全く思い出せなそうだったためフラージュが話しかける。


「アルゲーノス家にいた者と言えば分かりますか?」


 男だけでなく会議室にいた全員が驚いた顔になり、フラージュのことを再度見て、数人は戦闘体勢に入る。だが、ボスは驚いた顔からすぐに冷静な顔に戻る。


「あなた方は私達の敵のはずだが?」

「元はと言えば私は当主ではなく、弟のアルンの妻でございます。夫を殺した物達など敵でしかないです」

「そうか、あの時の騒ぎは…。悪戯して申し訳ない。その通りだ。それで、後ろにいる方々は?」


 ボスは十数年前に起きたアルゲーノス家での出来事を知っており、事件を起こしたのがアルンだと察する。そして、先程までとこわばっていた顔を少しだけ緩ませ後ろにいたラウラと騎士達とカイ、特にカイのことを見ながら聞く。


「私達は帝国の使者です。あなた達の援護に参りました」


 先程まで静かに行方を見ていた人達が全員驚きだす。そしてボスも先程よりも驚いた顔でフラージュのことを見る。


「…あなた達が帝国の使者だと言う証拠は?」

「これを。皇帝からです」


 フラージュいつもの袋から巻かれた紙を出すと、案内をしていた男に渡す。その紙が安全だと確認してからボスに渡す。ボス静かにその紙を読んでいく。


「…まさかここまで王国の状態を知ってるとは。俺達が想像していた以上に帝国は凄いな。お前ら運は俺達に回って来たぞ」


 その発言で部屋にいた人達の少し暗かった顔が明るさを取り戻す。


「そして、そこに書いてある本隊がつくまでは、私達と今王都に潜入している騎士達が援軍として協力します」

「本当か!?感謝する」

「その代わりと言っては…」


 フラージュがカイのことを見ると、カイは騎士達をかき分けてフラージュの隣まで移動する。


「彼の罪が罪では無かったと公表して欲しいのです」


 先程まで笑顔だったボスの顔が変わり、真剣な物になりカイのことを見る。そこでようやくカイは仮面に手をかける。

 そして仮面を取ると、メッサーはとても驚いた顔になる。


「彼は帝国の皇子を誘拐、殺害の罪があると言われましたが、実際には帝国に皇子はいません。なので罪にすらならないのです」


 仮面を取ったカイは、視線をメッサーに移すと、メッサーは信じられない物を見る目でカイのことを見続ける。


「お前達、今日の会議は明日に移す。大幹部以外は出来る範囲準備を進めてくれ」


 ボスがそう言うと、部屋にいた人達はぞろぞろ会議室から出て行き、数人だけ残る。カイはフラージュについていようと思ったが、メッサーと話してていいと言われたためラウラと共にメッサーの元に向かう。


「急にいなくなったごめん」

「ま、マジでカイなのか…?」


 カイがゆっくり頷くと、メッサーはカイと肩を組み頭を荒くなで始める。体格はメッサーの方がデカい上に、カイは抵抗する気が無かったため簡単に抑えられる。


「ったく、心配したぞ!どこ行ってたんだよー!」

「ちょ、痛いって」


 心底嬉しそうに、今までカイが見た中で一番の輝かしい笑顔になったメッサーはなで続ける。カイも口では痛いと言っていたが、内心、心配してくれていたことに喜んだ。


「こっち来いよ。色々話そうぜ。それと後ろにいるのは、帝国の学園で知り合った奴か?」


 ずっと静かに2人のことを見ていたラウラを見て、メッサーは同い年だと思い、カイに聞くと、カイは少しだけ固まる。


「ともかく部屋から出よう。邪魔になるよ」

「そうだな」


 メッサーが肩を組むのを止めたため、ラウラはカイの横に移動し、その反対側にメッサーが並んで会議室から出て行く。




「そんなことがあったのか。帝国でも大変なんだな。まぁこっちよりは楽しくやってるみたいで良かった」


 メッサーに案内される形で移動しながら帝国であったことを話すと、今度はメッサーが王都の現状を話し始めた。その内容は事前にカイ達は聞いていたものとほとんど誤差が無く、王都の現状が酷いのだと再認識することになった。


「さて、ここが俺の部屋だ。好きに座ってくれ」


 メッサーの部屋は必要最低限の物が置いてあったが、なぜか椅子が5人分も置いてあった。


「にしても、お前が帝国に行ってるとはな。もしかしてアルゲーノスさんもか?」

「うん。ミカがいなかったらもしかしたら帝国に行けなかったかも」

「そうか。それで、そっちの奴は?」


 メッサーはカイとラウラに水の入ったコップを渡してから2人に向かい合うようになっている椅子に座る。


「王国に居たときからの師匠でラウラ。俺がここまで強くなれたのはラウラのおかげ」

「よろしく」


 メッサーが驚く中ラウラが手を出したため、メッサーは恐る恐ると行った様子で握手する。


「俺はカイの友人で、メッサーです」

「あれ?メッサーも貴族じゃなくなったの」

「ここの動きが本格的になって来たからな。行方不明って形でいなくなったことにしてんだよ。少し前に行方不明者がたくさん出たからな。それを使った感じだな」

「じゃあ、ゼーラ家はメッサーのことを探してるの?」


 ゼーラと言う単語にラウラがピクリと反応する。それを2人とも見落とさなかった。


「ラウラはゼーラ家を知ってるの?」

「知ってるも何も、リアがいたのがゼーラ」


 カイは驚いている中で、メッサーは何のことを言っているか分からなそうだった。


「たぶんだけど、君のことは探してないと思う」

「そうですね。あいつらは捜索願いなんて出してないですね」

「昔から変わらない」


 ラウラはため息をついてからコップに入っている水を一口飲んで、その後のカイとメッサーの話しに聞き続けた。

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