45話


 命令されたオークファイターは、まず初めに一番近くにいたカイ、ガル、教師に向かって歩き出す。

 その歩みはゆっくりだったが、オークファイターはプレッシャーを放ちながら近づく。そのため、生徒はおろか教師も動けなくなっていた。確かに迫る『死』という物に全員が恐怖していた。

 生徒と教師が動けない中、急にオークファイターの腕から血が出た。

 オークファイターの腕が切られた。

 生徒達が、このことに気づくにはさほど時間はかからなかった。だが、急な出来事でさらに混乱する。

 教師には誰が腕を切り付けたのか見えていたが、理解は出来ていなかった。


「先生。急いで後ろ下がってください」


 教師の目には、オークファイターと対峙し自分に背を向けるカイの姿が写っていた。

 カイが声を出したことで生徒達も少し落ち着くことが出来たため、状況確認のために周りを見始める。そこには、血が出ている腕を見ているオークファイターの前に立っているカイがいた。カイの手には血が垂れている剣が握られている。そこでようやくカイがオークファイターの腕を切った理解する。

 静寂がその場を包んでいたが、直ぐに騒音が響く。


「プギィィィィィイイイイイイイイイイイイイイイ!!!」


 先程の苦しそうな鳴き声とは違い、怒ったような鳴き声を出した。

 あまりにも大きな鳴き声だったため生徒達は耳を塞ぐ。教師も眉間にしわを寄せる。

 鳴きながらオークファイターはカイに向かって突進し始めた。カイの後ろには教師と横になったまま動かないガルがいる。カイが避けてしまえばガル達が攻撃を受けてしまうため、カイは足に魔力を纏わせオークファイターに急接近し足を切り付ける。そのため、オークファイターは体勢を崩し、倒れ轟音が鳴り響く。


「先生!早く下がってください!」


 カイの声掛けによってようやく正気に戻った教師はガルを抱え生徒達の所まで下がると、生徒達を連れて自分たちが通って来た通路の近くに移動する。


「プギィイ!」


 起き上がったオークファイターが再度カイに向かって突進をする。

 カイはまた足に魔力を纏わせてオークファイターに向かって走り出す。

 接近したカイがオークファイターの腹めがけて剣を振り下ろすと、簡単に切ることが出来た。オークファイターは反撃として手を振り回して暴れるが、素早く動き回るカイには当たらなかった。

 カイはオークファイターの手を避けてオークファイターを切り続ける。

 ローブを着た2人を時々見ているが、全く動こうとしない。フードを脱いでいる方は何かを考えているのかブツブツと何かを言い続けてる。

 すると、オークファイターはカイを倒すことは出来ないと思ったのか、カイの横を通り教師達に向かって走り出した。

 だか、カイの横を通る瞬間に硬い何かを踏んだのか、痛みからその場でのけぞった。

 その隙に教師の近くに移動した。


「先生!アイスウォールを作ってオークファイターが来ない様に守ってください!」

「わ、わかりました」

「作ったら皆を連れて逃げてください!」

「カ、カイ君はどうするのですか!?」


 カイは教師の言葉も聞かずに体勢を立て直そうとしてるオークファイターに向かって行った。

 教師はカイを置いて行くことは心苦しいがここにいても邪魔になるだけと考え、生徒を連れて2階層に戻ることにした。


(心臓しかないな...。)


 今カイが持っている剣では刀身が足らず、腹に刺したとしても脂肪に守られて倒すことが出来ないのは明らかだった。

 だが、このまま切りつけていても倒すのに時間がかかってローブ男たちが何をするか分からないと考えたためすぐに決着をつけることにした。

 カイは再度オークファイターに切りかかるが、先程と違い足に攻撃を集中させる。オークファイターは手を握らずに広げ、カイのことを捕まえようとする。

 ローブの男の「食え」と言う命令を聞くため捕まえようとしているようだった。

 しかし、カイは全てを避けて攻撃をしていく。

 するとオークファイターは体勢を崩しうつ伏せに倒れる。

 カイはオークファイターの背中に乗り、心臓に向けて剣を突き刺そうとする。カイは保険として突き刺す寸前に剣の刀身を氷で覆った。


「プギィィィィイイイイ!!!」


 痛みでオークファイターが叫ぶ。手足をバタバタさせて暴れカイを振り下ろそうとする。カイは刺した剣に魔力を流しオークファイターを体内から凍らせていく。


「プギィィイ...!」


 弱弱しい叫びをあげて暴れるが、先程と違い力が入っていない。


「プギィ...プ...ギィイ...」


 動かなくなったのを確認したカイはオークファイターから剣を抜き下りる。


「...やってくれたな...。私がわざわざと言うのに...」


 カイはこのことを聞き逃さなかった。


「...作った?どういうことか教え...」

「黙れ!!私の実験を邪魔しやがって!!」


 先程の発言に質問をするが、男は怒り狂い答えない。


「ウォッシュ!!やれ!!」


 フードを被ったまま喋らなかった方は男に命令されてカイに向かって手を向ける。

 魔力感知によって魔法が来ることがわかったカイはウォッシュに向かって斬りかかる。しかし、気にすることなく魔法を放とうとする。

 カイが切りつけたが、ウォッシュはそのまま魔法を放った。


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 ここまで読んでくださりありがとうございます。

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