第355話


 乗っ取られた管理人は飛び掛かるのと同時に、両方の掌から黒い水の球体を生み出し投げつける。真正面から軌道を変えずに飛んでくるだけだったため、生み出した剣で簡単に弾き飛ばす。


「うぅ……。ああががああががあがががああ」


 両手から黒い水が離れた瞬間に管理人はまた苦しみだしその場でうずくまる。隙だらけになったそれにカイは一瞬で近づき蹴り上げて宙に浮いたところで殴りつけ遠くに飛ばす。


 しばらくのあいだ地面を転がっていた管理人は勢いがなくなると起き上がり、虚ろな眼でカイのことを見つめるとゆっくりと歩きだし、だんだんと速度を上げついには走り出す。


 近づき手を伸ばしてきたところで、カイはその手を軽々と弾き一歩踏み込み管理人の体を蒼炎で包み込み凍り付かせる。蒼炎が消えるのを待って剣で切りつけるが刃は通らずはじき返されてしまう。


「ア、アアアァァアアアア!」


 氷の中にいて確実に凍り付いているはずだというのに、その氷を砕いて掴んで来ようとしたため腕を切りつけて後ろに下がるカイ。傷ついた管理人だったが、その傷は再生するように瞬時に塞がる。


「マ、マリョク……。マリョク!!マリョク?マ、ママ、マ」


 喋るだけ喋ると下を向いてしばらく佇む。そのまま動かなかったため近づいたカイは再度切りつけると今度は切りつけることができずに弾かれてしまう。

 そのため剣を消し、拳に炎を纏わせ殴りつけ衝撃で遠く殴り飛ばす。管理人の皮膚はかなり固くなっており、衝撃が返ってきたことによる痛みで顔を歪ませる。それも一瞬ですぐに表情を戻し管理人を睨みつける。


「ア?アア?アウ?!マりょく……。……まリョク。マリョク……。魔力!!」

「!?やっぱり意識を乗っ取られたんだ!」


 地面に倒れていたが「魔力!」と大声で言うと同時に腕の力だけで跳ね起き、不気味な笑みでカイに向け駆け出す。


「魔力魔力魔力魔力魔力魔力魔力魔力魔力魔力魔力魔力魔力魔力魔力魔力魔力魔力!!!くれぇぇええええ! !!!」


『魔力を奪い取る』それしか考えていることにないのか、動きはとても単調で突進しかしてこないため対処は簡単だった。だが攻撃が通らず、剣が通ってもすぐに傷が再生し、弾かれた瞬間に蹴りを入れれば固くなっており逆にカイにダメージが入る。


「かった……。痛いなぁ」

「アアアアア!!!」


 苦しそうな叫び声を上げながら突進してくると、先程までとは違い体から炎は噴き出す。

 その状態でカイは蒼炎を纏って殴れば、噴き出していた炎がだんだんと蒼炎に変わっていき体を凍り付かせる。最初と違い体の中から噴き出していた炎を伝って凍り付かせたため体の中から凍り付いていた。その氷を砕けばいいとすぐに鼓拳を伸ばすが、それが届くことはなかった。


「ア、アア。あああ。ヨウやクわかって来た。ウ、ウォオオオオオオオ!!」


 氷の中から片腕だけが出てきて攻撃を受け止められすぐに追撃しようとしたが、氷の中にある口が突然動いたため警戒して後ろに下がる。

 すると氷は砕かれちょうど尾骶骨のところから動物、キツネの尻尾を模した炎が3本出てくる。それが体を包み込み表面についていた霜を全て蒸発させる。

 包み込んでいた炎がゆっくりと開いていき、元に戻ると尻尾が消える。


「……いい気分だ。これが超越した存在の体。ハッ、馬鹿らしくなる。我がしてきたことは全て無駄だった、というわけか。…まぁ良い。この体を使い支配すればいいだけ」


 とても低く呟かれた言葉に背筋に冷たい物が走りながら睨み続けるカイは一瞬たりとも視線を外していなかった。

 瞬きもしていなかったはずなのに次の瞬間に視界から管理人がいなくなる。


「カイよ」


 後ろから聞こえてきた声に恐怖を浮かべながら反射で氷柱を生み出し、後ろにいる存在に向けて攻撃を仕掛ける。だがその攻撃は空振りし当たることはなかった。


「お主以上の強者は始まりの王以外にいないだろう。あやつに通用するかお前で腕試しをさせてもらおう」


 カイは目の前から強い衝撃を受け、気づいた時には地面を倒れていた。

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