第86話


 カイが観客席に戻ると、次の試合の真っ最中だったため特に注目されることなく、ミカの隣の席に座ることが出来た。


「お疲れ!完勝だったね。相手が最後に持ってたナイフで魔法道具マジックアイテム?」

「ありがと。ナイフは魔法道具マジックアイテムだったよ。当たったら真っ二つになるくらいの切れ味を持った風の刃が出てくる奴だった」


 ミカは「そんな危ないの使うの?!」と驚いた後は試合を見ていた。カイもそれに続いて試合を見ると、やはり試合は魔法道具マジックアイテムを使った魔法の応酬だった。


 その後、ミカは試合の準備をするために控室に向かったため、カイ1人は1人で試合を見ていたが代わり映えしない試合に飽きていた。カイは周りの人達が楽しそうにしている意味が分からなかった。


 ミカの試合までボーと見ていたカイだが、1人だけ気になる生徒がいた。その生徒は体に魔力を纏っただけで戦っていたが、纏っている魔力の感覚が違った。

 普通、魔力を纏う際は薄い膜を纏ったような感覚になる。これはカイも例外では無い。カイは昔より防御力を高めるために膜を厚くしようとしたが、魔力が外に逃げて行くだけになり、厚くすることは出来なかったのだ。それをラウラに話したら魔力の膜を厚く出来るのは無属性魔法の「身体強化」だけだと言われた。その後も何とか厚くしようとしたが、出来ずに諦めたのだ。

 それだと言うのに今試合をしている生徒は、纏った魔力は普通よりも厚く、動きも他の生徒よりも早い。

 そして、今までは避けて殴るを繰り返していたそいつは、持っていた棒を横に振った。そいつは軽く振ったつもりだろうが、早くとても目で追えるものじゃなかった。その棒に当たった生徒は防御していたのに後ろに飛んでいき、場外線を簡単に越え、入場口の横の壁まで飛んでいき、壁にめり込んだ。

 それを見た観客達は、今までと違う展開に開会式の時以上の歓声を上げる。


「勝者 総合第三学園 マスカル=ブラン!」


 カイは審判が言った生徒の名前を覚え、顔も覚えるためにブランの顔を見る。ブランは負けた生徒を見て不気味な笑みを浮かべており、その笑みは長期休みで帰った時に会ってしまったグイが、冒険者を痛めつけている時の笑みとすごく似ていた。


 先程壁にめり込んだ生徒は担架で救護室に運ばれ、次の試合となった。


「華麗な槍さばきと素早い魔法で勝利を掴む!総合第一学園 ミカ=アルゲーノス!」


 審判がそう言うと入場口からミカが出てくる。

 ミカが舞台に着いたのを確認した審判は相手の選手を呼んだ。


 ミカは槍を構えた後にしっかりと相手を見る。

 相手は魔法第三学園の生徒でローブを着ている。手には杖と言うよりも棍棒だった。


「それでは試合開始!」


 審判がそう言ったため、ミカは相手に向かって走り出す。


「ライトボール!」


 そんなミカに向けて相手は的確に魔法を当てようとする。ライトボールが飛んでくるが、ミカは横に跳んで避けてからまた接近する。その後も魔法が飛んでくるとミカは思ったが、全く飛んでこなかった。魔法が来なかったことで簡単に接近出来たミカは石突で相手を思い切り突こうとする。


「ライトシールド!」


 相手はミカの槍を受け止めるために魔法を発動する。そして、止められると思っている相手は持っていた棍棒を振り上げる。「このまま振り下ろせば勝てる!」と相手は確信した。

 だが、ミカの槍はライトシールドを貫通し、相手の鳩尾に綺麗に入る。


 このライトシールドが貫通したのには2つ理由があった。


 1つはミカが槍にも魔力を纏わせたこと。王国の生徒は魔力を自身に纏うことは出来るが、魔力操作がつたないため武器に魔力を纏わせることは出来ない。相手の生徒は今まで素の状態の武器しか止めたことは無かったため、ライトシールドでも攻撃を止められると思ったのだ。

 もう1つは、ライトシールドに原因があった。魔力操作がつたない内は、水・緑・地・氷の4種類以外で守る魔法を使うのはオススメ出来ない。結果に明らかな差が出るのだ。先程も言ったが、王国の生徒達は魔力操作がつたない。その状態で守るのに向いてない属性で守っても、守れるのは魔力を纏ったいない武器の攻撃で、魔法を止めるのも1回が限界だ。その魔法だって威力が高ければ止められないかもしれないのだ。

 この2つの理由からミカの槍をライトシールドで防ぐことが出来なかったのだ。


 ノーガードでそれをくらった相手は、ローブの下に隠していた大量のナイフをまき散らしながら場外まで飛んでいった。


「勝者 総合第一学園 ミカ=アルゲーノス!」


 名前が呼ばれるとミカは体勢を戻し、石突を地面につけてから一息吐きながら、入場口に戻ろうと相手に背中を見せた。


 試合を見ていたカイはミカの勝ちを内心喜びながら、吹き飛んだ相手を見る。相手は1本のナイフを握っていた。

 それに疑問を持ちながら魔力感知をすると、相手は持っているナイフをミカに向けると、ナイフからミカに向かって魔力が飛んでいく。素早く飛んでいくため、反応が遅れたカイはすぐには叫べなかったが、ミカを見て叫ぶ必要が無いと判断した。

 何と、ミカは伸びて来ていた魔力を避けて、相手に接近してナイフを奪ったのだ。

 ミカの急な動きに審判も観客も驚く。観客達はほとんどが固まっており、審判は何とかミカにどうしたのか聞く。


「ア、アルゲーノスさん?どうしたんですか?」

「これって魔法道具マジックアイテムですか?」


 ミカは審判に問いに答えず、奪ったナイフを審判に渡す。


「えーっと、これは魔法道具マジックアイテムですね。どのような物か確認しましょう」


 そう言うと、審判の近くにいろいろな魔法道具マジックアイテムを持った人たちが近づき話し始めた。

 異様な光景に観客達は「どうしたのか?」と騒ぎ出すが、カイだけは違うことに驚いていた。


(ミカは明らかに魔力が当たる前に気づいてた。ってことはミカも魔力感知が出来るかもしれない)


 ミカが感知出来るかもしれないことに喜びながらミカを見ると、ミカは不思議そうに驚いた顔をしていた。




 その後、ナイフ型の魔法道具マジックアイテムが「狙った相手の所にこの魔法道具マジックアイテムが高速で飛んでいく」と言う物だと分かった。審判が「試合が終わったと言うのに、しかも後ろから不意打ちで使おうとしたのか?」と相手に聞いたところ「使う気はなかった!」と言ったが、嘘を見抜く魔法道具マジックアイテムが反応して嘘だと言うことが分かり、相手の生徒は兵士に連れていかれた。

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