第87話


 学園対抗戦の全ての一回戦が終わり、小休憩を挟んでいた。

 その場から離れて休憩している者もいたが、カイとミカは先程から座っている観客席に座ったままだった。そのため、周りに座っている観客達は、二回戦に進んだ生徒としてチラチラとカイ達のことを見ていた。そんな視線を気にせずにカイ達はミカの試合のことについて話し始めた。


「やっぱりあのレベルのライトシールドじゃ魔力を纏ったら止められないね」

「私はびっくりしたよ。セレスさん達としか戦ってなかったから、てっきり防がれると思たよ」

「防がれたらどうするつもりだったの?」

「シールドを壊せなかったら後ろに回り込んでまた槍で攻撃してた。壊せたら雷撃って痺れてる所を薙ぎ払いで場外にしたよ。でも、魔法の準備してたら後ろに跳んで回避してたかな」

「じゃあ、試合後のナイフは予想できた?」


 カイがいたずらで聞く。あんなのは魔力感知が出来る者しか分かるはずがない。そもそも、もし全ての人が魔力感知を使えるとしても、試合後のあの不意打ちを止めることが出来る人はほとんどいないだろう。それなのにミカは防ぐことが出来た。魔力感知者じゃないのに。だからあれを見た魔力感知者は誰でも分かるだろう。ミカが魔力感知に覚醒しようとしてることが。先程のナイフは半覚醒状態であるために、無意識に感知出来たのだろう。


「うーん…。なんか嫌な物が飛んでくる感じがしたの。危ないと思って避けてみたら、ナイフ握ってたから取っといたの。まさか魔法道具マジックアイテムとは思わなかったよ。勘が働いたのかな?」



 ミカ自身あれが魔力感知だとは分かっていなかったため、勘だと思っていた。


「ねぇミカ。ミカは勘って言ったけど、感知が無意識に発動したから避けられたんだと思う。だから少しコツを掴めばミカも感知者になれると思う。学園対抗戦が終わったら感知の修業をしてみない?」


 今までミカは槍さばき以外のことをカイやアルドレッド達から教わっていた。しかし魔力感知に関しては、覚醒の兆しが無いと鍛えることは出来ないため教えられなかった。

 だが、今回ミカは魔力が当たる前に避けた。カイはこれが覚醒の兆しだと確信していた。

 もちろん、魔力感知のことはミカに話しているためミカも知ってた。だが、これが魔力感知の兆しとは思っていなかった。


「カイはどんなきっかけで覚醒したの?」

「俺は…まぁ師匠に教えてもらった時に、操作してみたら感知出来たんだ。たぶん敏感体質だったんだと思う」


 ここまでの濁したのには2つ理由がある。1つは周りに人がいるため。2つ目はまだミカに属性が氷炎のことを話してないのだ。

 カイとしてはアルドレッド達には話しても良いと思ったが、このことはラウラに口止めされているのだ。

 実は、ラウラは魔力を渡せるあの魔法道具マジックアイテムを破壊したいと思っている。だがあの魔法道具マジックアイテムは不壊属性を持っているためがゆえに破壊出来ないでいた。昔カイとラウラが同時に大量の魔力を込めた魔法で攻撃したが、それでも傷は全くつかなかったのだ。

 これを捨てて、悪用されてしまえばたくさんの命が亡くなることが目に見えているため、悪用されないためラウラがずっと持っているのだ。


「とにかく、学園対抗戦が終わったら魔力感知の特訓をしてみよ?」

「…うん。やってみるだけやってみるよ!」


 魔力を渡せる魔法道具マジックアイテムは置いておいて、カイとミカは対抗戦が終わったら何の特訓をするか決まった。




 今日は2回戦まで行いことになっているため、カイとミカはあと一試合あった。

 先程同様にカイは観客席から立ち、ミカに一言言ってから控室に移動する。

 道中たくさんの人ににらまれたりしたが、カイは集中するために急いで控室に向かった。

 控室では、1回戦の時に杖型の魔法道具マジックアイテムを持って出て行った男がすでにおり、試合の準備をしていた。お互いに不干渉でいると、1回戦の時とは違った男が入って来て、カイのことを睨みながら壁に背を預けた。

 あの時と同じ様に、杖型の魔法道具マジックアイテムを持った男が急に立ち上がり部屋から出て行く。先程と違うのは呼ばれるよりも前に試合に行ったことだった。


 観客席から大きな歓声が上がり少しすると、先程出て行った男が入って来て、カイのことを睨んだ。少しの間睨んでいると、置いていた荷物を持ってその男は出て行った。カイはなぜ睨まれたのか分からなかったが、先程から壁にもたれ掛かっている襲事同じで、無能が勝って生意気だと思っているのだろうと予想した。

 そこからさらに精神統一していると、呼ばれたためカイは入場口に向かった。


 1回戦とは違い、身体検査と身分確認がされた後にカイは舞台に向かって歩き始めた。

 そこからも一回戦と違った。一回戦ではブーイングが起きていたのに、二回戦では全く起こらなかったのだ。なら、変わりに何か起きたのかと思うと、何も起きてないのだ。観客の半分くらいはカイのことを睨んでいるが、残り半分は同情の目を向けていた。

 不思議に思いながら舞台に上がると、カイは先に来ていた相手を見て理解した。

 相手は第一兵士養成学園の生徒だったのだが、生徒に見えなかった。

 顔には多くの血管が浮かび上がっており、目が血走っていた。上半身は制服が破ける位に筋肉が発達しており、腕は大の大人よりも二回りも太くなっていた。下半身は制服がピチピチになっており、ひざ下からは破けたのか半ズボンになっていた。

 明らかにヤバイ薬か魔法道具マジックアイテムを使われていた。


「そ、それでは試合を、か、開始します。は、始め」


 審判もこの状況には驚いており、試合を始める前に確認を取ったが、違反は無いと係に言われていた。


 開始の合図が出てカイは速攻を仕掛けた。相手の腹目掛けて蹴りを放つと、相手は防御をしなかった。鳩尾ではなく腹に入った攻撃だった。蹴った瞬間、カイは厚い鉄板を蹴ったのだと錯覚した。腹筋がメチャクチャ硬かったのだ。一度下がったカイに向かって相手はついに動きだした。その瞬間に相手が立っていた所はへこんでおり、一瞬でカイの目の前にいた。カイは魔力感知を使っていたが、魔力の動きは無かった。相手は筋力だけで魔力を纏った時と変わらない動きをしたのだ。

 カイは全ての攻撃を避けることが出来たが、攻撃を与えることが出来なかった。発達した筋肉によって全ての攻撃が防がれるのだ。

 相手は少しは理性があるのか、避けられるたびにイライラしているのか、どんどん攻撃が雑になっていた。また、試合をしていくと、カイに殴られるたびにニヤニヤ笑うようになった。

 このままでは状況が変わらないため、カイはやらない様にしていたことをし始めた。

 カイが殴ってくるのを相手はニヤニヤしながら見ており、防御をするそぶりを見せない。カイの拳はそのまま鳩尾に入った。


「グハァア!」


 いくら急成長させたとしても弱点は弱点のため、苦しくなった相手はその場で止まった。

 カイは相手が弱点を攻撃しても大丈夫な状態か調べるために弱点を避けて攻撃していたが、このまま長い間戦っても体に悪いと思ったため調べるのを止めて早急に倒す作戦に変えた。

 カイは止まった相手の顎を思い切り殴る。今までの生徒と同じで、くらった瞬間に相手は前かがみに倒れた。

 倒れた生徒を見て審判が近づくと、気絶したことを確認した。


「しょ、勝者 総合第一学園 カイ」


 審判が結果を言った瞬間に、カイが入って来た時に睨んでいた観客はブーイングし始め、一部の同情していた観客は違反をしたのではと騒ぎ出す。残りの人達はカイに向かって恐怖の視線を向けていた。

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