第57話
翌日、カイは静かに目を覚ます。
(昨日の考えたことがもし本当だったら...)
再度ラウラと話し合ったことを思い返す。
『王国がモンスター作っている』
可能性の話しだが、万が一にこれが本当だったとしたらどうすればいいのか、カイは分からなくなっていた。
(もしも王国が人工的にモンスターを作る研究をしてるなら、使うとしたら他国との戦争しかない。モンスターを戦争で使うならレイ兄上は大丈夫だと思う。けど帝国と戦争ってなったらアルさんとセレスさんが...)
カイとしては、王国や帝国のことよりも自分に親切にしてくれるアルドレッドとセレスの方が大事だった。
もしも王国と帝国の戦争が起きたとき、カイは今はどちらにも協力するつもりはない。家を追放され、学園に入ってからカイは自分の目と耳で見たこと聞いたことをしっかりと考え、自分で答えを出すと決めていた。
そのため医師から国々がどうゆうところなのか聞けたのはカイにとってとても幸運だった。
そして、今彼がいるのは王国、王国のことはいくらでも見放題だった。
実際に自分の目で見てみると、自分は『無能』と蔑ろにされ、貴族の横暴な態度、下と思った者への扱いの酷さなどを見て、カイは王国のことを『大切な自分の故郷』とは思っていなかった。否、思えなくなっていた。
それでもまだ王国にいるのは、一緒に行動してくれ、信頼していて、自分のことを信頼してくれるミカと、家族だと唯一思っていて、思ってくれているレイ、師匠のラウラがいるからだった。もし、この3人がいなかったらカイが追放された日に王国から出て行っていただろう。
そのため、カイは帝国との戦争で王国が甚大な被害を受けたとしても興味が無かった。
(でも、モンスターを操れるなら帝国が危ないかもしれない?)
帝国のことは聞いただけで実際に見たわけではないため、どう考えればいいか、カイは分からなかった。
その後考えたが、考えは上手くまとまらずにいると、ラウラが部屋に入って来た。
「カイ、起きた?」
「...うん。さっき起きた」
「...朝ごはん出来てるから食べに来て」
「分かった」
ラウラが部屋から出て行くのに続いてカイもラウラを追いかけて部屋から出る。
朝食を食べ終わりお茶を飲んだりしてゆっくりした後、カイは先程考えていたことをまた考えようとする。
そのタイミングでラウラがカイに話しかける。
「カイ、どのくらい強くなったか知るために模擬戦しよう」
「今は考え事したいんだけど...」
「今は模擬戦が先」
ラウラはカイのことを真っすぐ見つめる。その視線に根負けしたカイは椅子から腰を上げる。
「今いろんなことに混乱してるから、憂さ晴らしに全力で良い?」
「ん」
それだけ言うとラウラはローブを着て外に出る。その時のラウラの顔はとても嬉しそうにしていた。カイはラウラに続いて何も持たずに外に出た。
家から少ししたところで向かい合う。
向かいあった瞬間にラウラは杖を構えるが、カイは剣を構えない。
「剣は?」
「この前考えた戦い方があるからラウラに見てもらおうと思って」
そう言うと無手でカイが構え始めた。
ラウラはカイに一通りの戦い方を教えていたため、その中でも武器が無くなったときのために素手での戦い方を教えていた。
「(やっぱりカイは想像以上)分かった。石が落ちたら開始」
ラウラは落ちていた石を拾い上に投げる。その石はそのまま地面に落ちる。
落ちた瞬間にカイが自分の前に氷の壁を作り、ラウラは攻撃するための風を生み出し放つ。
ラウラが放った風は氷の壁に防がれるが、ラウラはそのまま風を弾丸の様にして撃ち続ける。それは、ウィンドバレットと言われる魔法だったが、一発一発が一般的なウィンドバレットとはレベルが違う威力で放たれる。そんな威力の魔法が撃たれるためカイが作り出した氷の壁はガリガリと音をたてながら削れていく。だが、カイは魔力を氷の壁に送り続け壁を維持する。
(持久戦?でも、このペースだとカイが先にばてるはず...。魔力感知しても壁以外何もしてない)
ラウラは疑問に思いながらも風を放ち続ける。
その状況が30秒ほど続くとカイが壁に魔力を送るのを止めた。そのため、氷の壁が音をたてて崩れ落ちる。崩れた瞬間にカイがラウラに接近するためにかけ始める。
接近戦をすることがカイの狙いだと見え見えのため、ラウラはカイが接近するのを防ぐためにカイに向かって風を放つが、カイはそれをジグザグに動いたり、急に止まったり、わざと遅くしたりして、動きに抑揚をつけることでそれを全て避ける。
そして、ついに接近出来たカイはラウラに向かって右手で殴りかかる。
嫌な予感がしたラウラはそれを杖では無く風の盾を作ることで防ぐ。防いだ瞬間に今度はカイが左手でラウラに攻撃しようとする。ラウラはそれを今度は杖で防ぐ。
ラウラがもし先に杖で防いでいて、今から来る攻撃を魔法で防いでいたらこの模擬戦はその場で終わっていた。
ガキンッ!と言うような金属同士がぶつかる音や、何か鈍器で殴ったようなドンッ!というような音はならず、ラウラはカイの攻撃を静かに受け止めた。
「...それがさっき言ってたやつ?」
ラウラはカイからの攻撃を杖で止めた。そのカイの攻撃は殴りだったが、その見た目が普通では無かった。
左手から肘にかけて氷で覆われており、そこまではミカとダンジョンで戦ったイモータルジェネラルの時に使ったものと変わらないが、確かな違いがあった。その違いが指先だった。手は爪を立てる形で氷に覆われており、それぞれの指先は刃物みたいになっており、それぞれが業物と変わらない切れ味を誇っていた。
「これが俺の考えた新しい戦い方」
「...風の盾で止められたと思う?」
カイはラウラの問いに答えなかったが、ラウラとしては答えが出ていた。
(魔法じゃ止められなかった...。)
明らかに普通の拳よりも貫通力があるために素手だろうと思って作った風の盾では止めることは出来なかった。
「こんなことも出来るんだよ!!」
そう言うとカイは杖を掴み、杖を奪おうとする。予想していなかったことにラウラは驚きはしたが、杖を離さなかったため取られることは無かった。
杖を取れると思っていたカイは油断していたため、ラウラが生み出した風をもろにくらい、ラウラから離れてしまう。
「...今のは杖が取られるところじゃない?」
「驚きはしたけど杖は離さない。離したらカイに勝つのが難しくなる」
ラウラは杖を構え直す。カイは左手だけでなく右手も同じ様に氷で覆い構える。
「勝つのは俺だよ!!」
カイはそう言うとラウラに攻撃するために行動し始める。
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