第58話
カイが動き出すのと同時にラウラが風を放つ。
今度は、回避するのを妨害するようにも風を多く放つ。先程のカイの動きを真似てわざと遅くしたものや、形を刃にした物も打ち込む。ただ、先程までは一発一発が当たったら終わりのような威力だったが、今度は手数多さのため威力が落ちていた。
カイは回避しようとするが、攻撃の多さに回避することが出来ずに体勢を崩す。その瞬間ラウラは今までよりも威力の強い風を3発生み出し、それを一発は直撃するように、残りの二発はカイが左右に避けたときに当たるように避けた先に当たるように予想して左右に放つ。
直撃してしまっては負けてしまうと分かっているカイは接近するのをあきらめ後ろに大きく跳ぶことでその攻撃を避ける。
地面にラウラの攻撃が当たった瞬間
ドーーーン!!
と轟音がすると2人の目の前に砂埃が舞う。
先程の様に隠れられて何か用いされると危ないと思ったラウラはその砂埃をすぐさま風で吹き飛ばす。
砂埃が晴れたその場にはクレーターが3っつ出来ていた。
「...全然近寄らせてくれないじゃん」
「懐に入られたら杖だと対処したくないから仕方ない」
「なら杖捨てたら?」
「さっきも言った。無くなったら勝つの難しくなる」
「そこは勝てなくなるじゃないの...」
お互い会話をしているが、次の攻撃のために2人とも準備を進めていた。
カイは動き始めると同時に小さな氷の壁を複数作れるように足に魔力を体力に溜める。
ラウラは自分の周りに風の弾丸や刃を体力に作り出す。普通ならば生み出した端から放つものだが、空中にそれをとどめる。
世にいる魔法使い達は魔法を空中にとどめるなどの維持し続ける魔法を2つ同時に使使う者はとても少ない。過去にシールドの魔法を発動しながらボールの魔法で攻撃しようとしたが、両方とも不発に終わった。それはそれぞれの魔法のコントロールがおろそかになり維持できなくなったからだった。つまり、精密な魔力コントロールが出来ないと魔法を同時に発動することは出来ない。そのため2つの魔法を同時に発動できるのは極一部の人しかいない。
それなのにラウラは自分の周り10個の魔法を維持していた。先程さらっとカイに向けて魔法を3発撃っていたが、それすらも出来る人が世界には数えられるくらいしかいないのにラウラは10個もの魔法を維持し、いつでも撃てる様にしていた。
「ちょっと多すぎない?」
「これでも足りない」
「十分すぎるって!」
カイは足に溜めていた魔力を使いそこら中に人が1人後ろに立てるくらいの大きさの氷の壁を作る。ただ、氷の壁を作るためにラウラのすぐそばの地面まで凍っており、接近するのが難しくなっていた。
だが、カイがその壁に隠れながらラウラに接近するために動き出す。普通ならば地面を凍った中で走り回ることはもちろんのこと歩き回ることも出来ないが、カイの適性魔法は氷炎である。そのため、足に炎を纏うことで自分か踏む部分の氷だけを溶かし走り回っていた。
ラウラは先程まで後ろに待機させていた魔法を魔力感知でカイの位置を確認しながら撃つが、壁に阻まれて当てることが出来ない。
そして、ラウラの一番近くにある壁の後ろにカイが来た瞬間、ラウラはクレーターを作った時と同じ威力の風を放つ。それに当たった氷の壁は簡単に砕け散る。砕け散る前に飛び出ていたカイはラウラまで一直線に向かう。
ラウラはカイに接近されない様に今さっき撃った風よりは威力が落ちるが、当たれば怯むくらいの風を、あの時と同じように直撃する一発、左右に避けたときのために左右に二発、合計三発撃つ。
普通なら先程と同じ様に後ろに避けるだろうが、カイは避けるそぶりもなくそのまま進む。
直撃する寸前でカイは氷で覆った手を自分の前でクロスさせることでラウラの攻撃を防ぐ。
そのままカイはラウラに近づき右手の爪で攻撃しようとする。
ラウラがそれを杖で防いだため、カイは左手で追撃をする。
もし相手がラウラじゃなかったらこれで勝負が決まっていたが、相手は師匠のラウラ。そう簡単に勝たせてくれる相手では無かった。
カイの左手に合わせるようにラウラもカイに向かって右手を出す。
予想していなかったカイは思考が一瞬止まるが、その流れのまま左手を出す。
カイの手とラウラの手がぶつかった瞬間「ガリガリガリッ」という音が鳴り響く。
その音の原因は、ラウラもカイを真似て自分の手を高速で回転する風で覆っていたのである。この音はその風がカイの手に纏っていた氷を削る音だった。
勝ったと確信したのと、予想していなかった出来事にカイは止まってしまう。
ラウラがその隙を見逃すはずもなく、カイの左手を掴むと腹に向かって蹴りを入れる。もろに入ったカイは膝をついてしまう。
「まだ、負けない」
ラウラがカイに向かって杖を向ける。
今回の模擬戦はラウラの勝ちとなった。
「まさか風を纏うなんて...。パクられた...」
「カイを油断させるなら一番だと思ったから真似てみた」
カイとラウラは先程の模擬戦の反省会をする。
「でも、氷を手に纏わせるのは良いアイデア」
「そうでしょ?前のダンジョン探索をしたときに手刀に氷を纏わせて戦ったんだけど、性に合ってる気がしたから今回ラウラに見てもらおうと思ったんだ」
「ん。とても良かった。左手だけのを見てなかったら確実に負けてた」
「その最初の攻撃を防がれたとき結構ショックだったんだけど...」
「あれは運がよかった」
「まさか最初の攻撃を魔法で防ぐとは...杖で防ぐと思ったのに...」
「嫌な予感がしなかったら杖で防いでた。それよりもいつ左手を氷で覆ったの?壁の後ろにいるときには魔力感知ではそんな動き感じられなかった」
「そうでしょ。ラウラにバレない様にゆっくりゆっくり作ったから。そのために最初攻めないで守りに徹したの」
最初の氷の壁を作った後、カイは壁を維持しつつラウラにバレない様にゆっくりゆっくり左手を氷で覆っていた。そして覆うことが出来たため。壁の維持を止め飛び出す準備をした。壁が壊れた後にジグザグに動いたのも避けるのと左手を見られないためという理由があった。
「正直あの時は焦った。急にあんなごつい手が出てくるとは思わなかった」
「ごついって...」
ラウラの感想にカイは笑ってしまう。
「やっと笑った。昨日話し合った後から笑ってなかった」
ラウラは昨日話し合ってからカイが悩み込んでいることが心配だった。
そのため、1回発散させた方が良いと考えたラウラはカイを無理やり模擬戦に誘ったのだった。
「悩むのは良いけど、悩みすぎるのは良くない。難しいこと程落ち着かないとダメ」
昨夜から混乱しており、冷静に慣れていなかったカイにとってこの言葉はとてもありがたいものだった。
「落ち着いた?」
「...うん。ありがとうラウラ」
この時のカイの顔はとても晴れやかなものになっていた。
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