第56話


「ラウラでも知らない?」

「ん。モンスターを作るなんて一回も聞いたことない」

「そっか...」


 結界を張り直し終わり、一息ついてからカイはラウラにオークファイターが作られたことについて聞いていた。

 だが、ダンジョン探索の時に見たオークファイターのようなオークファイターはラウラでも見たことが無かった。『ラウラなら何か知っているかもしれない』っと期待していたカイは肩を落としたが、ラウラと話し合えば自分達が分からなかったことが分かるかもしれないと思い、あのオークファイターについて話し合うことにした。


「ただ、そのオークファイターおかしい」

「おかしい?作られたならおかしいところもあると思うけど...」

「作られたからおかしいのはわかる。でも、それだとしてもおかしいところがある。どこだと思う?」

「うーん...」


 ラウラがおかしいと言ったことに対して、カイは何がおかしいのか想像もつかなかった。

 待っても答えが返ってこないと思ったラウラは自分の考えを話し始めた。


「昔『ダンジョンは外敵を返り討ちにするためにモンスターを生み出している』って聞いたことがある。カイが話したオークファイターは洗脳が無かったら戦える状態じゃない。そんなのがダンジョンにいるのはおかしい」

「戦える状態に無かったのは作られたからじゃないの?」

「かもしれない。けど、私がおかしいと思ってるのはそのオークファイターが、外で作られたならってこと」


 それを聞いてカイはハッ!した。

 今までモンスターが作られたことやローブ男達のことばかり考えて、あのオークファイターがどこで作られたかなど考えていなかった。


「...外で作ったオークファイターを洗脳してダンジョンの中に移動させたとか?」

「兵士が気づかずに素通りさせたことになるからありえない。それに、学園の関係者以外入れないならなおさら入ることが出来ない」


 ダンジョンの前にある検問所で検問している兵士は、それぞれダンジョンに近い都市の兵士が派遣されることになっている。そのため、カイがダンジョン探索で行ったダンジョンは王都が兵士を派遣していた。


「うーん...。あ、魔法道具マジックアイテムなら?」

「モンスターが魔法道具マジックアイテム使うことが出来るとは思えない。それに出来たとしても可能性は低い」

「いや、低くはないと思う。ローブ男達はたぶん逃げるときに魔法道具マジックアイテムで逃げたから、入るときも魔法道具マジックアイテムで入って来たっていう可能性はある。モンスターは洗脳魔法で命令して使わせたとか」

「逃げるときに魔法道具マジックアイテムで逃げたならなおさらありえない」

「そうかな...?可能性としてはあると思うけど」

「理由は2つ。転移系の魔法道具マジックアイテムはなかなか手に入らないレア物。レア中のレア。そんなのを3つも持ってるのは凄すぎる。集団で転移出来る物を持ってる可能性もあるけど、集団転移出来るのがあるなんて聞いたことない」


 過去にいろいろなダンジョンを探索してきたラウラだが、そんなラウラですら転移系の魔法道具マジックアイテムは持っていなかった。だからこそ転移系の魔法道具マジックアイテムがどれほど珍しいのかは他の人よりも分かっていた。


「ここまでだったらまだあり得る。でも、逃げるときに転移系の魔法道具マジックアイテムを使ったなら絶対にありえない」

「...魔力の問題?そんなに魔力が必要なの?」

「そう。転移する魔法道具マジックアイテムはどんなに距離が長くても一定の魔力を消費する。その魔力消費量はとても膨大。戦闘した後に転移したなら一回が限界のはず。それ以上は魔力が足らなくて転移出来ない」

「でも、片方は結構な魔力量だったよ?それにまだ余裕があったから集団で転移出来るのを持っててそれで逃げたとか...ん?それだったらおかしい...」

「どうしたの?」

「実は…」


 カイはラウラにダンジョン探索でのことを詳しく話し始めた。今までは遭遇したオークファイターのことしか話していなかったが、ローブ男達のことも詳しく話した。


「…っていうのがその時のダンジョン探索の内容」

「...それならなおさら集団転移の可能性は低い」

「うん。集団転移が出来るなら、ウォッシュの魔力があるから逃げられるのに男の魔力が減ってから逃げた。ってことは個々に転移する魔法道具マジックアイテムしかなくて、男の魔力量が転移出来るギリギリになったから戦うのを止めた...」

「そうだと思う」


 お互いの考えを照らし合わせた後、カイは目線を少し下に向け黙り込んだ。それを見たラウラはどうしたものかと疑問を顔に浮かべる。


「ウォッシュと戦うとき魔法を使わなかった」


 カイがぽつりぽつり話し始めた。


「ウォッシュに操られてたやつはほとんど魔力が残って無かった。あいつのせいだって分かってる。けど、もっと早く助けてればあんなに魔力が少なくなることは無かった」


 先程までは小さな声で聴いてほしそうに話す。


「もっと魔法を使ってれば、捕まえることも出来たかもしれないし、もっと早く助けることが出来たと思う」


「だから今度から危ない人がいたら迷わず魔法を使う」


 あの時魔法を使わなかったことをカイは後悔していた。だからこそ、今度からは魔法を使うとラウラに宣言した。


「聖国にバレたら大変なことになるかもしれないけど、見捨てることはしたくない」

「ん。面倒ごとが起きたら言って。助ける」

「いいの?」

「弟子を助けるのは師匠の役目」


 ラウラはドヤ顔で言いながらもとても嬉しそうにしていた。




「ここまでの話しをまとめると、オークファイターが外で作られた場合、オークファイターをダンジョンの中にいさせるには、オークファイターを洗脳で移動させたか、転移系の魔法道具マジックアイテムで入ったかの2つ?」

「ウォッシュっていうのが検問所にいる兵士を洗脳して中に入れたか。最後に、検問所の兵士がローブ男達と手を組んでいるか。この4つ」


 これを聞いたカイは4つ目は信じることが出来なかった。


「国がモンスターを作ろうと研究したってこと!?」

「可能性があるってだけ。それに国の一部が研究してるのかもしれない」


『国がモンスターを作る研究をしている』容易には信じたくなかった。

 国がこんなろくでもない研究を使う場所など、戦争以外にあり得ない。

 人とは違い、モンスターがいくら死んでも国にとっては痛手は無い。人の死人が出ない。このことだけで十分の利益がある。


「王国がそんなことしてるなんて...」

「問題はモンスターの作り方。たぶん、そんなに難しい物じゃない」

「...。作るのが難しかったら俺と戦ってるときに介入してきて倒されない様にしたってこと?」

「そう」


 作るのが簡単で、費用はほとんどかからない生物兵器。しかも、その生物兵器は死んでしまっても、簡単に作れるのだから控えがたくさんいる。

 そんなの敵国にとっては驚異でしかない。否、世界の均衡を崩す物だ。そんなのは問題しかない。

 考えれば考えるほどカイの目の前が真っ黒になっていく。


「落ち着いて。これは可能性の話しでしかない。実際は違うかもしれない」

「う、うん...」

「とにかく、お風呂入って、晩御飯食べて寝たほうがいい」


 その後、カイはラウラの言われてた通りに過ごし、混乱したまま1日が終わった。

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