閑話1-1:あの時の司祭が思うことは...


(今日は適性検査をする日だった。私はもう何年も適性検査をしてきた。私がこの地で適正検査を担当するも今日が最後だ。今日は私が2年前に体験したある出来事についてここに改めて書き記そう)


 司祭はそう思いながら過去に体験したある出来事を日記に書いていた。


(2年前の今日、それは雲一つ無い晴天の日だった。昨年と同じ様に適性検査の準備をし、あとは子供たちが来るだけとなった。私は問題が起きないよう、教徒の1人を前日に呼び出し、適性検査で使う紙に書かれた魔法陣が問題なく発動するか確認していた)


(私たち司祭は子供たちが触る魔法陣とは別に、地面に置いた魔法陣に乗り魔力を流すことになっている。この魔方陣に少量の魔力を流すことで子供の適性魔法を感知し魔法陣が書かれた紙に結果を記すのだ。そして結果が出たら子供に結果を伝え、再度乗っている魔法陣に魔力を流す。そうすることで結果が紙から消える。消えたら次の子供を呼びまた魔法陣に触れてもらう。この繰り返しだった)


(私は例年通り適性検査を行っていた。正直この時の私は適性魔法を複数持っている子が出てくることを願った。数年前に他の司祭と会った時に適性検査で複数の適性魔法を持つ子供が出たと自慢されたのだ。その司祭が自慢をする顔に私は怒りを覚えてしまった。適性魔法を複数持っている子が出てほしい。こんなに欲深いことを望んだせいなのか問題が起きた)


(その少年は周りと変わらない普通の子供だった。だが、実際に適性検査を始めるとどうしたことか、なかなか結果が出ない。それは数秒だったが私には長く感じた。ようやく魔法陣の光が収まり結果を見た)


(そこで私は驚く物を見た。紙に適性検査の結果が出ていなかったのだ。私は固まってしまった。適性検査で結果が出ない。つまり適性魔法が無い。このことを聞いたことはあったが実際に目の前で起こることだとは思っていなかった。私が固まっていると周りにいる人が「どうかしたのか?」と見に来た。私は心を急いで落ち着かせた。私は司祭なのだから結果を冷静に言わなければならない。だから少年に結果を言ったのだ。「き、君の適性魔法は......ない。君は適性魔法を持っていない」と)


(今でも覚えている。こう言った時の少年の顔を。忘れられるはずがない。固まっていた顔は一瞬で絶望した顔に塗りつぶされていた)


(そして、その少年の適性検査以外は問題が起きることは無かった)


(『私はあの子の人生を壊してしまった』と、あの少年のことを思い出すたびに思う)


(あの適性検査の時にいた教徒達はあの少年のことを覚えているだろうか?もし忘れていたとしても私だけは彼のことを忘れないようにしよう。それだけが私にできることなのだから)


 司祭は書き終えると、日記を静かに閉じた。


「あの少年はどうしているのでしょうね...」


 彼が呟いた言葉は誰かに聞かれることもなく、静かに闇に消えていった。

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